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吾輩についてこれるか?

掲載日:2026/11/01

吾を讃えよ、人間どもは、吾を見てこう言う。


大きい。重い。おとなしい。まったく、三つしか言えぬのか。


吾らには鼻がある。


人間どもの小さな鼻とは違う。吾らの鼻は長く、手のように使える。


水を吸える。芋をつかめる。枝を折れる。匂いを嗅げる。仲間に触れられる。地面に絵も描ける。


鼻であり、手であり、管であり、道具であり、遊び道具でもある。


人間どもは吾らが基本しかないのに、よく我慢して生きているものだ。


吾らは食べる。とにかく食べる。


身体が大きいのだから、食べねば動けぬ。動けねば、また食べられぬ。


実に合理的な暮らしである。


だが、吾輩はただ食べているわけではない。


食べることは、試すことでもある。


この草は食べられる。この草も食べられる。では、こちらはどうか。


鼻で拾い、匂いを嗅ぎ、触れてみる。そして食べる。


吾輩は好奇心旺盛なのだ。


もちろん、吾輩の発想がすべて成功するわけではない。


以前、仲間が木の実を取ろうとしていた。鼻を伸ばし、懸命につかもうとしている。しかし、木の実は枝の上で揺れていた。


つかもうとすれば動く。動けば、また逃げる。


そこで吾輩は考えた。


木の実が動くから取れぬのだ。ならば、木の実を動かぬようにすればよい。


吾輩は鼻の先で、木の実をそっと押さえた。


仲間が、もう一度鼻を伸ばす。


今度はうまく取れた。


仲間は嬉しそうに木の実を食べた。どうやら、喜んでいるらしい。


なるほど。


吾輩の知恵が、ついに群れの役に立ったのだ。


まあ、木の実を押さえただけではあるが。


偉大な発明も、最初は小さな成功から始まるものである。


さて、吾輩は泥遊びも好きだ。


泥はよい。冷たい。身体にまとわりつく。


鼻でかき混ぜれば、すぐに動く。そして、吾らは草も好きだ。


泥と草を同時に味わえば、移動せずに済むのではないか。


我ながら、素晴らしい思いつきである。


吾輩は鼻で泥をすくい、その中へ草を混ぜた。


混ぜて、混ぜて、よく混ぜてから口へ運ぶ。


泥の味しかしない。


おかしい。


草は確かに入っている。


もう一度試した。


やはり泥の味しかしない。


泥に草の味がすれば、草を求めて移動せずに済む。どれほど便利なことか。


吾輩は歩く。


とにかく歩く。


水を求めて歩く。食べ物を求めて歩く。群れで歩く。


歩くには水が必要だ。それはわかっている。


だが、必要であることと、楽しいことは別である。


吾輩は考えた。


歩くのは、退屈ではないか。


そこで、歩かずに移動する方法を考えた。


誰かに引きずってもらえばよいのではないか。


ちょうど隣に仲間がいた。


吾輩はそっと近づき、その背中によしかかった。


これでよい。


あとは相手が歩けば、吾輩は歩かずに済む。


完璧な計画である。


ところが、隣の象は物凄い勢いで怒った。


耳を広げ、鼻を振り回し、こちらへ大声を浴びせてくる。


どうやら、協力を頼んだつもりが、敵対行動と受け取られたらしい。


解せぬ。


アイデア自体は悪くないはずだ。


問題は、頼み方か。


それとも、乗る相手を選ばなかったことか。


……まだ工夫が必要だ。


吾輩は頭がよい。


いや、正確に言えば、発想力が素晴らしい。


ただし、その発想の元が、少々怠惰なだけである。


歩きたくない。


食事のために移動したくない。


泥と草を一度に味わいたい。


どれも出発点を見れば、実に怠惰な考えである。


だが、偉大な発明というものは、案外そういうところから始まるのではないか。


面倒を減らしたい。


楽をしたい。


もっと効率よくしたい。


それを考え続け、試し続けた先に、群れ全体を変える仕組みが生まれるのだ。


吾らには耳もある。


耳を音を聞くだけでなく、暑い時には広げて熱を逃がす。


実に便利である。


吾輩は考えた。


この耳を羽ばたかせれば、飛べるのではないか。


試してみた。


飛べたのは、耳の裏についた鳥だけだった。


発想は悪くない。


まだ改良の余地がある。


そして、吾らの暮らしは食事と移動と睡眠の繰り返しである。


食べる。歩く。休む。また食べる。


どれも必要だ。


だが、優雅さが足りぬ。


そこで吾輩は、群れ全体を使った計画を思いついた。


吾らは大きい。


しかし、一頭だけでは限界がある。


群れの配置を工夫すれば、吾ら全員で、さらに巨大な生き物になれるのではないか。


吾輩は地面に線を引いた。


ここが頭。


ここが胴体。


ここが足。


ここが尻尾。


一頭ずつ配置につけば、吾らは大木を超える巨大な生き物になる。


吾輩は鼻で地面を叩き、群れに説明した。


ここに一頭。


その隣に一頭。


どうだ。


すばらしいだろう。


群れは黙っていた。


もしや、感動して声も出ぬのか。


そう思っていると、一頭が群れから離れていった。


また一頭が離れた。


さらに一頭が、こちらを見ないようにして離れていった。


なぜだ。


吾輩はまだ説明の途中である。


これは群れ全体の未来に関わる、実に重要な計画なのだ。


しかし、誰も戻ってこない。


もしかすると、まだ時期尚早だったのかもしれぬ。


吾らはまだ、この偉大な構想を理解する段階に達していないのだ。


あるいは、地面に描いた頭が少々小さかったのかもしれぬ。


耳を大きく描きすぎたか。


鼻を長くしすぎたか。


改善の余地はある。


だが、だからといって吾輩は思考をやめぬ。


今この瞬間に考えることをやめれば、それは吾輩にとっても、群れにとっても、未来の群れにとっても、大きな損失となる。


吾輩と群れの次なる指導者が誰になるかは、まだ決まっていない。


だが、吾輩以上にふさわしい者はいないだろう。


立候補者がいないのではない。


吾輩以外を候補に入れる必要がないだけだ。


何しろ、これほど先を見通し、群れの未来を考え、日々新たな発想を生み出しているのだから。


木の実を押さえてやった実績もある。


……まあ、今のところは、隣の一頭に乗ろうとして怒られ、泥に草を混ぜて失敗し、耳を動かしても飛べなかっただけである。


それでも失敗ではない。


次の発想のための、貴重な資料である。


吾らは大きい。


重い。


そして、おとなしい。


だが、それは人間どもが勝手に決めた印象である。


吾らは食べる。


歩く。


遊ぶ。


鼻で木の実を押さえ、泥と草を混ぜ、仲間に運ばせようとし、耳で飛ぼうとする。


群れ全体で巨大な生き物になろうともする。


吾らは象である。


大きく、重く、賢く、怠惰で、まだ誰にも正しく評価されていない。


そして、誰も思いついていない何かを考える。


時代が吾輩に追いつく日は来るのか?


まあ、そう簡単に追いつかせぬがな。

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