表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

02 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の二十三』

梗概/黄戸島村立大学魔法科講師・紅教授と縫目助教の日常。今回は「異世界転移」の実験だ。

    23 真実


「紅教授、この実験になぜスズキ・KATANAが必要なんですか?」

「〝転移門〟を出現させるには、二二五キロで走破するマシン、〝ケルンの衝撃〟と称されるこの名車が必要なのだよ」

 カタナの切っ先を思わせるボディー。九九九CC、ミリッター解除をしたことで、その速度を可能たらしめた。運転するのは紅教授、助教である私・縫目は後部座席に座り、彼女の腰にひっつく。私たち二人はヘルメットを被っているのだが、さらに双眼に、ベネチア謝肉祭の仮面・マスケラまで装着していた。

 大学キャンバスのある黄戸島には、戦前に造られた要塞坑道があり、メインストリートは、外輪山を貫く全長九百メートルで、南西方向に走っている。

「二二五度角度のトンネルには何の意味が?」

「トンネルというものは、カルト的に異界に通じているという説がある。よくそこでオバケを見るって話しを聞くだろ。古来より異界へ行くには〝裏鬼門〟すなわち一九五度から二五五度の角度のトンネルを抜けることが求められていた」

「つまり二二五度角というのは、中間値〝最適角〟というわけですね」

「そういうこと」

 午後八時半前後、村道の行き止まりに放置された、トンネル入り口でエンジンをふかす。

「縫目ちゃん、じゃあ、行くよ」

 私は覚悟を決めた。


 Change, Go!


「わっ、紅教授、もしかして仮面ライダーのオマージュ?」

「ひゃっはー!」

「違った。北斗の拳でしたか」

 トンネル内部が意外と手入れがされているのは、黄戸島の数少ない観光名所である戦時遺跡である地下要塞を売り出すため、村が予算をつけて整備しているからだ。幅×高さ二メートルの坑道側壁には、等間隔でランタンまで設置されていた。メインルートにはいくもの枝線があり、その先が砲台跡になっている。

 

 国境の長いトンネルを越えると、そこは異世界だった。


 トンネルを二五五キロでトンネルを抜けると、どこまでも広がる草原に石畳舗装された並木道が続いていた。アッピア街道かよ。あなたの知らないニューフロンティア。

 そこにきて教授は速度を落とした。

「いま時速四十キロに落とした。普通道ではこれが相場だろう」

「異世界の街道にそもそも、速度規制なんてあるんでしょうか? だいたい、今世に帰れるんですか?」

 年齢不詳というか、寿命リッターがぶっ飛んだエルフ、はたまた八百比丘尼である紅教授の持ち歌の一つに、植木等が歌う昭和時代のヒット曲「だまって俺について来い」がある。

「細かいことは気にするな。そのうちなんとかなるものさ。ふっはっはっ」

「紅教授、人が増えて来ましたね」

 僧侶、行商人、学生……。街道ですれ違う異国の人々の衣装はローブが基本だ。皆、私たちが乗っているオートバイに刮目。否、「びっくりたな、もう」って顔だ。それもそのはずで、こっちには、まだ内燃エンジンがないらしく、旅人は徒歩か乗馬、あるいは乗合馬車で移動している。

 異世界といえば総じて、ヨーロッパ風の城塞が想起される。トンネルから十キロ地点にある、その町もそうだった。見た感じ十メートル前後はあるだろう。

 市門の前には行列ができている。門番二人が立っていて、並んでいる先客が税金の銅貨五枚を払っている。銅貨といえば財布に十円玉がある。

 マスケラを装着した紅教授は、ヘルメットをとると長い髪がはらりと風に舞う。「ルパン三世」の峰不二子みたいだ。

「私たち、観光で来たの。取り次いで下さる?」

 教授が日本国パスパートを提示。私が十円玉五枚を門番に支払った。

「△◇〇※ΔΣ……」

 聞いたこともない言語だった。

 私たちは試しに、英語、中国語、フランス語を使ってみたが、やっぱり通じない。

 門番二人が顔を見合わせ、それから一人が市門の奥に走って行った。

 ほどなく血相を変えたように市街地から、五騎からなる騎士隊が、「怪しい奴め、連行する!」とばかりに、こっちに駆けて来るではないか。

 紅教授がヘルメットを被る際に振り返り、

「縫目ちゃん、逃げるよ。しっかりつかまって」

 元来た石畳の街道をオートバイで、引き返す。


 教授にひっついた私が後ろを見て、

「やつら、なんて速さなんだ!」

 馬の速力には、常歩なみあし速歩はやあし駈歩かけあし襲歩しゅうほがある。トコトコ歩く常歩は時速五、六キロだが、襲歩ともなれば時速七〇キロともなり、競走馬のそれと同じだ。重たいプレートアーマーを装着していた馬がその速度を出せるのは、やはり異世界だからなのだろう。

 だけどしょせん、KATANAの敵じゃない。アスファルト舗装路のような速度こそだせないがそれでも七○キロはキープした。数キロも走ると一騎また一騎と脱落していく。

 仮面ライダー・紅教授は、少し余裕。最後に残った騎士様を挑発するように、速度を三十キロくらいの駆歩にして、トンネルに入った。

 ギリシャのミケーネ遺跡には有名な〝獅子門〟というのがある。王都の門に獅子のエンブレムが彫られていることで有名だ。こっちへ来たときは気づかなかったのだが、それと同じものがあった。

 続いて騎士様も入る。


 紅教授が降り返って、

「縫目ちゃん、異世界から今世に戻るよ。帰りは〝鬼門〟になる。鬼門は一五度から七五度で、一五度と七五度の中間値は四五度。つまり私の仮説が正しければ、時速四五キロでトンネルを抜ければいい」

 襲歩で私たちを追いかけて来た騎士様の愛馬はお疲れだ。時速四五キロでもヘトヘトだろう。

 そうやって、九百メートルのトンネルを抜け、追尾する騎士様ごと私たちは今世に帰還したというわけだ。日付は変わり翌日の五時になっていた。


 それから。

 黄戸村立大学キャンパスでは、行き交う学生たちはことごとく、騎士様に魅了されていた。

 女優帽にカジュアルドレス、ハイヒール。縦ロールのブロンドヘア、碧眼。スーパーモデルを彷彿とさせるワガママボディーな八頭身。軍人らしく、歩き方まで美しい。年齢は十八歳とのことだ。

 異世界からお持ち帰りした騎士様は、紅教授と助教の私が住んでいる官舎で暮らすことになり、あっちの言語の調査研究をすることになった紅教授に協力することになった。

 講堂に入り紅教授は教壇に立ち、学生たちに彼女を紹介する。

「ハジメマシテ、ワタシハ、ジャルジェ……」

 優雅な宮廷風のお辞儀〝カーテシー〟をするジャルジェ。プレートアーマーを脱いだその人は、文句なしのレディーだった。

 ――ベルばらのオスカル様、きたーっ!

 メガネ、パーマ、オチビの非モテ三人衆が、鼻血を噴いていた。


     了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ