葛藤と孤独
スタジオの片隅で、りうらは譜面に向かいながら深く息をついた。
旋律は完璧で、美しい音が次々と生まれる。
しかし、胸の奥には重いものが沈んでいる。
――こんな才能を持っているのに、どうして孤独なんだろう。
誰もが羨む力を持ちながら、心の奥は常に不安でいっぱいだ。
「りうら、次の曲のアイディアは?」
初兎の声が背後から響く。
りうらは一瞬迷った後、静かに答える。
「まだ…整理できていない」
初兎は笑顔を見せる。
「焦らなくていい。俺も手伝うからさ」
その言葉に、りうらの胸の奥で少しだけ緊張が和らぐ。
――誰かに頼ってもいいのかもしれない。
しかし、次の瞬間、自分の中のプレッシャーが再び襲う。
――俺は天才だと言われる。失敗は許されない。
――仲間に迷惑をかけるわけにはいかない。
譜面を前に手が止まり、目の前の鍵盤が遠く感じる。
孤独と才能、期待と恐怖が交錯し、心が揺れる。
そんな時、窓の外に柔らかな仏の光が揺れる。
静かな光が、焦る心をそっと包み込む。
――失敗しても、迷っても、心は折れない。
――少しずつでも、自分のペースで進めばいい。
りうらは深呼吸し、指先を鍵盤に置く。
そして、小さな一歩として、新しい旋律を紡ぎ始めた。
――天才であることの孤独も、少しずつ仲間と共有できるかもしれない。
孤高の少年は、葛藤の中で静かに挑戦を選ぶ。
胸の奥にある不安と期待が、音に変わって夜のスタジオに響き渡る。