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任務完了とオレ

 夕暮れ。

 空が長さんの髪の色になる頃、オレは長さんと館の門の前でお別れした。

 柄にも無くしんみりしそうだったので、なるべく元気な感じで別れてきたけど……、


「長さん、また会えるかな?」

「気に入ったのか」

「うーん、まぁ……気に入るっていうか……嫌いじゃないけどね」


 ちょっとだけ、うちのじいちゃんみたいな感じだったから。

 少し懐かしかったのかもしれない。孫気分って奴。

 帰りがけにまた、あの硬くて大きくてごつごつした手で頭を撫でられたせいかもしれない。

 しかし、長さん意外と力が強かった。お陰でオレはよろけないように結構必死で足踏ん張るはめになったんだけどさ。まぁ、気持ちが嬉しかったから頑張って受けたけど。


「何か、うん」

「……多分無理だろうな」

「そっか」


 やっぱりね、とオレは呟いてデュランの後ろを歩く。


「……残念か?」

「ちょっとだけね」


 まぁ、そんな気はしてたからショックは無いが。


「あっさりしたものだな」

「かなぁ……いちいちへこんでたら人生やってけないしね」

「里芋の煮物の件ではへこんでいたようだがな」

「うっさい」


 てか何故知ってる。まさかお前もストーカーなのか。


「向こうの連中の間で噂になっていたぞ」

「……。やっぱもう来れなくて良いや」


 旅の恥は持ち帰ったり再燃させたりするもんじゃないのである。

 そうこう言いながら歩いてるうちに空の色が段々黒ずんで、藍色になって、そうなってきた頃にやっとこさで例の【門】が見えてきた。

 二つのねじくれた角みたいな白と黒のオブジェの間では例のうんちゃら文字が光ってる。

 もしかして、例の六甲おろしがまた来るんだろうか。

 はーんしーんたいがーす。


「……予定より少し遅くなったか」


 デュランが呟きながらその表面に触れると、文字が奴の手から逃げるようにざざーっと左右に割れる。


「文字にまで嫌われてるんだ……」

「何処から突っ込めと?」


 じっとりした目でデュランが見下してきやがったが、オレは無視してさくっと【門】の間へ足を進める。

 今回は突風は無かったし。面倒な事しないで済みそうだ。

 らっきー。


「おい、待て。勝手に行くな」

「やだ」

「ナカバ」


 何かごちゃごちゃ言ってるデュランをほっといて先に行く。待つ義理なんて皆無だし。

 間を潜り抜けた瞬間、ぐらりと体が揺れる感覚がする。

 ううっ、気持ち悪っ。


「……だから言ったのにな」

「言って無い、聞いてない……」

「どれ」


 後から追いかけてきたデュランがちょっぴりリバースしそうなオレの顔を見て、「ふむ」と頷く。


「ふむ……変わり映えしないな」

「黙れ……」

「あぁ、失礼。変わりはないようだな」

「絶対わざとだ……」


 美形なんて死ねばいいのに。


「まったく、無茶をする……通る前にきちんとその体を調整しないからそう言う事になるんだ」

「調整って……」

「まぁ、要は身体改造だな」

「死ね」


 蹴飛ばしておいた。

 馬鹿な会話のせいで吐き気はどっかいってしまったっぽい。

 オレはとにかくこの変態から速やかに離れるべく、例のぷかぷかしている紫の謎物体をよけながらずんずん大股歩きで進む。

 デュランの方はオレの方を見て何か言いたそうな顔をしたが、【門】を閉じる作業があるらしくまだ動く気配は無かった。

 よし、チャンスだ。

 えーと、まずはどっちにいったら部屋に戻れるかを探るところからだな。

 ……どっちだ?

 ま、適当に歩けばどっかに出るだろ。


「何を不満な顔をしている。欲求不満か?」


 ちっ、もう追いついてきやがったか。

 あれか? コンパスの差ですか? 捻挫しろ。骨折しろ。むしろそろそろ縮め。


「黙れ、息をするな、死ね変態」

「何故変態などと言われなければならんのだ……」

「自分の目に指を刺して良く考えてみろ」

「そこは胸に手を当ててではないのか?」

「ていっ」


 目めがけてチョキを突き出してみたが、それにデュランは似非E○Tみたいにチョキを合わせてあっさり塞いできやがった。

 良い子の皆は真似しないように。


「……」

「別段、その体をどう扱おうと俺の勝手だろう」

「いきなりご主人様宣言しやがったっ?!」

「ちなみに、純粋に学問上の興味しかないぞ」

「それはそれで嫌だ……」


 どんな事されるか分からん。

 朝起きたらアシュラ男爵とか、片目が車輪眼とかバッタの改造人間とか……。


「バッタをかけ合わせるのならばもう少しやり方と言うものがあると思うのだがどうだろう?」

「興味無いです」


 割合重要な問題だと思うのだがとかなんとかデュランはまだブツブツ言ってたけど、オレは無視して歩き続ける。

 そのオレの横にあっさり並び、デュランがこっちの顔を覗き込んでくる。

 ぷいっと反対側に顔を逃がす。


「ナカバ」

「何さ」

「そんなに歩いて疲れないか?」

「……問題無いし」


 ま、体力無いけどね。でも意地。


「大体、もう長さんに引き合わせたんだからオレのこっちでの仕事はおしまいでしょ?」

「ん? あぁ……そうだな、これで用件は終わりだ」

「ならもう良いじゃん。デュランも偶には仕事すれば?」

「仕事は何時でもできる。それに一応そろそろ止まった方が良い」

「デュラン、うざい」


 言って振り切る為にスピードを上げようとし、


「っ?」


 ガクン、と足が急に縺れて固まった。

 顔面から床に突っ込みそうになって、慌てて手を着いて顔を庇う。

 ガキン。


「セーフ……ん?」


 ガキン?

 何か妙に硬い音がしたような。

 オレは床を見てみる。

 例の黒っぽいタイルみたいな、奥のほうで小さな青白い光がちらちらしてる奴だ。

 音を立てたのはこれか? でも、ヒビとか入ってる様子は無いし……。


「あぁ、やっと効果が現れてきたな」


 床に四つん這いになってるオレの上の方からデュランの冷めた声が聞こえる。


「効果?」


 聞き返してから、オレは気付いた。

 気付いてしまった。


「……あれ?」


 座りこんで腹を一度抑え、それから手を見てオレは呟く。


「なんじゃこりゃあ……」


 オレの指、こんなんだっけ。

 硬くて、つやつやしてて、まるでマネキンみたいな……それが爪から始まってじわじわと手首の方まで変化が上ってきている。

 ……何これ。


「デュラン……」

「何を驚く」


 デュランの嫌になるくらい整った顔が小さく笑う。




「おしまいだと言ったのはお前自身だろう?」


 


 


【作者後記】

お気に入り登録100件……何だ、夢オチか。

と、色々失礼な事を言ってますがありがとうございます作者です。

訪れて下さる全ての方に感謝を。


さて、七日目夜。

そろそろナカバの話も終わりが近づいてきました。

人形になってゆく体を抱えたナカバの運命やいかに、ですかね?

ここから先はストックがあるので多少早く提供できるかと……頑張ります。


作者拝

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