11話
ヴァレンタイン公爵の一家は、吸血鬼の噂がある一族だ。悪どい噂ではない。幾つになっても歳を取らず、美術品のような美貌を持つがゆえだ。
第一部隊副隊長。17歳と聞いたが、ものすごい美形だな。人形みたいだとそんなことを考えながら戦った。
ふうと一息つく。ここからが本番だ。
「レオはどうでした?」
「どう、だったとは……、す、ごい美形?」
「ふっ、はは、顔じゃなくて。実力」
「……あ、えっと、レオさんは本気ではないようだったので、なんとも」
「アイツがそういった?」
「えぇ」
少し笑って、魔法も使っていないというのに、後ろの土が舞い上がるほどの攻撃を仕掛けてきた。化け物過ぎ。
「まぁ、いいや。あぁいうのが好みですか?殿下とはずいぶん違って見えるけど」
一瞬止まってしまう。余裕ないのに、余裕そうに、考えないと答えられない質問をしないでほしい。器用じゃないんだ。
「顔の好みなどは、あまり、考えたことがなかったです」
「俺の顔は?」
「っ、……」
剣先から魔法攻撃を放つ。見た目のわりに攻撃力はないが、見栄えする技だ。
「あのっ、……その話、あとじゃダメですかッ」
思ったより大きな声が出てしまった。
「じゃあ、別な話を。殿下は」
一つ気づく。私は、考える余裕がないが、この人にはあるのだと。新手の、煽りなのだと。息も切らさず、魔法攻撃を直線でぶった切られたら、実力差を思い知らされる。殿下の指示ですぐには終わらせられないから、ただ、相手をされているだけだ。
屈辱だ。
ある程度パフォーマンスの派手な攻撃は見せたはずだ。魔道剣術は半年と少しの付け焼刃。剣に魔法を宿し、筋力を補う。魔法の本当の使い方は、この人と私の中にある、身体的能力の差を埋めることにある。
一撃。近距離まで近づく。
「話は終わりですか」
「すみません。話すの、得意じゃないんです」
謝ると、
「そういうところも素敵だ」
そういわれた。この人、苦手かもしれない。また笑われて。
「案外顔に出やすくて、可愛いって言われませんか?」
言い返す余裕がなさすぎる。平常時でも難しい会話を今されても無理すぎる。会話を、遮断する。もう返答はあきらめる。
首筋のギリギリを通った攻撃を避ける、片手をついて態勢を戻して、攻撃を仕掛ける。
「俺ずーっとラニが女性か男性かを考えていて」
受け止められた剣を、打ち返されて、一歩二歩下がる。攻撃を仕掛けるためにもう一度近づくと、すーっと匂いをかがれた気がした。
「でも、3回くらい抜いて、どっちでもいいなって思ったんだよね」
「ッ……、」
「だって顔が好みなわけだし、もはやそのどっちか分からない見た目も声もいいなって思って、抜けるなら性別の壁なんて些細だなと、」
暴力的に何度も攻撃を仕掛けると、最後に、ばっと手で剣を受け止められた。その状態でも痛みを言葉にするわけでもなく、私の顔を見ている。まて、まて、超、血が出て、怪我させないってルールだったのに、焦って怪我させてしまった。
「す、みません、び、びっくりして」
私が、私が悪いのかと自問自答を繰り返していたその時だ。警報が鳴った。とたん演習場に想定外の爆破物が投げ込まれる。視界が眩み、客席が何事だとざわつく。土埃が消えると周りには見たことがない兵士がいた。
「貴方たちは、」
少し離れた大国の国の紋章を付けた男たちだった。
『ラニ』
その声は、念話とも違う妙な聞こえ方だった。脳内に直接響くような聞こえ方で、殿下の声だと分かる。
『聞こえるか?聞こえるなら頭の中で返事をしろ』
『き、こえます』
『よし。概ね予想通りの展開だ。客席には強固な防御魔法を張っているが、直積的な攻撃には脆い。アルベルトとお前がいれば余裕だろう。蹴散らせ』
状況も理解できてないし。案の定殿下はなんも説明してくれないし。何より今、アルベルトに話しかけるの、嫌なんだが。
「あ、アル、」
「ん?」
「……怪我させてすみません」
「いや、興奮したからいいよ」
怖い、苦手だ、殿下とも、アレン王子とも、父とも違う、新たな人種。信じられないほど心臓がバクバクする。
「殿下から指示があり、周りの敵を蹴散らせとのことです」
「へー。こいつら敵?」
「の、ようです」
「てか、ラニ的に俺ってワンチャンある?」
会話が成立しない。
「と、りあえず、倒してから考えましょう!!」
無視して敵のほうへ向かう。この敵が何者で、なぜ突然現れたのか、考えるべきところはそこのはずなのに、意識がそっちへ行かない。え、普通に変じゃないか。国の英雄だよな。あの人。普通に戦っていたら今回負けたのは私だったろう。
悔しかったはずなのに。全部、吹き飛んで、怖い。
無心で敵を倒し切ると、何故か、客席からとんでもない量の歓声を浴びていた。
どういうことだ。




