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02 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の二十四』

梗概/黄戸島村立大学魔法科講師・紅教授と縫目助教の日常。

    24 思いやり


 中庭を囲った回廊状の五階建てビルが黄戸島村立大学学棟で、最上階に教授室フロアがある。紅教授が詰めている研究室は、八畳ほどの広さの部屋だ。

 観葉植物の葉にいた管狐が、デスクのノートパソコンに入力をしている白衣女性の肩に駆け上った。管狐というのは、イタチ科のオコジョの姿をした式神である。その昔、式神は陰陽師が呪殺に用いた精霊であったが、私の師匠・紅教授にとってはただのペットに過ぎない。彼女はそれに〝テト〟と名付けている。

 教授室には、白衣を着た私の他にもう一人、警備員の制服を着た金髪女性が常駐するようになった。

 年齢不詳・お団子ヘアの紅教授が、

「ジャルジェ、あのさあ、帰りたくなったらいつでも言ってね。送ってやるから……」

 先日の異世界旅行実験で、紅教授がお持ち帰りした女騎士様・ジャルジェは、

「ココガ気ニイッタ。聞クトコロニヨルト、帝都東京ハ見ゴタエアルソウデハナイカ。観光シタイ」

 彼女はすっかり、今生こっちにいついてしまった。滞在費に関しては、紅教授が理事長に掛けあって、特別研修生兼警備員ということにしてもらっている。騎士様だけに腕っ節が強いから、理事長は二つ返事で了承したとのことだ。

 バン・キュッ・ボン、ズガーン。縦巻金髪九頭身・スーパーモデル体型をしたこの人は、暇さえあれば紅教授の研究室にやってきて、ソファに陣取り、紅教授と同じ白衣姿の助教である私・縫目フラ子を見かけるや捕まえ、抱っこする。実をいうとロリ体型である私と同じ、二十六歳なのだが……。

 キャンパス敷地内には、三階建てマンションが二棟あり、職員用官舎になっている。三LDKの一室に、教授と助教の私・縫目フラ子がルームシェアしていたのであるが、さらにもう一人、女騎士様が転がり込んできた。交代で食事をつくっている。

 今夜、紅教授は教授室に籠り、PCの〝イラストレーター〟ソフトで、新しい魔法陣を試案するとのことで、買い出しに行けない。

「紅教授、私達、お買い物に行ってきまーす」

「ああ、頼んだよ。ところで今夜のご飯は何?」

「海鮮カレーです」

「おお、いいねえ。ついでにビールも買ってきてよ」

「了解です」

 いつもなら商店街まで、彼女が愛車のサイドカー、スズキ・KATANAに渡しを乗せて連れて行ってくれるところだが、騎士様が来たことで〝脚〟がもう一つ増えた。

 学棟近くの駐輪場だ。

 ピーッ。

 ジャルジェが指笛を吹くと、キャンバス学内のどこかの草地にいたであろう白馬が、駆けてくる。〝シルバーシップ〟という名のジャルジェの愛馬だ。略して〝シルシ〟。

 彼女が手綱を取ったそのときだ。

「〝姫様〟我らは先ほどから何者かに、つけられている」

 ああ、例のストーカーか。メガネ、カブ、コゾウ。大学二年の変態三人組みだ。

 ジャルジェは帯剣レイピアを、自室に保管してあるのだが、その代わり警棒を持参していた。以前、マングローブの森で、彼女が警棒を刀剣のごとく宙に遊ばせ、袈裟懸けに幹を斬り落としたのを見たことがある。

 〝賊〟達が逃亡する先に回り込み、あな恐ろしき警棒をメガネ君の鼻先に突きつける。

「わーっ、ごめんなさい。ごめんなさい。もうしません」

 黄戸島の治安はいい。縦巻金髪騎士様の警備対象はもっぱら私だ。彼女が私を〝姫様〟と呼ぶのはそういう事情からきている。


 了

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