参
〈あの娘達完っ全に自分達の世界にはいっとるの〉
〈もう我慢できんわい〉
百鬼夜行のうちの一妖がこちらに向かってその手を伸ばしてきた。
周りをぐるりと取り囲まれてしまっているため下がるに下がれず私と麻美ちゃんは顔を引きつらせる。その中で瑞輝だけがまるでハエでも追うかのように手を振った。
「今話中なんだよ。後にしてくれないかな。で、鸞、仮にここが花山天皇の時代だとして・・・・・・」
瑞輝は話しに重心を置いていて、無意識に手を振ったのだろうが、私達に手を伸ばしてきていた妖はその手が触れる前に自ら後方へ飛び退ったように見えた。
〈何じゃこの娘ものすごくくさいぞ〉
〈こっちの娘もそっちの娘ほどではないがくさくて近寄れんわ〉
私の横にやって来た妖は何かで私と瑞輝を比較しているらしい。他の一妖が麻美ちゃんに近寄った。
〈おや、この娘はそれほどくさくないのう〉
彼らはちょいちょいと手を伸ばしては麻美ちゃんに触れるか触れないかのところで手を引っ込めることを繰り返した。
「なんでこの人たち瑞輝や鸞ちゃんには近づかないくせに私には近づいてくるの!?」
確かにこの「くさいくさい」と繰り返す失礼な彼らは麻美ちゃんには触れそうなくらいまで近づくのに瑞輝には近寄ろうともしない。私も遠巻きにされてる気が・・・・・・。そこまで思い至ってはっと気付いた。
「お香だよ瑞輝! 伽羅のせいでこの妖たち瑞輝に近寄れないんだ!」
瑞輝もぽんと手を打った。ごそごそと伽羅の匂い袋を取り出して一つを麻美ちゃんに渡す。その瞬間、麻美ちゃんの周りにいた妖達が一斉に下がった。
「そうか、お香には邪を退ける力があるって言われてるよね」
「うん。で、伽羅が最高。このひとたち日本の妖だからラベンダーじゃあんま効かないのかも・・・・・・」
「「そうなの!?」」
とりあえずお香が効く限り今すぐ襲われるということは無いだろうけどいつまで持つのか分からない。百鬼夜行の数が段々増えてきているのも気になった。
「鸞、どっか妖怪が入ってこられなさそうな神社とか家とか知らないか?」
「この時代で妖怪が入ってこれなさそうなとこって言われても某陰陽師邸とか遠すぎるし・・・・・・あ、神泉苑とか?」
「神泉苑ってこの前修学旅行で行ったあの小さいとこか?」
「この時代はものすごく広かったはずなんだよね。・・・・・・禁苑だった気がするけど」
「禁苑じゃダメじゃん!」
「大丈夫、瑞輝が囮になって警備の人ひきつけてる間に私と鸞ちゃんで逃げ込むから」
「それ全然大丈夫じゃないから!」
漫才のような会話を繰り出しながら私達は一斉に走り出した。ちゃっかり瑞輝を外側にして。
「ちょ、私外側とか酷い!」
「瑞輝は伽羅三つでしょ。伽羅一つ+ラベンダーの麻美ちゃんと白檀+沈香の私よりきっと安全だよ!」
「〝きっと〟かよ!」
「ところで神泉苑ってどこ?」
麻美ちゃんの問いに一瞬瞑目して今の地図と昔の地図を重ね合わせた。中三の時の年間研究がこんなところで役立つなんて思いもしなかった。・・・・・・思ってたら逆に怖いかもしれない。
「ここを東に曲がって・・・・・・おわっ!?」
麻美ちゃんに勢いよく腕を引っ張られてバランスを崩しよろめいた。
「そっちは西だよ鸞ちゃん! 月見れば方角分かるでしょ!」
「・・・・・・あ」