頼れる兄貴
その日の練習後。
りうらはスタジオの隅でノートを開き、ペンを止めたままじっと考え込んでいた。
「……メロディが、どうしてもハマらない」
額に手を当て、深いため息をつく。
そんな様子を遠くから見ていた悠佑は、ガハハと笑いながら近づいた。
「おいおい、顔が暗いぞ!りうら!」
「……兄貴。今はちょっと、放っておいて」
「放っとけるかよ!」
悠佑はおもむろにりうらの前で腕立てを始めた。
「は!?なにしてんの!?」
「筋肉は悩みを吹き飛ばす!ほら、お前も一緒にやれ!」
悠佑は腕立ての合間に、りうらを見上げてニカッと笑う。
りうらは呆れながらも、仕方なく床に手をついた。
「……もう、しょうがないな」
二人で腕立てを始める。
最初はただの筋トレだったが、数を重ねるごとにりうらの表情が少しずつ軽くなっていく。
「……あれ、なんか、ちょっとスッキリしたかも」
りうらが笑うと、悠佑は胸を張った。
「だろ!悩みなんてな、血流と一緒に流しちまえばいいんだ!」
その豪快な笑い声に、スタジオ中が明るくなった。
仏がにこにこしながら拍手をする。
「さすが悠佑くん、りうらくんの悩みを吹き飛ばしちゃったねぇ」
ないこもコーヒー片手に笑う。
「兄貴はほんと、力技で全部解決するんだな」
「力技じゃない!」悠佑は胸筋をピクピク動かして見せる。
「これは“筋肉の知恵”だ!!!」
仲間たちの笑い声が響くスタジオ。
そこには確かに、“頼れる兄貴”の姿があった。




