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母の舌  作者: 神川
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0.朝ごはん

朝食はハムエッグとコーヒーだけだった。


なんせ私が今作れる料理なんて、愛(犬。)の好物の目玉焼きと、私の好物のカレーくらい。

揚げ物なんてしようにも、煮えたった油が怖くてなかなか投入できない。


最近はコンビニのおむすびや弁当くらいしか食べてない。

自分がつくるご飯なんかより断然美味しいし何ら問題などないんだけど、


たまには人の味がするものが食べたい。・・・カニバリズムとかじゃなくってね。


思い出すのはお母さんの肉じゃが、シチュー。とんかつ・・・

所謂おふくろの味。

添加物なんて一切なくて、心から暖かいと感じられる料理。


でもお母さんはこの前癌で死んじゃった。

まだ65だったのに。



丁度一ヶ月前。

母の死後、美大生2年の私は相変わらず東京で一人暮らし、成績優秀高校1年生の妹は父と広島で家事も勉強もこなしながら二人暮らし。


妹の作る料理は、正直私の口には合わない。

決してまずいわけじゃないのだが・・・私は好きになれない。

コンビニ弁当を好んで食べてるくらいだから、別にグルメなわけじゃないのに。




朝ごはんを食べ終わったあと、ワンピースに着替えて簡単なメイクをし、彼氏にもらったティファニーのピアスとネックレスを付け、愛に行ってきますと言い、Leeのグレーのショルダーと、完成した課題の入ったカルトンを抱えて家を出る。


美大生ってのは荷物が大変だ。

私は日本画科なのだが、まず絵の具なんて家でも学校でも使うから常に持ち運ばなきゃいけない。

二セットも買う余裕などないので、大変。

カルトンも重い。


この状態で早朝ラッシュに乗り込むのは気が引けるので、気分によって歩きか自転車にする。

今日は天気がいいし気持ちいいので、早めに出て歩くことにする。


昨日は課題に追われて学校に遅くまで残り、仕上げを家でやってきたもんだからとても眠い。

好きなことでも、ずっとやってるとかなりキツいもんだ。

重いショルダーを肩にかけて重いカルトンを抱えているのだ、骨盤がかなり傾いているだろう。

実際絵を描いている時にも、猫背になりすぎて講師に笑われてしまった。あのハゲ許さない。


「美咲!」

後ろで私を呼ぶ声が聞こえた。これは・・・


「祐介!」

愛しの彼氏の祐介だった。

 まさかこんな所で出会うとは思ってもなかった。 嬉しい。

彼はカロリーメイトを頬張りながら此方によって来た。


「それ朝ごはん?」

「?そうだけど」

「もっと栄養のあるもの食べなよ・・・」

「何言ってんだよ、カロリーメイトは栄養満点なんだぞ?下手にパン菓子食うよりずっといいっつーの」

「・・・ふーん・・」


料理もできない自分にとやかく言う権利もないので、そのまま黙る。

祐介は彫刻科で、ツールはすべて学校に置いてあるので荷物が軽い。

だから、カルトンだけ持ってもらった。


彫刻科ってのはなかなか腕力がある。


「クマできてんじゃん。課題?」

「そーだよ。今日までなの。まだ出来てなかったの」

眠たい目をこする。本当にまだ眠い。

「彫刻は?」

「終わったよ。学校でしかできないから早めに終わらした」

「ずるい」

「ギリギリまでやらなかったお前が悪い」

私の頬をつまみながら言う。 傍から見たら只のイチャついてるカップルだろう。



徐に空を見上げる。ラピスラズリの岩絵具を溶かし込んだような、綺麗な青空だ。

祐介と話しながら歩くと、いつの間にかキャンパスの門についていた。

全国的に結構有名なM美大。施設はかなり整っている。私は家より気に入っている。


「じゃあ、また昼にな」

ぽん、と祐介は私の頭を叩き、彫刻科の施設へ行った。

今日は課題の講評の日。 ほんとに心配だ。


・・・日本画科の、ハゲの酷評はほんとに耳に痛い。

カルトンを持ち上げ、小走りでいつものアトリエに行った。





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