4話
父と母、そして兄。家族4人で食事を取らなければならない日が3カ月に1度ある。国家の話をするためではなく、昔、家族は自分の話など聞いていないと喚いた時に、設けられるようになった機会だった。
10年以上続き、今となっては最悪の時間この上ない。
父が入ってくるのを待っていると不意に兄と視線が合う。ハハっと馬鹿にしたように笑う。いつものことだった。
「最近兄上は機嫌がいいですね」
「ん……まぁそうだな。色々と新しいことに取り組んでいる」
「新しいことですか?」
自分が話せば怒られるばかりでメリットなど何もない。話を聞いて適当にうなづいておくほうがマシである。
「お前は国家に興味があるか?」
「……僕は」
「どうせないだろうが、少々国を広げる手立てを思いついてな?新しい手駒が増え、それを今後どう動かしてゆくか、毎日が楽しくて仕方がない」
疑問形で話を終えたくせに、遮って煽られる。意味がない。兄との会話など昔から。どれほど馬鹿にされているのか、兄のように優秀でないと自認していても、わかる。言葉の一つ一つ、視線態度、生まれたときから、この男は僕を一度だって兄弟とも、それどころか人として見ていない。
「ラニのことですか?」
「それだけではない」
視線が合う。
「最近お前が可愛く見える」
「っ……、」
言葉の意味を数秒理解できず、固まる。にやけた唇に馬鹿にされているのだと理解する。
「僕が捨てた面白いものを手に入れたからですか?」
「お前の理不尽に耐え抜く精神力、お前を1人で守り抜くという決意、空が赤かろうとお前が青といえば塗り替えてみせる忠義、……アレはお前のためなら俺や父だって殺して見せる女だった。俺にはあそこまで忠義を尽くす配下が今まで1人もいなかった」
いつも通りだ。長い話が始まると、いつだって兄の言葉は難しく理解し難い。
「これまで国のため民のため随分尽くしてきたというのにだ。それは俺がなんだかんだと言って、正しさや倫理を持ってしまっているからなんだろう。どれだけ精神的に追い込んで、正しさや倫理を打ちのめせばあぁいうのを作れるんだろうな。本当に教えて欲しいものだ」
表情を考えあぐねていると兄はふっと笑うだけだった。
「ラニだけではない。他にも何人か。世界を変える道筋が見えた。国取りにはあぁいう忠誠が必ず必要になる。お前に嫌味を言うのが趣味の人生かと思ったが、現実でチェスが出来るなら、俺はもう以前には戻れない。愉楽を知ってしまった。お前は聖女とは順調か?結婚式で準備して欲しいものはあるか?なんでも言うといい。全部お前のおかげだしな」
その日の兄は本当にラニを返せの一言以外なんだって笑ってくれるような雰囲気だった。父との会話も怒られそうになればフォローに入ってくださったのだ。
だと言うのに食事の味は何一つしなかった。何を話したかもあまり覚えていない。




