食事会とオレ
相変わらず白すぎて眩しい部屋の真ん中には、いつの間にか丸いテーブルが用意されていてその上に二人分の食事が並んでいた。
そして一方には眩しいゴージャスオーラを背負った魔王様が優雅に腕を組んで座っていた。
やべぇ、部屋の白さが目に痛いより先にこの人のキラキラっぷりが精神に痛い。
「来たか、座れ」
命令すんな。
そして妖艶に笑うな。
ついでに足組むな。オレへのいやがらせか。
そんな思いを熱い視線に込めつつ、オレはセシェン君との約束の手前黙って席に着く。
あー、やっぱ良い椅子使ってんなー。
はい、突然ですがここでクイズです。
今オレの目の前にあるテーブルとイスの色を当ててください。
……。
……。
……白デス。
本当に疲れるなこの魔王様。
あ、しかし食事は意外と普通だな。
多分ポタージュスープっぽい物に、多分サラダっぽい物。それから前菜のカルパッチョっぽい物にパンに魚っぽい物のポワレっぽい物。
「って、オイ!」
「どうした」
「なんだこの正体不明のオンパレード! パンしか確定できる物ないじゃん!」
「お前は馬鹿だな」
慈愛に満ちた女神の微笑みをオレに向けるデュラン(ただし中身は男で魔王で暇人で性格悪い)。
「気候と土地と水が違うのだぞ? 同じ動植物が採れるはず無いだろう」
「それにしてもこの水色にピンクの水玉のサラダ菜もどきには軽い悪意を感じるぞ」
「気のせいだろう」
上品にナイフとフォークを扱いながら微笑むデュラン。
「茶目っ気の間違いだな」
「今すぐこのナイフで刺して良いか? いやむしろ断っても刺す。そこに直れ」
オレの殺気にも愉快そうに笑って座っているだけのデュラン。
オロオロするセシェン君。胃とか痛めてそうだ。
ついでにナイフを握るオレもこの場に居るよ。あくまでついでだけど。
「まぁ落ちつけ」
「オレは十分落ちついている。で、魔族の頸動脈ってどこ?」
「料理を作ったセシェンに失礼だと思わないのか?」
「む……」
「お前の出身世界とて外国に行けば見慣れぬ食材もあるだろう。だが歓待の意を示して相手が料理をお前に出している場合でも、お前はそうしてホストに刃を向けるのか?」
「あ、やっぱデュランってホストなんだ」
「食事会の主人であって歓楽街の王の意では無いぞ」
「はいはい……」
まぁでも正論だし、約束しちゃったし……食べますよ。えぇ、食べてやりますとも。
「まさか人間には毒ですとか混ざって無いよね」
「問題無いぞ」
パンをナイフで切りながらデュランがあっさりと言う。
「そう言う事の無いようにその体はカスタマイズしたからな」
「食材に気ぃ使えよ!!」
人体改造すんなコラ! 他に妙なことしてねぇだろうな!!
「ん? 何をそんなに怒る。感謝する所だろう」
「誰が見も知りもしない変態魔王に体改造されて喜ぶんだ! 何処のマゾですか! てゆうか他に何した。絶対なんかしてるだろ! 吐け! 吐けー!!」
「重力などの環境対応性能の調整と、強度、言語変換、感覚系統の誤差修正システム……まぁ、後は色々だな」
「人の体を何だと思っている……」
「食事中ぐらい少しは落ち着いたらどうだ?」
「お前のせいだ! お前のっ!」
コノヤロウ……。澄ました顔で食事しやがって……。
あぁ、でも怒鳴ったら喉乾いたし、毒じゃないなら食べるか。
オレは席に座りなおして、さっきのピンク水玉サラダ菜もどきをフォークでグサッとやる。
「む……」
あ、旨い。
歯ごたえはレタス系のシャキシャキした奴で、後味はレモンっぽい爽やかな香りがする。
見た目すごい割に味はまともだな。
「……」
「あ、うん……美味しいよ。ありがとうございます」
心配そうにさっきからのやり取りを見守っていたセシェン君に、一応笑顔で告げておく。
それにセシェン君もホッとしたのか笑顔を返してくれた。
ちなみに彼の分の食事は此処には無い。
ま、執事さんだからデュランと同じテーブルで食事とか出来ないんだろう。
「何かお気に召したものや、お好きな味がございましたらお申し付けくださいませ」
「うん、いや基本オレあんまり好き嫌い無いから……納豆は駄目だけど」
匂いがねー……。
ねばねばなのは好きなんだけどさ。オクラのマヨネーズ合えとか旨くね?
「ナットー?」
「あ、やっぱこっちには無いのか。うん、まぁ匂いがきつい奴じゃなければ良いから。どっかの誰かさんと違って食わず嫌いとかしないし」
「それは偉いな」
あんたが言うな、食わず嫌い。
思いつつ、オレはパンを取って手でちぎる。
「う゛……」
「イナスのステーキを手掴みでとは、豪胆だな」
「お客様、大丈夫ですか?」
パンじゃ無くて肉なのかよ!!
誤字等訂正・補記