第六話 腹の膨れた猫 壱
ちょっとこれから重い話が続きます。
発生時刻8 :31分。
教師が教卓に立ち、いつも通りのHRが始まろうとしていた。
その時、黒い目出し帽を着けた男達が教室に侵入、銃口を生徒に向けるよりも速く──
二本のナイフを男の正中線に投擲する。
一本目は喉へ。二本目は心臓へ、的確に狙う。男は断末魔を上げる間もなく、崩れ落ちた。
制服の裏地に仕込んでいたナイフは六本。残り四本だが、他の連中は捜月が倒してくれるはず。
「衣明、俺の傍から離れないでくれよ」
「私はここに残るからさ、他の人達を助けて上げて?」
「いや、俺は──」
その時、ドアから捜月が顔を出す。
手には大鎌を携え、身を包む黒いローブを羽織っていて、血腥く鼻につく。
「やっ!零人、すまんが交代」
「どうしたの?」
「彼奴ら俺にビビって姿を現さない。正直、逃げてもいいが、助けないとだしぃ」
「──じゃあ全員、伏せてここに居てくれ」
クラスメイトに指示し、ドアへと歩みを進めようとした瞬間、地面が大きく揺れ動く。
──結界を貼った理由はこれか……。
死体に突き刺さったナイフを抜き、ポケットに入れていたハンカチを取り出し、血に染まった刃を拭う。
廊下に出ると、異変に気付く。赤霧が窓を覆い、廊下は予想外に人影はなく、静寂だけがあった。
──なんだ?静か過ぎる……。
足音を殺し、五感を研ぎ澄ませ、他クラスを一つ一つ確認する。
だが、誰も居ない。
人気がないんじゃない……、人が居ないんだ。
そもそも、この高校には俺の他に四人──七家がいる。他三人は学校にいる事は少ないが、俺はでかい事件に関わらない限り、通常生徒と登校頻度は変わりない。
と言う事は、奴らは俺を倒す算段を保有している可能性が高い。
「……出てこいよ。お前らの目的は、俺を殺す事だろ?」
「半分正解で、半分不正解。貴方を殺して《《歌姫》》を攫う。でも、今回は化け物が来ちゃった……」
零人の眉が僅かに動く。
「衣明か……」
「そう──、奴の能力さへ手に入れれば世界は《《変わる》》ッ!!」
「この人はどうするの?長引きそうだけど」
「まぁでも、コイツを殺すのは確定事項だろ。首から上は傷付けるなよ」
意外にも目の前に現れたのは、黒い学ランを羽織った大学生程の男と、近場のお嬢様校の制服を着た中学生。
少女に武装はなく、異様な所はない。ただ一つ──、
制服の下。
不自然に膨らんだ腹だけが、零人の理解を拒んだ。
────そして、その膨らみが微かに、動いた気がした。
「まさかっ」
脳裏に、最悪の予測が過ぎる。
その時、周囲に異変が起きる。赤で染まった窓が青で満ち、少女の能力が発動する。
二体の金魚が顕現し、軌跡が波打ち衝撃波を放つ。
────やりづれぇ!俺の能力、コイツら対策してきやがった!
零人の即・吸収は、対象を意識的に触れなければならず、二度の衝撃を一度に吸収する事は不可能である。
衝撃波が零人の皮膚を裂き、血が勢いよく飛び散る。
窓ガラスが赤黒く染まり、ゆっくりと滴り落ちる。
膝を地面につき、喘ぐ。
呼吸を整え、零人は着けていた眼鏡を投げ捨てる。
瞬間、零人の瞳には、常に青い残像が鮮明に映る。三秒先、未来の動き全てが。
金魚が大気を泳ぐ。
その軌跡の先に、青い影が走る。
──そこに、衝撃波が襲う。
未来の残像が、別の軌道を示す。零人はナイフを振るい、第二波を体を曲げ回避行動を取る。
だが、攻撃を避ける事が出来ず致命的な一撃を受ける。
腹が大きく裂け、血が弾ける。
制服が裂け、腹筋が深く断ち切られた。熱い血が指の隙間から溢れる。
致命傷は避けられたか。だが──、殺して良いのか?罪のない腹の子供までも。
「じゃあ、君一人で勝てそうだし僕はあの化け物片付けて来るよ」
「リーダーがやられたのに、大丈夫なの?」
「は?彼奴はお飾りだろ。お前は僕の言うことを聞いてれば良いんだよ」
「……うん。わかってるよ」
大学生らしき男が、階段の方へと進むも、今は止めることさえできない。
────切り札を出すか?ああ、このタイミングが良い。相性の悪い相手、タイマン。
人差し指と、中指を重ね合わせ印を形作る。そして
「異能結──ッ!!
突如、空間が罅割れ砕け散る。
結界が──崩壊する。
直後に零人含め、少女の足元が消滅する。二人が重力に従い落下。
────あの男の気配が消えた?捜月かっ!
零人は壁にナイフを突き刺し、衝撃を和らげ着地する。が、喉から血が溢れ吐血する。
授業中だったのか、一人の悲鳴で教室は一斉にパニックに陥った。
先程までの廊下は消え、視界に広がるのはいつもの教室。
2メートルを超える金魚。
教室の天井を泳ぎ、ギョロギロと人間の眼球に酷似した瞳が生徒を見詰め、歯茎をむき出し、牙を生徒に突き立てる。
青い残像よりも速く、地面を蹴って生徒を庇う。
牙が肉を裂き、右肩を貫通する。鈍い破砕音が響く。肩の骨が内側から砕け、あり得ない方向へと折れ曲がった。
激痛が神経を焼き、膝が落ちる。
「あがっ……!」
脱力感の中、ナイフを金魚へと突き立てる。緑色の鮮血が飛び散り、赤ん坊似た声を発する。
「異能──《反転》。反転した力」
それと同時、刃からエネルギーを放出する。強烈な破裂音と共に、金魚──異獣の内蔵が教室を緑色一色へと変える。
「一匹目……はぁ……はぁ……!」
「手こずらせやがって──っ!!」
もう──、躊躇しない。あの斬撃がもう一度放たれたなら、俺の肉体一つじゃ全員は守り切れない。
「ヒッ」
少女の悲鳴に呼応するかのように、金魚型の異獣の腹が膨れ上がり、二つの透明な卵が放たれる。
宙で孵化し、更に二体の異獣が姿を表した。
零人は右足を踏み込む。変幻自在のエネルギーをナイフに込め、異獣へと投擲する。
金魚の眼前に迫る刃が灰色に輝き、轟音と共に爆ぜる。
それと同タイミングで零人が地面を蹴った。
──生徒が怪我しても後遺症が残らない程度に留めた!だが、直撃では消滅は避けられない!
「《反転》、コレで勝利確定だッ──!!」
渾身の一撃を、蹲る少女へと振り下ろす──、瞬間
────少女の腹が不自然に蠢いた
結界崩壊理由
大学生の男があの空間から消えた瞬間、運悪く捜月の視界に入り、即座に蹴りを放ち頭を潰されてます。
だからあの男の結界型の能力が強制解除され、クラスに投げ捨てられたのです。
用語解説+設定解説 ソードレイン
簡単に説明すると、ペットボトルのキャップを持つと、ボトル部分でかめはめ波や月牙天衝を無効化し、変幻自在のエネルギーとて自身に蓄えられます。
そして、自身で生み出せる異力・魔力・霊力等の力に変換したり、逆にこの三力をエネルギーに変換も可能。
弱点として、意識して受け止める。連続釘パンチのような一撃に見える連撃は、意識してないので普通に突破されたり、二方向の同時攻撃は吸収が無理だったりします。
そして貯蔵限界があるので、それを超えたら致命的なダメージとして返ってくるので、万能ではないです。
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