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第二十九幕・「タキ城へ」 其の一

「アギト様! ご無事ですか!?」


「デンジ。……俺は何とも無い」


 アガロ隊は、残してきたドウキ達の組と合流する途中、伝令係りのデンジと鉢合わせした。

 俊足の鬼デンジは息を切らしており、具足が傷付いている。


「一体何があった?」


「味方のシグル隊が、ゲンヨウ隊の奇襲を受けて動けないんです!」


「道理で援軍が遅れた訳ですかい……!」


 トウマが歯軋りした。


「ドウキの旦那達は!?」


「同じく奇襲を受けて混乱しています! ここは危険です! 今は戦線を離脱して、後に合流をするべきかと……」


「……分かった。デンジ!」


「はい!」


「ドウキ達に伝えろ! この先から南”イチヤ口”で合流と!」


「お任せ下さい!!」


「イチヤ口へ向かうぞ!」


 アガロは何としても父の首を城へ持って帰らねばならない。今、自分が出来る最善の事をしようと思い、戦線から離脱した。

 その後ろをトウマ達が必死で着いて来る。



【――イチヤ口――】



 イチヤ口は上ギ軍から下ギ郡へ通じる小さな隘路口。他にも道はあるが、ユクシャ県へ行くにはこれが最短の道であった。

 アガロ達はこの場で暫く待機すると、やがて一隊を率いた見慣れた顔の鬼が姿を見せた。



「おう、トウマ! 無事だったか!?」


「ドウキ、あっしの心配は要りやせん。無事で何よりでさぁ。……他の皆さんは?」


「オレ達なら此処に居るぜ?」


「コウハ! それにギンロまで!」


 如何やら無事だったのはドウキだけではなく、狼族のコウハやギンロもであった。しかし、防具はボロボロで傷付き損傷が激しい。

 デンジはへろへろに成っている。


「デンジ。大儀だった……」


「この程度の事、どうって事ありません!」


 アガロが彼を労うと、デンジは空元気を振りまいた。


「じゃあ先ずは状況の確認を……」


「待ちなさい!」


 トウマが切り出そうとするのを、リッカが遮った。


「何でやんすか、リッカ?」


「事情を詳しく話して貰いましょうか! アギト…あんた一体何者!?」


 彼女がその疑問を口にしたのは当然であろう。戦っていたとはいえ、副大将コサンとのやり取りを一部始終ではあるが目撃している。それは他の亜人達も一緒だ。


「実は…若旦那は……」


 トウマが口を開こうとすると、肩に手が掛かる。


「トウマ、俺が自分で説明する……」


「若旦那……。いいんですかい?」


「ああ、構わない……」


「じゃあ早速、聞かせて貰いましょうか?」


「ああ……」



【――半刻後――】



「ふ~ん。あんたって当主の子だったのね……」


「因みに俺は現当主だ」


「あらそう?」


「余り…驚かないんだな?」


「驚く必要が何処にあるのよ?」


「そ、そうか…」


 事情を説明し終えたが、リッカは然程驚いた様子を見せない。肩透かしを喰らった気分だ。


「じゃあ、これからは何て呼べばいいのよ?」


「アガロでいい。もうアギトと名乗る必要は無くなったからな……」


「じゃあ、早速だけどアガロ」


「様を付けろ。俺はお前の大将だぞ?」


「いいじゃない、今はそんな事。それで、あんたはこれからどうするの?」


 リッカは今後の方針を聞いてきた。


「父上の……、首を城へ持って帰る……。お前達は如何する?」


「おれ達は…そうだな……」


 ドウキ達は考え出す。彼等、亜人達は基本行く所が無い。

 軍団が離散した現状況では、路頭に迷う事になる。また、元の傭兵暮らしに戻るくらいしか、思い当たらない。


「お前達…俺に仕える気はないか?」


 悩んでいる所へ、アガロから発せられたのは意外な言葉であった。


「本気か……?」


「俺は何時でも本気だ」


 真顔でそう言われ、思わず返す言葉を失う。

 彼の提案は考えられない事である。普通亜人を、特に人から偏見と差別の対象として見られている、鬼を勧誘するなど有り得ない。


「どうしておれ等を誘うんだよ?」


「お前達は戦の経験が豊富だ。何かと頼りになる。それに、今後亜人を集めた時には、そいつ等の大将になって欲しい」


「だがよ……」


 未だに答えを渋る。いきなりの事に少々困惑しているようだ。


「どうしたんでやんすか? 迷う事はありやせんぜ? あっしも若旦那の配下なんですから」



 トウマに言われ、ドウキは成る程と妙に納得する。

 アガロは元々身分や種族に余り囚われない男なのだと、再認識した。もっと詳しく言えば実力主義だ。

 また、実力主義はユクシャ家のお家芸ともいえた。


 アガロの父・コサンも身分の上下を問わず、使える者は取り立てた。

 鬼のマヤを初め、多くの鬼達が城仕えをしている。

 姉のタミヤも同じく、下級の村役人だったナンジェ・カイを推薦し、城へ仕えさせた。


 そして目の前に居る現ユクシャ家当主。

 彼のこれまでに行ってきた振る舞いは、亜人が相手だろうと人が相手だろうと、関係ないといえた。

 現に忌み嫌われている、半妖のリッカだって強引に仲間にしたし、ゼゼ川の時には、自分やコウハ、ギンロに部下を与え、足軽小頭にした。



「良いのか?」


「他に考えがあるのか?」


「いや、無いな」


「今は無事に城へ着く事だけを考えておけ。返答は着いてから聞く……」


 ドウキは腕を組みながら、アガロと共にユクシャ県へ向かう事に賛成する。他の者達も意義は無しと頷く。

 それを確認すると、アガロは立ち上がった。が、思わずよろける。

 慌ててトウマとガジュマルが側へ寄った。


「若旦那、余り無理は……」


「大丈夫だ……」


「アガロ様……」


 彼は平気と言うが、トウマとガジュマルには酷く無理をしているように見えた。目がうつろで何時もの雰囲気が全く感じられない。


 正直アガロは酷く精神的にまいっていた。しかし今は当主として、そして一軍の将として、自分を頼ってきた部下を率い帰還しなければならない。この位の事では負けてはならないと、小さいながらも自分を厳しく律した。


「集まったのはこれだけか?」


「ああ、どうも他の奴等は逃げ出しちまった」


「オレの部隊も似たようなもんだ。たくっ! 根性の無え野郎共だぜ!」


 集まっている敗残兵はざっと見積もっても百そこそこ。殆どの兵は亜人であり、人間の兵士は数えるくらいしか居らず、おまけに彼等は負傷をしていた。


「どうして人の兵士が余り居ないんだろうね?」


 ガジュマルはふと疑問に思った事を口にした。


「そりゃよく考えてもみろ。おれ等亜人なんかが指揮する部隊へ、好き好んで一緒になって逃げる奴なんざ居ねえだろ」


「此処に居る亜人の殆どは、帰る場所が無え奴等ばかりだからな。他に行く当てがないから、取り合えず付いて来たって感じじゃねえか?」


 ドウキとコウハがざっくり説明すると、ガジュマルは成る程と頷いた。


「ですけど、これだけ居たら飯はどうするんですか?」


 デンジが質問したのは重要な事であった。食糧が無ければ動く事が出来ない。城へ帰る等不可能である。


「何とか確保はしてあるぜ」


「流石はドウキの旦那! 頼りになりやすぜ!」


 一安心。と、胸を撫で下ろす一同に気付かれないように、ドウキはアガロへ耳打ちした。


(ああは言ったが、実際の所、食糧は僅かっばかししかないんだ……)


(十分だ…此処で全員の気持ちを沈めては、帰るに帰れない……)


 ドウキが言うには確保した食糧は、ユクシャ県へ向かうにはどうしても十分な量ではないとの事。怪我人が居る分、進行速度は遅くもなり、道中必ず尽きると言う。


「行くぞ……。怪我人には手を貸してやれ」


「大将よ…あんまり無理はしない方が良いぜ?」


「俺は当主だ。立派な当主になると、……約束したんだ」



 アガロは先頭を歩き出す。それへ続くように、他の者達も歩みを進めた。

 一路、タキ城へ――――。

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