10話
ここまで圧倒的なものかと、もはや笑うしかなかった。
摸擬戦のルールは、第一部隊と第三部隊、それぞれ5人をいっぺんに戦わせる総力戦形式だった。新しく開発された魔法映像技術により、国中の広場や街頭など、いたるところでその試合を見れるように、環境を整えて行われた。
事前に、隊長同士の戦いは目玉となるので、それだけは最後まで取っておきましょうと、簡単な話し合いをして、それ以外はお互いの状況も知らない、ガチ試合。
実のところ興味があった。理由は簡単だ。アルベルト隊長が天才と言った人物が、俺とその人だけだったからである。
ヴァレンタイン家は公爵の位を持つ家である。王族に近い血を持つ家だ。
そんな俺がなぜ騎士団で副隊長なんてやっているのか。貴族学校ではなく、騎士学校を選び、ここにいるのか。それこそ簡単だ。
才能があったから。
ラニ・ロスと同じ理由だ。自分の才を生かすためにここにいる。
だから今日を楽しみにしていた。それなのに。
花を持たせるために、第三部隊の連中には派手な技を使わせてやるようにした。実際、指導も得意なのだろう。以前は剣を持って一年やそこらの俺に手も足も出なかった連中が、技についてくるようになった。魔法とはすごいものだ。足りないものを的確に補えるらしい。この技術が発展すれば、剣士と魔法使いの扱いは逆転するだろうな。
だが、現段階では惜しい。
足りない部分を補ったところで、勘という才が足りない。勘とは、まぐれではない。剣が次にどこに来るのか、殺気を察することを言う。それこそ、本当の意味で必要な才能だ。俺はそれが最初から分かったから、技術を磨く前から強かった。
俺と隊長以外の3人を打ち負かし、俺のところへやってきた4人を倒す。2対1だが、ラニは前回の武闘大会で隊長に勝っているのだから、会場は大きく盛り上がった。
「二人が一対一で戦ったほうが盛り上がるでしょうから、私が先に行ってもいいですか?」
「おー、いってら」
俺が唯一貴族らしいところを持っているとすれば、野心や闘争心を、顔や言葉に出さないところだろうか。その点隊長は庶民にも劣ると思うが、あの人はそれがいいところでもあるのだろう。騎士団で誰よりも好かれている。ふうと、張り付いた笑顔で、ラニの前に立つ。
「適当にいくつか技を出すので、いい感じに見えるように打ち負かしてもらえればと思います。そのあと、隊長と本気で戦っていただく感じで。それでは行きます」
「え、あ」
殿下と話しているときも思ったが、予想だにしていない言葉を言われたときの反応が情けなさ過ぎる。貴族としてどうなんだよ。
だが、俺は、あの日初めて、殿下が感情を露わにする姿を見たのだ。あんな風に怒り、あんな風に人を馬鹿にして、あんな風に楽しそうにするのだなと。
みんな言うのだ。殿下と話すと、同じ土俵に立てている気がしなくて心苦しいと。陛下でさえチェスの相手さえしてやれないと嘆いていた。
「っ……、こ、これ、本当に適当ですか」
本気に決まってるだろ。どんくさそうな反応をしやがって、そのくせ的確に受け止めやがる。ゆっくり押され、返ってくる剣は想像の数倍重かった。
「はぁ……、」
この女は、情けなくとも、地面を這いつくばろうと、殿下の考えをくみ取る努力ができる。血に甘え何の努力もしない公爵家の連中が大っ嫌いだった。
だが、俺も、この女ほど、捨てることはできていなかったように思う。
隊長は、この女を天才だと言った。確かに、才能の塊だろう。ロス家の、この国一番の魔法の一族が、線の細い女が、騎士相手に剣で圧倒してくるんだから。だが、その中には磨かれた魂がある。
王に使えるという、たった一つ、貴族が一番持っていなければいけない魂をこの女は持っている。だから強いんだ。主君の期待に応えるためにすべてを捨てられる。
ラニの剣が、俺の剣を切り、首もとに添えられた。
「こんな感じでどうですかね」
疑いのない綺麗な目で見やがってさ。隊長含め、まっすぐしてる奴って、なんか本当に気に食わない。
「いい感じだと思います。隊長とも派手にお願いしますね」
「了解です」
ムカつくし負けを認めてやる義理もないだろう。折れた剣を拾いながら端のほうで二人の試合を眺めた。
あー、俺とラニが同じくらいの才能だったとして、追いつけない事実が確定してしまって、地味に萎える。だって、無理だし。俺。王に忠誠を誓うとか。言葉だけなら、隊長の100倍いいこと言える自信があるけど。
心の底から、誰かに忠誠を誓うとか、100%無理。ゲロ萎え。




