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01 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文 25』

【梗概】新大陸副王府シルハを舞台にしたレディー・シナモン少佐と相棒のブレイヤー博士の事件捜査。スタンピードついに始まる。フランクリン将軍により少佐は、脱出路となる港町の守備隊長に任じられる。

    25 真実


 第二の殺人の被害者である妹エロイーズは暗号の発信者で、アベラールの妹を演じていた。彼女は連絡将校のフルミ大尉に接近し、ヒスカラ本国の動向を探る役割を担っていた。

 そのヒスカラ王国・本国は、旧大陸の領土を帝国に割譲して、新大陸に遷都するのか否か、意向を明確にしていない。

 このため女スパイは、ピアニスト、テクラ・バダジェフスカを名乗る。彼女はアベラールの恋人役も演じ、役目を演じ終えたとき用済みとなり、実は生きていたアベラールによって殺害されたというわけだ。

 気の毒な女スパイの殺害方法は、未知の毒薬によるものである。それを珈琲に一服盛ったわけだが死なない。意を決したアベラールは、彼女の後ろに回り込み、次善の策として隠し持っていた絞殺することになる。

 レディー・シナモン少佐が、副官の私・ブレイヤー博士に、

「――その際、実行犯アベラール様はミスをしました。エロイーズ様が、苦しさのあまり、無意識で犯人の腕を引っ掻いたからです」

「そこに私たちが現れたというわけですね。〈第五局シルハ支局〉のアベラールは慌てたことでしょうね」

 〝姫様〟がうなずく。

 

「アベラール様の血液型はA型。しかし折よくエロイーズ様と交際していた、フルミ大尉と同じ血液型なので、この人に罪をなすりつけようとなさった」

 モスグリーンの軍帽・軍服を身にまとった若い貴婦人が、事件の過程を整理する。


     *


 私は、

「背後にいる〈第五局シルハ支局〉の謎めいた行動の動機というのは、いったい何だったのでしょうね?」

 〝姫様〟はしばらく間を置いて、

「〝第五局〟で戦局を左右するようなある種のプロジェクトがあり、〈ランティエ兄妹〉は連絡員をしていました。ところが、アベラール役をやっていた男性は、ギャンブラーを演じていたのだけれども、いつしかそれが本性に変わってしまった。依存症になった彼に、外国の諜報機関が接近。借金を肩代わりしてやろうと持ちかける……」

「つまり二重スパイになったってわけですね」

 王国特命遺跡調査官であるその人が肯首した。


     *


 雨はまだ降り続いている。

 飛行型甲殻虫の空爆を受けた教会。崩れ落ちた壁は熱が残り、シューシューと水蒸気が上がっている。

 私達が並んで立っている後ろから、

「レディー・シナモン、ブレイヤー博士。やはり、アンタ方はここまでたどり着いちまったか」

 下士官の格好をした男の顔には見覚えがある。バティスト大尉が捜査を依頼した被害者、写真の人物。フリー・ジャーナリスト、アベラール・ランティエその人だ!


 かつてバティスト大尉の友人・アベラールと名乗っていた男は現在、ヴィヨン軍曹と名を変えていた。チャラい感じのニヤケ面をしている。

「密かにアンタを監視していたんだ」

 モスグリーンのヘルメットを被った奴が、MAS36小銃をシナモンに向ける。気丈な〝姫様〟の腰ポシェットにはコルト・ベスト・ポケット拳銃が収まっている。だが引き抜く間に、〝蜂の巣〟にされるのがオチだ。

 軍服の貴婦人が〝アベラール〟と名乗っていた男に訊く。

「教会の扉に隠していたのは恐らくマイクロ・フィルムですね」

「ご名答! ――こないだ、〝姫様〟方がエルフの〝死都〟から新大陸副王府シルハに持ち帰ったレコード盤形態の甲殻虫は、町から北に四十キロ離れたところにあるヴィニョール城に運ばれている。そここそ軍の第五局・暗号解読機関〝ブルーノ〟本部がある。優秀な同機関は、ローター式解読機なるものを開発。甲殻虫を操る方法を編み出した」

「それを旧大陸の帝国に売り渡そうと――?」

「そういうこと」

「数多の国々を滅ぼし、旧大陸の九割を征服した帝国にとって、あと一押しで全大陸を手中にできるところにきて、最後に残ったヒスカラは厄介な存在だ。そのヒスカラの後方補給線を支えるのが新大陸シルハ。そのシルハには時折、大海嘯スタンピードを起こす甲殻虫がいる。これを操れば、自軍はノーダメージで、ボコボコにできる。本国を潰すことが容易だ」

「つまり貴方達〝兄妹〟はもともと、旧大陸の帝国が、新大陸に送り込んだ工作員だったのですね。ローター式解読機に関わったブルーノ機関職員に接触した。たぶん〝エロイーズ〟様がお色気で篭絡したのでしょう。けれども彼女は連絡武官のフルミ大尉と恋仲になってしまった。薄々事情を察した大尉に、逆に篭絡されてしまう。――だから貴男は彼女を殺したというわけですね」

「さすがは〝王国随一の才媛〟だ。またまた大当たり!」

 戦闘服の袖をまくった〝アベラール〟の腕には、紐で首を絞められた際、〝エロイーズ〟に引っ掻かれた傷痕があった。

 黄金の髪の貴婦人が話題を変えた。

「ところで、珈琲に盛った毒の正体って何ですの?」

 〝アベラール〟が腹を抱えて笑い出した。

「毒というほどのものじゃない。――カフェィンだよ。俺が属している機関は、捕虜を使った人体実験で、一時間以内に〇・五ミリグラムのカフェインを一気に摂取すると、被験者が死に至るということを発見した」

「けれど〝エロイーズ〟様は死ななかった……」

 〝アベラール〟「カンタータ」をハミングして、

「ニコチン毒針はヘビー・スモーカーに効かない。免疫が出来るからだ。――同じように、珈琲好きはカフェインにも耐性ができる。――まっ、いい実験をさせてもらったよ」

「それで、最終的に、彼女を紐で殺害したというわけですね」

 裏切り者が、「少しお喋りが過ぎた」と言って、〝姫様〟に向けたMAS36小銃のトリッカーに指をかける。

「さよなら、レディー・シナモン。そしてブレイヤー博士」

 ダーン、ダーン……。

 教会廃墟で二発の銃声が鳴る。

 だが瓦礫の床に突っ伏したのは、たった今まで饒舌に話しをしていた〝アベラール〟だった。彼は土を掻きながら、「な、なんでオマエがここにいる」と言いながら事切れた。


 ワルサーP38は全長二百十六ミリで、装弾数が八発。ダブルアクション方式で作動し、拳銃としては驚異的な射程距離・五十メートルを誇る。それを手にして現れたのが、偉丈夫のバティスト大尉だった。

「事情は聞かせてもらった。謎解きの報酬は後ほど、口座に振り込ませて戴くよ」

 よく言う。大海嘯スタンピードを起こした甲殻虫がダンケルクに迫っている。お互い船で脱出できなければ、銀行口座に振り込むこともできなければ、受け取ることもできまい。


   続く

【登場人物】


01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官。

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官。

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長。

04 バティスト大尉:依頼者。

05 オスカー青年:シルハ大学の学生、美術評論家。容疑者。

06 アベラール:洗濯船の貸し部屋に住むジャーナリスト。第一の被害者。

07 エロイーズ:アラスの寄宿学校教師。アベラールの妹。第二の被害者。

08 シャルゴ大佐:シルハ副王領の有能な軍人。

09 フルミ大尉:ヒスカラ王国本国から派遣された連絡武官。

10 トージ画伯夫妻:急行列車ラ・リゾンで同乗した有名人。

11 サルドとナバル:雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員。記者とカメラマン。

12 フランクリン将軍(大将):ヒスカラ王国海外領土シルハ副王国駐留軍総司令官。

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