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捨てた王子の首を取るまで  作者: Eit


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13話

敵を倒し終わると、人々の歓声とともに殿下が立っていた。ぐっと肩を組まれる。


「さて、彼らの素晴らしい剣技を目に焼き付けただろうか。これが新しい我が国の魔法だ。この力は、貴族に限らず、誰もが手にできる可能性がある。この力は、キミたちの家族を守り、そしてキミたちを英雄にする可能性がある力だ。彼らのように、国の英雄になりたくはないか?」


まるで、本当に何もかもすべてが思い通りだと言うように、殿下の言葉が頭に響いていた。事の顛末を聞いたのは、散々歓声を浴びた後だった。


「で、殿下」

「どうした」

「あの、あ、アルベルト隊長はどのような方ですか」

「ぶっ、は、はっは」


なぜそんなに笑う。


「この素晴らしい俺の企ての結果より、アルベルトが気になるか?婚約者(仮)としては妬けるな」

「だ、だって、頭の中覗きましたか?アルベルト隊長との会話を聞きましたか?なんか、へ、変じゃないですか!?」

「どうだろうな。20歳そこらの男なんてみんなあんなもんじゃないか」

「そ、……そうなのですか……?」


ウイたちもその場にいたが、どう反応していいか困っているようで、視線をそらされた。分からない。普通が。恋愛経験がなさすぎる。


「アルベルトは国の英雄だぞ。それに好かれるなんて国中の女から羨ましがられる」

「わ、私も、話すまでは普通に憧れていました」

「部下たちからも好かれているだろ?実力のあるこいつらより、皆アルベルトの部下になりたいというほどだ」

「で、でも、男でも女でもいいって言っていました」

「それに好かれて誇らしくないのか?」

「ほ、誇らしい……?」


固まった私に殿下はまた吹き出した。


「殿下、勘弁して上げてください。さすがにラニ隊長がかわいそうです」


助けてくれたのは、レオだった。


「ラニ隊長。うちの隊長は、めちゃくちゃおかしいです」

「本当ですか?」

「そもそも皆に好かれているのは、ほかの隊長に比べて緩いからです。指導は適当で、酒と女が趣味で、男の顔が覚えられないから平民も貴族も同じ扱いなのです。部下か上官か分からないからみんなに平等に扱っていたら英雄になっていただけです。だからラニ隊長のことも男だか女だか分かってないんです。剣の実力以外終わってます。安心してください。隊長はめちゃくちゃ頭おかしいです」


泣きそうなほどに安心してしゃがみ込むと、殿下はネタ晴らしが早いとレオを怒った。意地悪すぎる。いくら何でも意地悪すぎる。


さすがにひどいと言おうとしたが、


「まぁ、ネタ晴らしが終わったならこの件はこのぐらいにして、ラニ、お前には次がある」

「次、ですか……?殿下の話から行くと、打ちのめした敵は随分大きな国のようですし、他国はそんなに簡単には仕掛けてこないのではないでしょうか?」

「他国ではない。次はうちの話さ。お前が一番重要だ」

「私ですか」

「そうだ。お前に聞いておかなければならない」


そういって、殿下は実に楽しそうに、私にとって、最も困難なことを言うのだった。


「聖女とアレンの結婚式について、お前はどうしたい?」

「どう……とは、出席、したいと、そういう話ですか?」

「ちげーよ」


間をおいて。


「俺がお前に何を聞いているのか考えろ」


アルベルトに言葉を掛けられた時と同じぐらいの鼓動のスピートだった。本当の意味で理解できないのでなく、考えたくないと、そんな心の否定。だが、長い、長い間を、殿下はいつものように遮断することなく、何時までも私を待つのだ。


うまく、呼吸ができず、心臓に手を当てて深く酸素を吸った。


「わ、たしのためだけに、……ぶち壊すという、選択肢があるのですか」


視線が合っても、殿下は、楽しそうな表情のままだった。


「あるにきまっているだろう。お前が望むなら、ぐっちゃぐちゃにしてやるよ」


驚きで目を見開いた。


「でも、アレン王子は殿下のご兄弟で」

「そうだな」

「王族の方の幸せを願わないなど、間違っているはずです」

「そうだな」

「私は、」


怖くなって下がった一歩を、腕を掴まれて止められた。


「アレン王子の幸せを願わなかった日など、なかったんです。ずっとずっと、王子の願いを受け入れて、それが私の生き方で」

「知っている」

「っ……ぁ、……す、すぐに答えが出ません」

「そうか。まぁいい、十分成長か」


頭をぐしゃぐしゃっと撫でられて、今日は疲れただろと、下がれと言われた。部屋から出た瞬間、立てなくなった私をウイが支えた。


「ラニ様」

「ウイ」


視線が合えば真剣な顔をしていた。


「深く考えず聞いてください」


ウイの話を始める前の呼吸が耳に響いた。


「私は、ラニ様に人生を救われました。ラニ様は私に声をかけてくださった当時そんな深いことを考えてはいなかったかもしれませんが、言葉を知識を礼儀を授けってくださったおかげで今があります」

「当時剣術を習う術がなく、私にもメリットがありました」

「でもラニ様は上官より上の貴族でした。そんな貴方が、対等に私を扱ってくださった。貴方が認め団長にしてくださいました。今も、ラニ様が評価されているから、私が評価されているのです」

「大袈裟です」

「大袈裟ではありません。ラニ様なら平民でも評価してくれると知っていたから第三騎士団を選んだものばかりです。だから、皆貴方についてきているのです。私は貴方の幸せを願っています。心から。以前恋や愛より深く、忠誠を誓っていると、言ってくださいましたよね。間違っていません。そう知っていただけてうれしかった。いつもラニ様は大変そうで、報告できていなかったんですが、結婚したんです」

「えっ……!?」

「妻に、私が死ぬときは、お前を守って死ぬか、ラニ様を守って死ぬかだと言いました」


深く考えずに聞けと言ったじゃないかと。頭の中で言うことしかできなかった。


「子ができたら妻と私の次にラニ様に抱いてほしいと思っています。名前もラニ様から取りたいと思っています。それくらい、私にとって、ラニ様を想う気持ちは、自分で言うのは恥ずかしいですが、綺麗で純粋なものです。自分にとって、大切にしたい一番のものです」


ぎゅっと肩を抱かれた。


「だから、あの男が貴方を切り離したと知ったとき、あの男の首を切って、自分の腹を切り死のうと思いました。貴方のためではなく、私のこの、10年以上の綺麗な思いを、ぐちゃぐちゃにされた気分だったからです」

「っ……、」

「それくらい腸が煮えかえる思いでした。思いとどまったのは本当の奇跡です。今私がここにいるのはラニ様を守ると同時に、貴方の幸せを見届けるためだと思っています。私は、ラニ様が、驚いたり、笑ったり、戸惑ったり、いろんな顔をしているだけで嬉しくて仕方ありません」


抱かれた肩を離され向き合うと視線が合った。


「先ほどの殿下の質問に、ラニ様が迷うようになったこと、それだけでうれしく思います。ラニ様。どうか自分の心の中では、自分の幸せだけを考えてください。どんな選択を取ろうと、私は貴方の味方です。あの日、殿下や陛下に立ち向かう勇気を持った貴方がいたように、私はラニ様のためなら、なんだってできる男です。貴族的な力や権力は持っていませんが、分かっていてください。何があろうと、貴方の味方である人間が、たくさんいるんだって」


ウイの言葉は、存外、私の心臓を落ち着かせた。


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