視点変更とオレ
「こちらがお部屋になります。何か不足がございましたらお申し付けくださいませ」
そう言って苦労人ことセシェン君が案内してくれたのはスイートルームみたいな部屋――ではなくて、まぁまぁ普通のサイズの部屋だった。とは言ってもオレの部屋が多分余裕で五つは入るな。うん。
ちなみにそれは見えてる所だけの話で、クローゼットやらトイレやら風呂やら含めたらさらに広くなるはずだ。ちくしょう、やっぱ金持ちだよな魔王だし。ブルジョワめ。
上でトランポリンとか出来そうなでっかいベッドに敷いてあるシーツがピシっと整っているのを見ると、多分これをやったのはセシェン君だろう。
君、A型だなきっと。
「あの」
「はい、何でございましょう」
「回りくどいの嫌いなんでバシっと聞いちゃいますけど、セシェンく……さんって人間嫌いですよね」
オレの質問に窓を開けて換気していたセシェン君が振り返る。
銀髪が光を浴びて天使のわっかみたいになっている。絵になるのは美形の特権だろう。
あ、ちょっとむかついてきたぞ。
「昔ほど嫌いではございません」
結構穿った質問だったが、セシェン君の答えは静かだった。
「陛下にお付き合いするうちに慣れましたので」
「あ、成程」
むしろ嫌がっているセシェン君を嬉々として人ごみの中に突き落とすタイプだもんな、あの魔王様。
絶対やっている。賭けても良い。
それも多分暇つぶしとか思いつきで実行してるはずだ。スーパ○ひとし君使っても良いぞ。
「ですが……今までの人間の所業を甘受する気にもなれませんし、陛下のように人間達の文化に価値を見出す事もできません」
「人間の所業」
「温和なスライムの村を襲って焼き払い、略奪の限りを尽くし、領土を侵略し、或いは死体を向こうに持ち帰って弄び、その皮を剥いで身にまとい、遺族の目の前に晒す……一例ですがそう言う事ですよ」
あー。つまり人間の側からすればそれはダンジョン攻略とか、モンスター討伐とか、あるいは防具強化とかになるんだろう。
けど確かにされる側からするとそういう見方もあるかもしれない。
レベルアップの為の狩とか、ね。
「【蝕】の来る度に警備を強化はしてはおりますが、人間のやり口は狡猾かつ残虐、陰惨を極める物が多くトラウマを抱える者も少なくはございません」
「……うん」
「ですので……陛下のように彼らの文化に価値を見出す事もわたくしには出来ません」
「ふむ……。うん、まぁそうなんだろうね。それでもオレに色々と世話してくれるのは陛下の命令だから、か」
「それもございます」
ま、執事さん兼コックさん兼庭師さん兼お掃除人兼その他もろもろのセシェン君だからなぁ。
「ま、そんならさ。無理にオレにまで敬語使わなくて良いですから」
「陛下のお客様にさような無礼を働いては一族の恥となります」
「人間に敬語の方が嫌じゃないんですか?」
「陛下の為に生きる事こそがわたくしの全てですので」
うーん、何か誤解されそうな台詞をさらっと吐いてくれたが、多分使用人のプロとしての意識なんだろう。
でも嫌々敬語使われてもなー……慇懃無礼にはならなくても何となく分かるあの感じって結構気持ち悪いんだけどな。ほら、分かるでしょ? あれだよ、あれ。
「まぁ、でも敬語とか落ちつかないんで……良ければ適当に崩して下さい。これは客人としての要望ですから」
「畏まりました」
本当に聞いてた? 畏まりましたってもの凄い勢いで敬語ですよね?
「では失礼致します」
今のも敬語ですよね?
どうしようかな……同情するの止めようかな。
ま、とにかく今は体を休めるのを優先するべきだろうとオレは判断してベッドにダイブする。
異世界来てみたは良いけど藁のがちがちのベッドでしたとかいう殺意のわきそうなオチはなく、ベッドは普通にふっかふかで気持ち良かった。うーん、極楽。
……。そこ、白い目で見ないように。
デュランほどじゃないが結構長身(そして足長い……嫌いだ)のセシェン君が執事さんらしく颯爽と歩くのにくっついていくのが、万年整列の時に腰に両手当ててるオレにとってどんだけ大変か分からないだろう! あぁ分かってたまるもんか! ちくしょう……悲しくなってきた。
もうやめて! オレのライフはゼロよ!
なのでベッドのふかふか具合が天国に思える。
……魔界だけどね!
「寝よう……うん、夢オチかもしれないし」
この期に及んで往生際の悪い事を呟きつつ、オレは目を閉じた。
おやすみなさい。
良い夢を。
そしてオレが行方不明の間頼むから誰もオレの机の中を捜索とかしませんように。
切実だから。
どうも作者です。
此処まで読んでくださった奇特な貴方。ありがとうございます。お疲れ様です。
アクセスを先程確認したのですが、意外と見てくださった方がいらっしゃったようで恐縮というか……大人しく感謝します。
お気に入り登録してくださった見知らぬそこの貴方、ありがとうございます。
あくの強い一般人と、この後続くはずの非常識な魔王と苦労人のセシェンの掛け合い、拙いものではありますが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
作者拝