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捨てた王子の首を取るまで  作者: Eit


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9/19

9話

真剣そうなロキとアルベルトをよそに、1人ですでに嫌な予感がしていた。


「まだ何も言っていないが」


ばっちりと、殿下と視線が合う。


「え、あ、すみません。……嫌な予感がして」

「嫌な予感?」

「……また、無理難題を課されるのかと」

「俺はお前に一度だって無理難題を言ったことはない。ちゃんと可能な課題を提示している。現に俺の思うとおりになっている」


殿下にとっては想う通りでも、私のとっては、人生一番ぐらいの頑張りなのだ。


「まぁいい。お前とくだらない雑談をしている場合ではない」


私からしたわけじゃない。と、もちろん言えるわけもなく、謝った。


「3か月後、第一部隊と第三部隊の摸擬戦を行う」


摸擬戦。


「必ず結果を残せ。その結果をもって、第二部隊の募集を行う」

「第二部隊の募集ですか」

「そうだ。一般市民にも魔法が使える可能性があることを大々的に発表し、出来るだけ多くの国民に第二部隊入隊の試験を受けさせる」

「入隊試験」

「出来るだけ多くの市民に魔力測定を受けさせるということだ」


たった三か月で、精鋭部隊に勝てと言っているのか。絶望過ぎる。1人で頭を抱えていると。アルベルトがつぶやいた。


「つまり俺たちに負けろということですか?」

「寝言は寝て言え」

「わ、私たち第三部隊が実力を積み、そのうえで結果を残せということですよね」


ガンと、座っている椅子をひっくり返された。余計なことを言ったせいでアルベルトの分の怒りまで買ってしまった。地面に顎を打つ。うずくまりながら。


「お前まで寝言を言うのか?」


ブチ切れ。今回は絶対あっていると思ったのに。あっていると思ったから口を出したのに。起き上がろうとして、無言の圧に起き上がるのをやめた。考えろ、考えろ。思考を回せ。


「……パフォーマンス、ですか」

「続けろ」

「勝ち負けではなく、魔道剣術の有用性を、分かりやすく示し、尚且つ夢を与える」

「そうだ。なぜおまえの部隊に体格に恵まれない者たちを回したかわかるか」

「元来騎士とは、どれだけ努力を積もうと、背が高く筋肉があり剣術の才のある、男性しかなれないものだから、です」


腕を取られ、立たされる。


「俺にさえ簡単に負けそうなお前が、剣と魔法を使い、民の憧れる騎士と同等に力を振るえば、どれだけの国民が夢を持つかわかるか。騎士団全体の話もそうだ。才がなく諦めかけていた者がお前の部隊で輝けば、どれほど士気が上がるか。先日の教室でのお前の言葉、俺の意思を理解していると思ったのに、何故そんなにも愚かなんだ」

「……先日は、とにかく気持ちだけでも部下たちの士気を上げなければと、それっぽいことを言っただけでっ、う゛ッ」


頬を片手で捕まれ、持ち上げられる。苦しい。痛い。痛い。


「部下に確信のない無責任な言葉を使うな。責任が取れるのか」

「……ず、びません、」

「だが、あの時は奇跡的に嘘がなかった。よかったな」


バクバクする心臓を抑えながら、後ろに下がり殿下から距離を取る。何しゃべっても怒られる。もう話したくない。


「ラニ」

「っ……、はい」

「お前余計なことしか言わないから黙ってろ」


たった一言、殿下の言葉を理解できたと、調子に乗った瞬間、奈落に落とされた。椅子は床に転がっていたが、座る勇気を持てず、立ったまま話を聞いた。


「つまり、全力で部隊を鍛えろというのに間違いはないが、実際の摸擬戦に関しては、見えずらい俊敏な動きや、素晴らしい剣さばきはいらない。派手で、見栄えするもので戦え。そこの経緯説明は部下たちにきちんと行うんだ。勝敗自体はどちらが勝っても構わない。わかったか?」

「承知しました」

「最後にラニ」

「は、はい」

「第一部隊が見栄えする技を使える程度には、第三部隊を鍛えろよ。今回、魔法の才がなく、騎士団に落ちた者たちが、不正を疑えば、この計画は台無しだからな」


結局無理難題じゃないですかとこの状況で言えるわけもなく承知しましたと返事をするしかなかった。胃が、きりきりと痛む。殿下が振り返り去ろうとするのを見届け、落ち込みにしゃがもうとして。


「あと、」


飛び上がる。


「このミリもやる気がなく女のことを考えて話の半分も聞いていないアルベルトに、俺が一から考え方を指導したお前が負けたら、どうなるか。分かってるだろうな」


アルベルト隊長は、国中の誰もが知る英雄である。これまで、私の部下になった生徒たちが、皆憧れを口にする人物である。その彼の戦術は、研究しつくされ、私はそれを参考に先日の摸擬戦を戦った。つまり勝ったのはたった一回の奇跡なのだ。


でも、鬼の形相をした殿下に、無理と言う勇気がない。


「か、か、必ず、良い結果を、出して見せます」

「何のためだ。己のためか?」


目を見開く。呼吸がうまくできなかった。それでも、右手を心臓の上にあてる。


「セル殿下に勝利を持ち帰るためです」


バンと背中を叩かれる。


「期待している」


遠くに殿下が見えなくなるその瞬間まで、ポーズを保ち、完全に視界から見えなくなった瞬間にしゃがみ込む。苦しい。しんどい。辛い。逃げ出したい。


でも、主に期待していると、そういわれることは、私にとっては、すべてを我慢できるほどの喜びだった。また一歩頑張れる言葉だ。


日中は生徒への指導に努め、夕方は戦闘魔法開発のための研究チームに顔を出し、夜は自分の鍛錬に明け暮れる。


戦闘魔法開発のための研究チームのトップは、もちろん財務大臣であるうちの父だ。顔を出せば二言目には結婚はどうなったと言われる。実家に顔を出せと怒られる。お前が戦う必要がどこにあると嫌味を言われる。本当に、本当に、本当に行きたくない。


だが父は、ロス家をたった一代で、現行貴族のトップまで成り上がらせた天才だ。姉二人を王家直系の公爵家に嫁がせ、暴君で名を知らしめたアレン王子のもとへダンスと裁縫が下手で愛嬌がないから、王族とのつながりを作り己の価値を示すまで実家に帰ってくるなと送りつけた男である。


頭を、下げる価値がある。


「……父上に頂いた頭のおかげで、殿下に見初めていただきました。女性らしさも、愛嬌も、ダンスも、裁縫も、絵も、品も、姉上たちには敵いません。ですが、自分の武器が何か、父上に教えていただいたと思っています」

「ッ……、剣を持てとは一度も言っていない」

「殿下は、多分ですが、女性らしさというものには、何の興味もありません」


自分で言っていてめちゃくちゃ悲しい。


「己を楽しませるだけの、頭と力と結果を出せる人物にしか、男も女も興味がない。違いますか?」


多分、人生で初めて父を黙らせた。


「殿下と結婚するための近道は、殿下の望む結果を出すことです」

「お前がその結果を出せると言いたいのか」

「だ、して見せます」


睨まれる。あぁ、心の揺らぎが、言葉になる。踏ん張れ。踏ん張れ自分よ。揺らいで勝てる相手ではない。


「そして、その結果は、ロス家の力となります」

「結婚できなければどうなるか。分かってるだろうな」


デジャブかよ。


「……かっ、ならず良い結果を、出して見せます」

「何のためだ」

「ロス家のためです」


ぐっと、数秒にらまれる。


「その言葉ゆめゆめ忘れるなよ」


その日からやっと父が研究結果を素直に見せてくれるようになった。初めて、この20年の人生で、言葉の達者な姉達でも成しえなかったことを成し遂げた。父を言い負かしたのである。踊るほどに嬉しかった。アルベルトに勝った時の500倍くらいうれしかった。


研究所からの帰り道、喜びに一人で飛び回っていると、ずっこけて噴水に落ちた。アホすぎる。だかそれすら笑えるほど嬉しかった。


「何やってんだお前」


その声に、浮かれた心が急転落した。飛び起きようとしたが、びちゃびちゃすぎて、足を滑らせて再度転んだ。


「っふ、ははっ、マジで何やってんの?」

「……浮かれすぎて目の前が見えず噴水に落ちました」


殿下は本当に本当の意味で腹を抱えて笑った。腕を引かれてよろよろと立ち上がる。


「俺との結婚の道筋も立てられていないのに、適当な言葉で言い負かしたことに喜んでいるのか?」


思考が停止する。その間も、殿下は本当に楽しそうで、見たこともない、悪だくみすらない、マジのマジでいい笑顔で。私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


「まぁ、すべてはお前の努力次第だな」


じゃあなと、手を振って去って行こうとするから、いやいやいやいやと、腕をつかんだ。


「なんで、最近、私の発言のすべて把握してるんですか」

「さあ」

「さあじゃないです。さすがに、さすがにおかしいです。なんかおかしいです。意味が分からないです」

「よく考えろ」

「考えてもこれだけはわからない自信があります!」


叫ぶと。


「確かに。それもそうか。あまりに面白くてお前のような意味の分からない発言をしてしまった」


一生煽られている。


「この前お前に褒美を与えただろ?」

「褒美?」


記憶をずっとさかのぼる。アルベルトとの試合の後のキス。


「王族の血が特別であると同時に、王族には、王族だけが使える魔法とも違う能力がある。アレンの真実の力もそうだ。俺が持っている能力の一つに、最後にキスした相手の、感覚を共有できるというものがある」

「感覚、とは、視覚とか、聴覚とか、味とか、そういったものですか」

「そう。俺の意思次第では俺の考えをお前に伝えることができる」

「念話とは違うんですか?」

「距離に制限がない」

「それはすごい、ですね」

「あぁ、もし俺に何かあったとき、お前にだけは伝えられる」

「っ……、」

「お前にとっては最高の褒美だろ?」


その自信は何処からくるんですかと、思いながら。


「……た、しかに、そうですね。ありがとうございます」


無難な返事をするが、足を踏まれる。


「本当に喜んでるいるか?」


こんな時でさえ、よく、考えなければいけない。


「一番、信頼してくださっているということですよね」

「どうだろうな」


鼻で笑われ、満足そうで安心する。


「1人になるとやたら独り言が多いのも、発言の一つ一つに後悔して絶望しているのも、焦ると適当言い出すのも、全部見えてるから気をつけろよ。俺がいないときでもよく考えて行動しろ」


ストレスで死ぬかもしれん。


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