夜の邂逅
街の灯がぼんやりと揺れる夜。狭い路地裏の片隅で、低音のラップが静かに響いた。
初兎――孤高のラッパーは、誰もいないはずの場所でマイクを握っていた。声には切なさが滲み、街灯に反射してほんのわずかに震えた。
「…どうして、こんな夜に…?」
背後の気配に初兎が振り向くと、そこにはいれいすグループのメンバーが立っていた。明るく、個性豊かで、夜の街には少し浮いて見える存在だった。
「君…ラップ、すごいね」
グループの一人が声をかける。
初兎は一瞬、警戒の色を浮かべたが、すぐにまたマイクに目を戻す。
「別に…たいしたことない」
その態度に、いれいすのメンバーは少し驚きつつも、興味を隠せなかった。
「でも、なんだか惹かれるんだ…その声、言葉にならない想いを乗せてる」
別のメンバーが言った。
初兎は沈黙したまま、夜風に揺れる路地を見つめる。
そこに、かすかに現れる影――りうら。幼馴染の彼女は、初兎をそっと見守っていた。
「…あの子、変わるかもしれない」心の中でつぶやく。
そして、遠くから仏のような光が静かに二人を照らした。
誰も声には出さないけれど、何かが動き始めていることだけは、二人とも感じていた。