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第五話・赤の皇帝

捜月の戦闘回です

 ────機密情報。



 発生時刻 : 8 : 30 HR開始時間

 東京都新宿区 私立星宮高校にテロリスト集団村雨が校内へ侵入。



 ────時に、人はネジが外れた失敗作が生まれるらしい。



 私はその自覚がある。川に流される肉塊に、大人は視線を移す事さへせず、日常として割り切っている。

 私も小さい頃は良く、石を投げていた。



 でも、今は違う。視界に入る度、思考回路が衰えて往くのを感じる。

 感情の整理が出来ず、常にモヤモヤとしたモノが胸に蛆のように湧いて、脚を引っ張る。



 この世界で、何か大きな事をやり遂げてみたい。これが私の生きる──原動力。だがこの世界には──



 ──積み上げられた物が多過ぎる。



 視界に広がるのはビル郡、商店街、学校、様々過去に誰かが積み上げてきた象徴が点在する。

 凡人の私には──いや、違う。万人のフリをし続け平凡を演じる事に必死な、ただの無能には何も成せない。



 何か一つでも、成し遂げられる事があったら良かった。趣味の小説、音楽、好きな事ですら全てにおいて他者より下。

 生まれながらに貧弱で、骨も薄ければ喘息もある。長生き出来ず、死に怯える弱者。



 だがそれでも、何かにならなければならない。



 そう思わないとこの世界で生きていけないし、瞬きの一瞬でも、瞳を閉じるだけでナニカに追われている様な気がして落ち着かない。

 常に憂鬱で、いっその事のこの感情が武器になればいいなと、ふと思ったことがあった。



 そんな時、私はある人と出会った。



『とても浮かない顔をしているね。目の下に隈が出来ているよ?』──その声は穏やかで、常に霧で覆われた脳味噌が晴れた気がした。

 白衣を着た初老の男性。今でも良く覚えている。



 特徴的だったのは、長く透き通った灰色の髪。そして、この人が喋ると私の『意識』が集中する。雑踏など、無かったかのようにピタリと消えた。



『なるほどね。悩んでいるのかい、君は』



 あの人は私の悩みを聞いてくれ、適切に相槌をうってくれた。

 山で見た、半裸の子供の死体。

 川で流れる未熟達。私の劣等感に、悩みの数々。

 そんな歪んだ世界を、私は目にして来た。



 そんな事を、初老の人には話す事が出来た。血の繋がった親ですら、こんな話をしないと言うのに。



『だったら、君に力をあげよう』



 上空3000m。

 重たい雲の層を抜け、輸送機は東京都上空を滑るように飛行する。

 機体後方、鉄製ハッチの前に青年一人が歩みを進める。

 


 白い髪が僅かに揺れる。

 制服を整え、梅柄のネクタイを緩める。能力で用意した黒子が、銀色のナイフを手渡す。


 紅井捜月。

 御大七家当主の中で──最強である。



 操縦士から連絡が入る。


「降下地点まで残り二十秒。高度三千。風速やや強めです」


 淡々とした報告。

 捜月は窓の外をちらりと見た。

 雲の隙間から、豆粒のような街並みが見える。


 その中心にある広い校庭。そこが今日の戦場だった。


「おいおい、校庭に居るのかよ……そんなの、俺たち七家と殺り合う前提って語ってるもんだろうが」

「捜月様。準備は大丈夫でしょうか?パラシュート等は」

「大丈夫。要らない」



 部下は戸惑いの声を漏らすも、予定通りの行動を取る。



「ハッチ、開けます」


 次の瞬間、重たい金属音が機体内に響いた。

 ──ガコンッ。

 後方ハッチがゆっくりと開閉、凄まじい風が機内へと流れ込む。



 轟音。空気が唸り、剥き出しになる外の世界。

 落下地点は、遥か遠くに広がる都市。


 足元に広がる世界を見詰めながら、紅井捜月は呟く。


「さてさてさーて、んじゃ行ってくるわ!」


 機体の縁へと歩く。

 強風が白髪を激しく揺らす。冷たい赤い瞳の瞳孔が、猫のように鋭く殲滅対象を見詰める。



 七家の上位層以外は、ここに立つだけで足が竦むだろうが、紅井捜月は違う。

 両の手をポケットに入れ、視線を下に移す。


「さぁ!殺り合おうか!博愛主義者共!」


 紅井捜月は躊躇なく、空へと身を投げた。


 遠去かる輸送機。それとは対比的に、近づく地面。そして何より、体を掴んで離さない重量。

 落下。青い空が裂けるように、彼は重力に従い地面へと落ちて行く。


 ────ああ、風が心地いい。


 落下中。捜月は一本のナイフを取り出し、右手に突き立てた。

 刃が皮膚を貫き、勢いよく鮮血が弾ける。

 落下の風に煽られ、血は後方へと尾を引く。



 少し顔を歪めながら、捜月は貼り付けの笑みを浮かべる。

 宙で霧散する血が、空中で凝集する。直後、それは形を変え片翼へと変化を遂げる。

 赤黒く、それも巨大な蝙蝠の翼が、捜月の背中で大きく広がった。現代に於ける恐怖の象徴、吸血鬼(ヴァンパイア)は固有能力を四つ持つ。



 一つ。吸血鬼を恐れる存在が居ればいるほど、全吸血鬼が持つ《基盤》全ての性能を向上させる。



 グラウンドにいる者、全員の危険信号が脳裏に貫いた。



 本来、異能者の身を包むエネルギー、異力が他者を包む事はない。

 だが、悍ましい異力が世界を包み込んだ。それはかつてなく禍々しく、生命が感じるには到底本能が、理解が追いつかなかい気配が──静寂を支配した。



 主に、身体能力を向上させる《強化術》の使用で全身から立ち上る事はあれど、彼の様に周囲を包む莫大な異力量は異例である。



「なっ、今日は居ないはずだろ!?」



 一人が吠える。当然、この殲滅作戦前に行われた事前訓練は、対人間に特化させたものだった。

 だが──怪物は彼等の想定外。

 見上げる空には、確かにあった。地上に居着した人間が、必ず知識と肉眼で心に焼き付ける──、


 ──《太陽》──。



 青春を連想させる夏の青空も、存在しない。天を仰ぐとそこには、本来存在しない幻想的な紅き月があった。

 血の様に宙は黒く、無数に輝く星々の如く展開されてゆく魔法陣。



 それら一つ一つが輝きを放ち、魔術体系の原則に従い、ゆっくりと回転を始め機能する。



 天と地。

 距離にしてまだ1200mあったが、異能者二人、目を合わせ視線が──重なる。

 見下す夜の怪物。対して見上げるのは、体や瞳を震わせる青年。

 それは恐怖か、それとも武者震いか。本人にも理解できないが、彼の瞳に初めて視認される《怪物》は幼かった。



 彼、紅井捜月の肉体は現在、13歳の時点で仮死状態で留まっている。

 それ故に、彼はまだ声変わりも終えていない。



「……化け物がっ」

「第一部隊、防御陣形。敵が何であろうと、我らの思想に地を伏せさせる!」



 目の前の五人が杖を構え、魔術防壁を展開する。

 自身の視界に広がる、12枚の六角形型の防御術式。計算上、一枚でもナパーム弾の直撃さえとものともしない防御性能を誇る。



 対して捜月は、血で形作った大弓を構え、一本の矢を装填する。

 白い髪が激しく揺れ、制服の裾が翻る。



 弓身は彼の身長より遥かに長く、黒い弧を描いて鏃を地上の標的へと向ける。

 落下速度はすでに人間の限界を越えている。それでも彼の腕は微動だにしない。



 弓を引く。

 左腕が背後へ引かれ、弦が軋んだ。

 地上までの距離──1100mジャスト。



「──九つの毒牙(ヒュドラ)ッ!」



 人間ならば、不可能と言っても良い神業。だが、紅井捜月は人知を超えた超生物。

 それでも、彼の技術を再現できる吸血鬼は存在しない。


 弦が限界まで張り詰める。一瞬、世界から音が消えた。


 ──バンッ!!瞬間、乾いた破裂音。


 血の矢が放たれる。

 空気を裂き、赤色のオーラを纏った攻撃は九つの蛇へと分かれる。


 物理法則を踏み倒し、一瞬足りとも減速する事なく、ソニックブームを起こして防御術式へ突撃する。

 直後に轟音。土煙が校舎を超え、天高く巻き上がる。



「くっ……!」



 鼓膜を裂く衝撃。防御術式では相殺仕切れず、衝撃波によって地面へと叩き付けられた。

 胃がひっくり返る。

 喉から血が溢れ、天地の感覚が歪み視界が波打つ。胃が痙攣し、腹の奥から吐瀉物が這い上がる。



 ────なっ、、なにが、何が起きたっ?!!



 震える脚を叩き付け、無理矢理にも立ち上がる。

 ここで倒れ、地に伏せて居れば命は助かるかも知れない。でも、それは今までの自分と同じだ。



現状維持(脳死)を続ける支配者がっ!」



 上空500メートル。


 溜息混じり呟く。彼の顔に、既に貼り付けの笑顔はなかった。

 あるのは、憤怒の瞳を覗かせる姿だけだった。



「力を手にして、最初にやる事が人質入手な時点で、どれほど崇高な結果を遺そうが、クソだろ」



 ──確信した。

 七家(彼等)に、人の心はありはしない。あるのは、機械的な思考回路だ。

 分かるはずがない。凡人が見上げる光景も、見下される肉塊さえ見えちゃいない!



 ────弱者救済。



 私はそんなヒーロー思考ではない。

 常に弱い者に手を伸ばす訳でもなく、見詰める事もなく、視線を外す事しか出来なかった。

 今は、違う。私は──その人間の醜さこそが、尊ぶべきモノだと思ったのだ!



「博愛主義、何と私の事を言われようが、私は救う!この世界を平等に!」

「お前は海星(ヒトデ)か?人の形をしている癖に、脳がねぇのか?」



 上空450メートル。


 足場もなく、重力に従い落ちるしかない捜月だったが、突如彼は姿を消した。

 ────有り得ない。秘匿され続ける魔術の中に、瞬間移動系統があるのか?いや、だとしても現れたのは一つ、それも一瞬……。

 思考回路を限界まで回転させる。その時、ある事に気付く。



 ──何故、奴は魔法陣を展開した?



 更に、先程の矢の攻撃を連発すれば、私達は肉塊になっていた。周囲の被害を想定した?

 ならば納得は可能だが、あの魔法陣──っ!まさか!!



 夜空を見上げると、周囲の異変に心臓が跳ねる。

 赤き霧が視界全てを覆う。そして耳元から囁き声が聞こえる。



「全てを愛す方法を教えやろうか?」



 反射的に背後に裏拳を放つ。だが、手応えはない。そこに誰も居らず、漂う赤い霧だけだった。

 無音。聴こえるのは──己の心音のみ。



 思わず背後に一歩、後退る。その時、足に嫌な感覚が触れた。

 恐る恐る視界を足元に移すと──、視界には仲間の生首。



「野村っ……」


「巫山戯るな──っ!!」



 脚を液体金属に変化させ、回し蹴りを放つ。

 地面を大きく抉り取る。

 だが、赤い霧は濃さを増し揺れる。



 ──静か過ぎる……。



 鼓動が速い。息が浅く、肺が酸素を取り込めない。

 指先が震える。止めようとしても、止めることが出来ない。



時間切れ(ゲームオーバー)



 宙に舞い上がる一人の死神。三日月型の刃が月光に照らされ、深紅色に輝く。

 大鎌を構え、彼は呟くように、無機質に、抑揚などなく彼は発した。



 ────「狂気的殺意(ジャックザリッパー)



 孤独月を背に、天から落ちた幼い死神は大鎌を青年の首へと振り下ろす。深紅の一閃が、漆黒の夜空を裂いた。

 ゴトンッと頭部が転げ落ち、身体も遅れて地に伏した。



 ダラダラと傷口から大量の血液が流れ、地面を赤黒く染めてゆく。

 水溜まりを踏み付けるが如く、気にもしない死神は校舎へと歩みを進め始めた。


如何でしたでしょうか。この世界の中で、割と上澄みの捜月の戦いは。

テロリスト編では、捜月や黒兎の能力は豪華客船編をお楽しみ。

良ければ感想、ブクマよろしくお願いします。


用語解説 強化術

異能者、異力を持つモノなら誰でも後天的に習得できる技術です。

術者の出力が高ければ、分厚い鉄板を貫通したり、異次元な動きができます。

シンプル故に極めるのは難しく、例えるなら卵かけご飯を極めるイメージでしょうか。

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