第一話君から貰ったモノ
異能者が“処分される”世界で、
それでも誰かを救おうとする少年の物語です。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
過去に書いてた奴のリメイクです。
夕日に染まる河原を一人歩く。
なんの変哲もない川だが、この世界でなければだ。
川草を掻き分け、小さな体が流れに揺れている。胸元には、異能因子反応ありの印。
いつものことだが、目を背けたくなる。
小さな子供達が石を投げ、一つ命中したのか──川底へと沈んで行った。
「クソが……子供も大人も変わんねぇな」
目を逸らす。
だが、この世界では至極当然な常識で、当たり前の景色だ。
「……帰るか」
そんな独り言が終わった直後、大きな着信音が河原に響く。
二つの携帯の一つ。着信音からして仕事の連絡だろう。
『もしもし?灰神零人様でしょうか?至急、指定するコンビニに来てください。お待ちしております』
ブツリっと目的だけ伝えられ、即電話を切られてしまった。
これも良くある事だ。まぁ、養子だしな。
メールで送られて来た座標に走って向かい、コンビニへ僅か5分弱で到着する。
そこには機動隊がコンビニ出口を囲む様に封鎖し、警戒態勢を崩さず散弾銃を構えた6人は俺が到着してなお視線を少しも外さない。
隊長らしき人物がこちらに歩み寄り、現場状況などの説明をしてくれる。
適切な説明、見せられた資料で思っていた以上の被害である事が分かった。
二週間前、異能者一時的保護施設から二名の脱獄者の連絡があった。
施設職員の三名が殺害され、負傷者十名以上の大事件になった。まぁ、隠蔽されてニュースにはならなかったけど。
「やつの能力は氷雪系、厄介ですぜ」
「ああ。ここに来る前の被害を見れば、厄介なのもどんなにヤバい状況なのかも分かるよ」
仕事場に行く最中、カチカチに凍ったコンクリートの地面や建物があった。そしてコンビニ周囲に降り積った雪に、数名の機動隊員の死体。
生きたまま腹に氷の槍で貫かれたのか、悍ましい死に顔をして凍っている。それは──流れる鮮血までも。
「ちょっと!灰神様!生身は危ないです!」
心配する声を無視し、盾を構える機動隊員達を退けゆっくりと入口の方へ歩み寄る。
自動ドアが開くと同時、視界一面を埋める氷塊が勢い強く迫る。背後から驚きの声の中、
「さてさて、こっからは俺たち御大七家の仕事だ」
国家すら例外とする存在。それが、御大七家。
右腕を振るう。袖口から滑り出たナイフを掴み、振り抜く。
青年、灰神零人が桜の花弁を纏い、巨大な氷塊を砕いて魅せる。この一撃で凍り付いていた空気が柔らかくなった。
黄色い歓声。機動隊員の警戒が緩む一瞬、その隙を少年の足元が凍り、氷を生み出し続ける事で高速移動を試みるフードを被った少年が横切る。
この行動は既に《《未来を読む瞳》》に映し出された光景。その隙をこちらも見逃すはずもなく、回し蹴りを少年の腹へと直撃させる。
少年は吐瀉物を撒き散らしながら吹き飛び、食品棚へと体をぶつけると気絶したのか動かなくなった。
「ほいっ……と」
異能者が気絶した影響を受け、氷や雪が蒸気となって消え去る。
安全確認のため、店内へと俺が先行して入店する。
そこには少女一人と、怯えた店員二名のみ。一件変わった所はない。ただ一つ、少女は人形の様にこちらを見つめ、異様な雰囲気を放つ。
その奇妙な気配はどこか、神域に踏み込んだ時の様な感覚に近い。
「き、君は一人なの?」
「私《《一人》》だよ?」
無機質な声色に違和感を覚え、普段なら距離を詰める所を2メートル強は距離を置いて会話する。
なんとも言えない空気が流れ、数秒の静寂を打ち破ったのはトイレから出てきた和服の男。
髑髏や百足が描かれた着物。ソレに身を包む男のイカれたセンスにもドン引きだが、仄暗い灰色の髪はまた異質さを覚える。
男を一言で例えるのは《《妖艶》》だろう。
「黒葉、なんかでかい物音がしたが……」
「は、はは……」
────こ、この状況下でトイレで何も気付いてなかったのか……はは、はぁ……、、、
「……怪我はなかったですか?」
「うん。私はないね。ありがとう」
「同じく。無事だ。助かったよ」
意外にも普通の返答で調子が崩れるも、感謝しているのは伝わり──少し照れくさい。
笑顔が零れてしまった時、黒葉と呼ばれる少女の問いで表情が強ばった。
「おにぎり食べてた子、可哀想だね……。貴方も、そう思わない?」
「……そうだな。でも、人を傷付ければそれなりの代償は払わされるさ。いや、社会もか」
「はははっ、すいません。行くぞ黒葉」
黒葉と呼ばれる少女の頭を撫で、着物の男は俺へと軽く会釈してコンビニを出ていった。
二人の気配に何も言えず、ただ見詰めるしか出来なかった。
「もう安全だ!確保してくれ!」
そう声をかけるとゾロゾロと機動隊員が店内へと移動し、手錠や拘束具などで少年を無力化する。
警察達が少年を連行中、騒ぎを聞き付け集まった野次馬達が、聞くに耐えない罵詈雑言を吐き捨てる。
怒号が支配する状況は何度も見てきたが、慣れる気がしない。
犯罪者とは言え、年齢は片手で足りる程度。それも施設内の異能者の扱いを知れば、殺人事件にさえ同情の余地はある。
「はぁ。帰るか家に」
遠い遥か古の時代からこの世界には差別されるモノがある。それは──《《異能者》》だ。
様々な差別があれど、これに関しては何百年経とうと消えることはない。
昔は肌の色だの出身だので争っていたらしい。だが今は違う。異能を持つかどうか、それだけだ。
異能者が持つ《異能》は決して取り上げることの出来ない能力だ。簡単に言えば、常に拳銃を武装している危険人物達から、武器を取り上げる事ができないのだ。
「どうして、分かり合えないのかねぇ……」
居心地が悪く、現場を後に帰路に着く。
七家がやって来た世界秩序は間違ってはいない。世界は戦争はなく、常に安定はしている。
──けど、この世界を素直に肯定出来ない。だがら、俺は少なくとも、手を差し伸べられる異能者も助けたい。
世界は正しい。世界は、沢山の屍の上に犠牲に成り立っている。
でも、俺が目指したかった、あの子のヒーローと《《同じ》》だろうか?殺して、傷付け合って、死体をまた埋める。
あの子が見たら──笑ってくれないだろうなぁ。
そんなことを思いながら、俺は帰路についた。
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