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03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 41』

〈梗概〉大航海時代末期、英国冒険貴族ファミリーが織りなす新大陸冒険活劇。掌編連作。今回はロデリック氏の幼馴染レディー・ティターニアの海洋冒険譚。

     41 (思いやり)


 ――レディー・ティターニアの日記――


 乗員一五〇人、五五〇t級ガレオン船〝ヴィクトリー〟。

 船で唯一自然光が入るのは船尾楼〝アフトカッスル〟です。なので椅子やテーブルを備えたお部屋・士官室〝オフィサーズ・メス〟に、海尉、航海長、船匠といった上級乗組員が詰めておりました。一等室もそこにございます。

 私、レディー・ティターニアは名門アッシャー家嫡男・ロデリック様の幼馴染でございます。ただいま世界一周旅行中。ロンドンにあるタウンハウスに戻った暁には、旅行記を出すつもりですのよ。

 淑女の一人旅はご法度なので、主治医のホリデー様にエスコートして戴いております。

 そろそろお昼。

 最後部にある最も広くて快適なお部屋・船長室グレート・キャビンで、船長さんや主計長さん方とご一緒に、給仕係〝キャビン・ボーイ〟のサービスを受けながら三食を戴きますの。装飾や彫刻が施されて素敵なのですが、毎度、乾パン、豆スープ、塩漬け肉、そして赤ワインが、錫〝ピューター〟や陶器の食器に盛られ、供されるのです。お野菜・果物、新鮮な水がございませんので、けっこうストレス。

 昼食をとり終えた私達は、することがございません。なので、船長室を出て階段を下り、船長室より一段低い士官室のあるキャビン〝スターンカッスル〟 さらに下のメインデッキにでたのです。

 下士官の皆様は両舷に備えられた砲室ガン・ルームにハンモックを持ち込んで住んでいらっしゃいますが、一般の水夫の皆さんはメインデッキの下にある船室で寝起きをなさっています。そんな水夫の皆さんも、お食事を終えたご様子。

 お天気がよろしければ彼らは、メインデッキでお食事をおとりになる。そうなさるのには理由がございます。下の船内は水夫達の居住エリアですが、牛、羊、鶏といった家畜部屋でもありました。そこは船底にある汚水、防腐剤のコールタール、そして大勢の人間と動物が混じり合った、鼻が曲がるように臭気が立ち込めてくるからなのでございます。

「ごきげんよう、みなさん」

「ちわっす、レディー・ティターニア。ドク・ホリデー」

 乗組員の皆さんは五人前後で班分けされ、寝食を共になされているのですが、空き時間になるとその面子でよく、カードゲームをなさっていらっしゃいました。

「ポーカーですか。私もまぜて戴けませんこと」

「いいんでうかい? 身ぐるみはいちまいやすぜ」

 ダチョウの羽根で飾った髪。首元には、梯子状のリボン飾り〝エシェル〟をあしらい、手元には日傘と扇子。パステル調ラベンダー色のドレス。貝殻、花束、リボンをモチーフにしたシルクやタフタ、サテンを用いた衣装全体に刺繍で施し、さらに、同じ意匠をレースやフリルレスにも散りばめられております。

 乗組員の皆様はそちらではなく、私のデコルテからのそく谷間に、しばし目を留めていらっしゃいました。まあ、殿方はそのようなことがお好きなのですね。

「ドク・ホリデー。旦那はやらんのですか」

 ホリデー様は極端に無口ではありますが、無礼者ではございません。丁寧なお辞儀でお断りの意をお伝えなさいましたわ。

 貴顕の殿方は金刺繍を施したベスト〝ジレ〟 ボタンを留めずに前を大きく開け、ジレを見せる膝丈サイズの上着〝アビ〟。膝丈のタイトな半ズボン〝キュロット〟の三点セット。加えて白い絹のストッキングを着用なさいます。ホリデー様も中流層ではございますが、私に合わせてそのようなお姿でエスコートして下さいますの。

 私の後ろにホリデー様がお立ちになり、空樽のテーブルを囲んで、三人の殿方と私はポーカーを始めました。

「ほほほ、また私の一人勝ちですわね」

「ちくしょーっ、負けたーっ!」 

 スペード7・8・9・10・J。


 ――ストレード・フラッシュ――


 ガレオン船の化粧室は、船首の格子状エリア〝カットウォーター〟でございます。美しい満月の宵。メインデッキを抜けて、お花を摘みに参りました折、私は昼間の乗組員の皆様お三方に囲まれました。

「ゲームはこれからが本番だよ、お嬢さん」

 そう仰って、化粧室に連れ込もうとなさります。

 ですが淑女たるもの、はしたなく悲鳴などあげませんわ。


 バキューン。


 銃声が鳴り響きました。

 腿に一つ弾を戴いた殿方がデッキに横倒し。

 直後、デッキ後方、帆柱マストの陰から、ホイルロック式二連発式拳銃を手にしたホリデー様が、出てこられたのです。

 

     *


 翌日、カンカンになられた船長さんが、昨日の〝オイタ〟に加担なされた殿方を全員鞭打ち二十回の刑に処されたのでございます。

 まず受刑者を裸になさって台に拘束し、内臓防護用カバー装着。お尻を突き出した格好で〝A〟の字をした台に両腕を固定、刑が始まりました。

 執行人は交代で務め、お尻の皮膚が裂けても傷が十字に重ならないよう、並行に打っていきます。五回目からは血が飛散。

 乗組員のお仲間は、

「あれって、回復に一か月かかる。痛くって、しばらく仰向けに寝られないんだ」

 でもご心配要りません。連れのホリデー様は医師ですので、ご自分がお撃ちなさった鉛弾を――麻酔なしで――彼の方から抜いて縫合して差し上げましたのよ。もちろん、鞭打ちの刑の皆様にも湿布などのご介抱してさしあげましたわ。

 一仕事を終え一服なさっていらした彼に、私は、

「ホリデー様、船長のお話しによりますと、大西洋上を行くガレオン船がマゼラン海峡から太平洋へ抜けたのですって」

 彼にエスコートされ、船首から船尾楼に戻るとき、メインデッキを抜けようとしたとき、乗組員の皆様が私を見るなりガクブルに。まあ、ごめんあそばせ。私ってそんなに怖い人じゃございませんのに。


     了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。幼馴染だという神出鬼没の謎の美女レディー・ティターニアがいる。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

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