肆
近寄るに近寄れないものの一定の距離を保ちつつ追ってくる百鬼夜行を不本意ながら引き連れ、大内裏の向かいの神泉苑の門番を半ば突き飛ばし禁苑に飛び込んだ。
「曲者!ここは主上の――」
「おい、あれを見ろ!百鬼夜行だぞ!」
「大内裏のそば近くで不吉な!誰か陰陽師に知らせよ!」
百鬼夜行に門番が気を取られているのをいいことに私達は神泉苑の池のそばの茂みの中にもぐりこんでいた。
「百鬼夜行からは逃れたけど・・・・・・これまずくない?」
「夜が明けたら絶対人間に追われて私達が妖怪扱いだよ」
深いため息をつく私を瑞輝がつついた。
「ねぇ鸞、これ何の鳥の声?」
耳を澄ますと門番達の喧騒の中、すぐ近くでチッチッという細い声が聞こえた。
「声はアオジみたいだけど・・・・・・夜鳴くかな」
「あ、あそこにいた」
瑞輝の指し示す先にはスズメ・・・・・・ぐらいの大きさの小鳥がいた。闇色の翼なのにまるで光を反射するミヤマカラスアゲハの翅のように輝いて見えた。
その小鳥が二、三声鳴いてはこちらを振り返りちょんちょんと進むということを繰り返し始めた。いつの間にやら私達はその無数の闇色の鳥に取り囲まれていた。
「あれ付いて来いってことかな。・・・・・・付いていって大丈夫なのか?」
瑞輝が私と麻美ちゃんを振り返る。鳥の言葉なんて、ましてや妖っぽい鳥の言葉なんて分からないから本当はどう言っているのか知らないけど・・・・・・
「付いて行ってみたらいいと思うよ」
「私もそう思う。ここ曲がりなりにも神苑だし妙なものはいない・・・・・・と思う」
語尾に☆が付きそうなほど明るく言い放った麻美ちゃんの言葉に私も同意の言葉を続けた。
瑞輝を先頭に私、麻美ちゃんが続いて小鳥について行った。
しばらく歩いていくとそれまで規則的に聞こえていた小鳥の細い鳴き声が消えた。
一歩踏み出した瑞輝が驚きの声をあげた。私と麻美ちゃんも茂みから一歩踏み出す。そしてそこのあまりの明るさに、とっさに目が開けられなかった。
少し目を慣らしてから恐る恐る目を開くと、目の前には綺麗にライトアップされた二条城が聳え立っていた。
車や街灯、家々の電気といった街の光に照らされた平成の夜空は、平安の夜空を見た目にはとても明るく思えた。
「あれ、文字盤が戻ってる」
麻美ちゃんの握る時計の短針は「申」ではなく算用数字の「8」を指していた。
「さっきまでのはなんだったんだろう・・・・・・?」
後ろを振り返るとくぐって来たはずの茂みはなく、一目で苑内全てが見渡せるほどに小さくなった神泉苑の池にはただ一艘、一対のひげが生えた竜頭の舟が浮かんでいるだけだった。
読んでくださってありがとうございます。
この話は3割ぐらい、私が中学・高校生だったときの話が入っています。
どこが事実なのかはお楽しみで^^