03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 40』
〈梗概〉大航海時代末期、英国冒険貴族ファミリーが織りなす新大陸冒険活劇。掌編連作。今回は魔法使いの殺人事件のお話。
40 魔術師館の殺人(真実)
――ロデリックの日記――
年が明けて間もないころ、親友のベン・ミアがソリを操って養子アーサーを伴い、わが屋敷にやってきた。早速、うちの息子ハレルヤと、敷地内の別棟を間借りして診療所をしているシスター・ブリジットの養女ノエルたちとつるんで、雪だるまをつくったり、雪合戦をしたりしだした。
僕はベン・ミアを二階の執務室に通した。
彼は早速、要件を切り出した。最近彼は魔法保安官に任命されたのだ。
赤毛の新任保安官殿が、
「ケイザイア・メイソンって知ってるか?」
「黒霧谷の魔法使いだな。最近亡くなったと聞いている」
「魔術師館は住み手を嫌うらしい。相続人たちが滞在すると奇怪な死や病気が多発した。そして最後に、クラリッサ・メイソンという孫娘が相続することになった」
「確かクラリッサも魔法使いだったな。それで彼女はそこに住んでいるのかい? いや、先日、魔法使い仲間を誘って、屋敷の調査をしに行って殺された」
「屋敷は?」
「仲間の魔法使いともども全焼している。被害者は七人だ。庭に最後に殺されたらしいガイが記したノートが落ちていた」
ベン・ミアがよこしたノートには、女性と男性の名前が羅列してあった。まず女性が、アンジェラ、ブリジット、クラリッサ、ドロシアの四人。次に男性がエリオット、フランク、ガイの三人になっている。
「魔法使いの名前がAからGまでアルファベット順になっている。これは魔除けのゲン担ぎかい?」
「そんなところだろうな。たぶんそういう理由で調査チームのメンバーが結成されたのだろう」
僕はガイのノートをめくってみた。
――ガイ・ノート内容――
魔術師館は、岩塊の窪地〝黒霧谷〟にあり、そこは黒霧状のモンスター〝ブラック・ミスト〟に守護させたところだ。屋敷内部は空間の歪みや四次元、非ユークリッド幾何学、格子の屋根の部屋がある。
外界と遮断された魔術師館で、周辺を探る別の動きがあるように思えた。そんなときに、伝書フクロウが、僕ら宛てに、手紙を届けに来た。読んでみると、なんと死んだはずのケイザイア・メイソンが書いたものではないか。
手紙には、「招かれざる客には死の床を用意している」と書かれていた。
そして予告通り、仲間が一人、また一人と何者かに殺害されていった。
第一犠牲者・アンジェラの遺体は干からび具合から、月棲獣によって殺されたようだ。月棲獣は目のないヒキガエルのような外見で、油ぎった灰白色の不定形モンスターだ。彼は浴室で殺されていた。
第二の犠牲者・ブリジットの肉片には鋭い刃物で切ったような痕があった。恐らくは、ティンダロスの猟犬の仕業だろう。その辺にある「鋭角」の形をしたものをたどって、どこまでも追跡してくるモンスターだ。彼はあてがわれた部屋で倒れていて、床には鏡台の割れた鏡が散乱していた。
第三の犠牲者・クラリッサは〝深きもの〟にさらわれたようだ。床にそいつの鱗がおちていた。〝深きもの〟は魚と蛙を掛け合わせたような、いわゆる半魚人だ。人間との交配が可能で、ときたま女をさらう。さらわれた彼女の部屋には、男物の煙草パイプが落ちていた。もしかすると、魔術師館のどこかに、モンスターをけしかけた召喚士がいるのかもしれない。犯人はそいつだ。男で煙草を吸うのは男の魔法使い三人全員。俺・ガイを除けば、エリオットとフランクということになる。
第四の犠牲者はドロシアだ。甲殻の飛行モンスター〝ミーゴ〟によるものだろう。噂によれば人間の脳をシリンダーに入れて運ぶというが、その際奴らは奇妙な儀式をする。被害者遺体の頭部に、切断した手足をくっつけて、蜘蛛みたいにして飛び去るのだ。
第五の犠牲者・エリオットは遺体の食われた傷から、〝ズーグ〟に食われたようだ。〝ブラウン・ジェンキン〟とも呼ばれるそれは、人間の顔をしたネズミのような外見で、召還士の使い魔としては、初歩的なモンスターと言える。
第六の犠牲者・フランクは、シャグガイの昆虫に寄生されていた。そいつはシャグガイ星から来たと言われていて、人間の首根っこに寄生し、精神を乗っ取るとされているモンスターだ。そいつが館に火をつけたのだ。恐らくは炎の神〝クトゥグア〟の眷属神サラマンダーを召喚したのだろう。
――再び、ロデリック視点――
新任の魔法保安官ベン・ミアが、
「最後まで残っていったガイが第七の犠牲者だ。恐らく彼はノートを二階の窓から外へ投げ、ほどなく犯人に殺害された。被害者たちの遺体は屋敷の焼失とともに消えてしまった」
庭で遊ぶ子供たちの歓声が聞こえてくる。
僕は何気なく、執務室の壁にかけられた姿見の鏡に目をやる。ふっと閃く。
「実は生きていたという魔術師館の魔法使いケイザイア・メイソンというのは、転移装置を使って、遠く離れた自宅と、魔術師館を往来していたのではないかなあ?」ふかした煙草パイプの煙が揺れている。「パイプというのは、犯人が男であるとガイに思い込ませる偽装だだよ。〝深きもの〟にさらわれたというクラリッサが犯人で、どこかで生きている」
「判った。クラリッサの知人・縁者に聞き込みをして彼女の似顔絵を、部下の担当官に描かせ、指名手配することにしよう」
通報により犯人はマサチューセッツ植民地首都ボストンの隠れ家に潜伏していたのを、ベン・ミアの部下が確保した。部屋からは、僕が思った通り、転移鏡がみつかった。彼女は転移鏡をつかって、潜伏先と魔術師館とを往復。魔法使い仲間の連続殺人を行い、アリバイを成立させていたのだ。
犯行を自供したクラリッサによると連続殺人の動機は、恋人であった魔法使いの敵討ちだったのだそうだ。殺された連中と犯人の恋人はかつて、禁忌の魔道書『ネクロノミコン』を用いてモンスターを召喚する儀式を行った。そこで事故が起こり、恋人がモンスターに食われてしまった。彼女は、恋人を死に追いやる原因を作ったメンバーを許さず、魔術師館に誘い込み、連続殺人を行ったというわけだ。
了
〈登場人物〉
アッシャー家
ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。
マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。
アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。
その他
ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。幼馴染だという神出鬼没の謎の美女レディー・ティターニアがいる。
シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。




