12話
ぐちゃぐちゃのラニの心を眺める。ぜんっぜん戦いに集中できてないのに、剣さばきは正確で、美しい。とんでもないのに気に入られて可哀そうで、可愛い。
一番見やすく安全な客席で、その姿を眺めていると。
「気持ち悪い顔をするな」
父に怒られた。
「すみません。可愛くて」
「本当に!あまり、いじめるなよ……!」
「誰をですか?」
「ラニに決まっているだろ!今だってあんな顔面蒼白で戦って、ちゃんと状況を説明したのかお前は!」
「説明はしていませんが、あれは、そのせいではないですよ」
「何故説明してやらない」
「これはもう俺の性癖でしかないんですが、困って辛そうなアイツの顔が好きなんですよね」
絶句。してるな多分これは。
「ちなみに敵は俺が招いたものなので問題ありません」
「招いた!?」
「魔法が一般市民に使えるなんて事実は、世界を一変させても可笑しくないほど、とんでもない話です」
「そうだな、秘匿扱いにした方がいいと、私もロス伯爵も言ったが、お前が」
「秘匿にするということは、ごく限られた人間でこの事実を管理するということです」
「バカにしてるのか。重要な事実だからこそ、慎重に管理しなければならないと言っているんだ」
「何故魔法技術がこの何百年進化しなかったかわかりますか?対して、昔は劣っていたはずの剣術が現代魔法より戦闘において明らかに有用とされているか」
「それは、」
「秘匿しては技術は一生進化を遂げない。この事実を国民に隠せば、俺が死ぬ頃になっても、戦闘に魔法が使えるのか明らかにならない事でしょう」
ラニの脳内を一生覗いていたかったが、父を納得させるのも俺の仕事である。視線を合わせると嫌そうな顔をさせた。
「俺が、バカみたいに、隣国に戦争を仕掛けると思いましたか?」
「まさか」
「そうです。この情報を欲しがらない国はいない。ましてやうちより大国であれば、掌握して情報を得ようとするでしょう。何故、第三部隊を早急に鍛えさせたのか。それは、そのバカな大国を圧倒するためです。あえて情報を流せば、相手から戦いを仕掛けてくる。そうすれば、大義名分も立つ。次第に小国は媚びへつらい属国となり、大国は同盟を結ぼうと躍起になる。そして、こうやって圧勝する姿を国民に見せれば、民は騎士たちを支持する。民が騎士に憧れれば、新しく作る第二部隊の応募者も増え、さらにうちは強い国となる。どうですか?」
「だが、もし負ければ、とんでもないことになるだろ。負けずとも、詳細な情報を持つ騎士が他国に連れ去られでもしたら」
「問題ありませんよ。ラニに指示させて、魔道剣術のカラクリを知る騎士には、自白防止の魔法を掛けていますから」
「自白防止?」
「他国へ情報を話そうとすれば、その時点で死にます」
「なっ、」
「ラニを含め、現在の第一騎士団のほとんどは嫌そうな顔もしませんでしたよ」
「なぜだ。そんな奴隷に近い魔法なんて、非人道的だと言われてもおかしくないはずだろ」
父は知らないのだ。アレンの今までしてきたことを。最初は嘆いていたが、見るに堪えない状況が何年も続き、5年以上アレンから目をそらしてきた。
「アレンの真実の力とは、心の奥底に考える本心を自白させる力です。アレンの無理難題への不満を考えることも許されない。傍若無人な行いで怪我をさせられようと反抗的な事を考えれば罰せられる。奴隷なんてマシですよ。主人に表だけでも可愛く媚びへつらっていれば許されるのだから。ラニたち、第三騎士団にいた者たちは、その力を10年以上何回も掛けられている。想うことも、考えることも許されない生活をずっと送ってきた。他国に情報を売ろうなんて選択肢があるわけがない。何故この魔法が必要なのか。それはそれ以下のものから漏れないようにするためです」
分かりますかというと、父は渋い顔をしていた。
「アレンはそんなことをしていたのか?」
「そうですよ。何故ラニがあんなにアレンを気にするのかわかりますか?」
「っ……、真実の力を一番多く使われているからか?」
「そうです。聖女には聖魔法のガードがあり、俺たち王家の能力は使えません。王族同士も同様。だからこそ、考えの読めない聖女が面白く映ったんでしょうが、自分が正しいと10年かけて躾けた女をぱっと手放せるアレンはすごいですよね」
俺なら、首輪かけて、手錠付けでも手放さない。そもそも、そこまでして洗脳されていたラニが、ぱっといらないと解放されて、どうなるか考えないアレンは俺よりよほど残酷だ。考えるという生活を、選択肢があるという生活を、10年以上送っていない状態で、解放されれば、頭がおかしくなる可能性だってあっただろう。
何も、自分で選んでこなかったラニが、大量の選択肢を与えられれば、パンクする。
「考えることの素晴らしさを教えてやるということは、ラニに生き方を教えてやると言うことです。今ラニが何を考えているかわかりますか?」
「わ、かるわけないだろ」
「頭のおかしい男に絡まれて、どうしたらいいかわからなくて困惑してるんですよ。昔のラニだったら、何を言っているか理解できないと言って、考えを放棄したことでしょう。俺やロス伯爵にだって反抗的なことを考えるわけです。それが面白くておかしくて、可愛くないわけがないでしょう」
だから俺はラニの頭の中を覗くのが好きなんだ。考えすぎて疲れ果てて、与えられる選択肢に困惑して、それでも少しずつ前に進んでいく。
「本当にかわいい奴だ」
さてと立ちあがる。
「父上、俺は下に行って、最後の盛り上げをしてこなければなりません。失礼します」
「待て、セル」
「どうしましたか?」
「私は本当にラニに感謝しているんだ。だから」
「父上、何故ラニはアレンに捨てられ、簡単に言えば、裏切られた王家に、また面接を受けに来たかわかりますか?」
「それは、アレンのもとにまた」
「違いますよ。普通なら恨むでしょ。俺だったら死ぬ覚悟でぶっ殺しますね。でも、ラニはどうすればいいかわからなかった。辛く苦しいが、どうすればいいかわからない。ロス伯爵の指示通り、実家に帰ったとして、公爵と結婚して、その先、自分で選んでいく勇気がない。だから、また王家に仕えれば、以前と同じように考えず済む日々が送れると思い、面接を受けに来たんです」
目を見開く父に笑いかける。
「俺がらしくなく怒りがわいたというのはその点です。人をそこまで支配して追い込むなら、死ぬその瞬間まで、忠義を尽くさせてやらなければならない。今は俺好みに躾けている最中です。俺は一切反抗しない奴より、心の奥底で、嫌だ嫌だと思ってる奴に言うことを聞かせるのが好きなんです。分かりますか?」
「分からない」
少し目を見開く。
「残念です」
そういって手を振った。




