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不器用とオレ

「……。マサキ殿、気分優れぬ様子と見受けたが何か粗相でもあったのであろうか?」

「いえ、まぁ、ちょっと色々と……おかまいなく」


 心労が重なってかるーくへこみつつ、かるーく苔栽培とか始めそうな感じになってるだけですんで。

 何があったかって?

 まず、鶏の声で起きて一発目にデュランを見てしまった。うっかりあのまま寝てたらしい。とりあえずデュランにはタオルケットを頭からかぶせて、ついでに水差しの水をぶっかけといた。当然の報復。

 それから目があった子供にものすごい勢いで目を逸らされ、おまけに逃げられた。

 そして朝ご飯の時に例の美人双子姉妹さん(彼女達が瑠璃さんと玻璃さんだった)に視線だけで呪い殺されそうな勢いで睨まれ続けた。

 おまけに生きの良い里芋の煮っ転がしがオレの箸から床に向かって華麗なダイブを決めやがった。

 オレの里芋だったのに……。

 まぁ、そんな悲しいハプニングが朝から立て続けに重なったせいでオレはちょこっと庭の隅っこでいじけていたのである。

 そんなオレを見かねたのか長さんが声を掛けてくれたわけでして。

 そのまま傷心のオレを散歩に誘ってくれちゃったり。気遣いの人だなぁ。

 ま、そんなんで今オレは山の中に居ます。


「……なんつーか、物凄いですね。ここ」


 右側には七分咲きの桜。左側には真っ赤なモミジ。季節感丸ごと無視。

 そう言えば食卓に出てた奴も何か季節バラバラだったし……今時養殖とか速成じゃない奴の方が珍しいから気にして無かったけどここは天然でも旬とかごっちゃごちゃな場所なんだろうか。外は一面の雪景色だしなぁ……。


「あのー、これって長さんの趣味ですか?」

「……趣味、とは?」


 この場合、「趣味」ってどんな意味の単語ですかという質問では無いだろう。

 オレが黙って周囲を指さすと、長さんは得心が言った様子で頷き、


「私の意図したものではないが、好ましくはおもっておるよ。良き眺めであろう」

「あー、確かに。ダウンロード数稼げそうですね」


 写真集とかも作っちゃいそうな感じ。

 オレは普通に感想を述べただけだったんだけど、長さんには何故か妙に受けてしまった。

 今の何が面白かったんだ? やっぱりデュランの知り合いだし、長さんも笑いのツボがずれてるんだろうか。

 ……。

 長。阿修羅王、だっけ。


「あの、何でオレを案内とかしてくれたんですか?」


 言ってからふと思い出して、「別に嫌だって訳じゃないですよ」とオレは手を振る。

 怒ってる訳じゃないんだけど、言い方がきつく聞こえる事があるらしく……要らん誤解を招いて痛い思いをした事が何度かあるし。まぁ、無愛想なのは自覚してるけどさ。

 長さんはそんなオレの様子に微笑んで手を振り、


「そなたが元気が無いように見えたのだよ。余計な世話であったやもしれぬが……」

「あ、いえ……ありがとうございます」

「デュラン殿の友人であるが故、と……そう考えておったのであろうか?」


 う……まぁ、ちょっとだけは。


「って、いやいや、友人じゃないですから」

然様さようであったか」

「さよーです」


 オレは友達を頭からタオルケットで簀巻きにした上に水ぶっ掛けたりしません。


「デュラン殿はそなたに気を許しておるようだったのでな……すまぬ」

「いえ、別に良いですけど……」


 気を許すと言うより、一方的に玩具にされてるような。

 オレの気持ちが顔に出たのか、長さんはふわと笑んで「マサキ殿」とオレの名前を呼ぶ。


「デュラン殿の一人称は、何と聞いておるか」

「え? えーと……」


 んなどうでも良い情報殆ど気に留めて無かったけど……何だっけ。

 音声モザイクかかった記憶を引っ張りだして、オレは自信無く答える。


「確か、俺、だったような? ん? 私?」

「然様。デュラン殿は一面酷く分かり易い方ゆえな……心を許した相手には俺、と名乗られるのだよ。公人としての彼は一つのけじめとして私と称するようだがのぅ」

「へー」


 何だ、作者がアホだから文体統一出来てないだけかと思ってたよ。


「長さんとの会話も俺、でしたよね。確か」

「……うむ。デュラン殿なりの親しみの表現なのであろうな」


 分かりにくい奴め……。いや、ある意味分かりやすいのか。


「でも、長さんに色々迷惑かけてません? あの馬鹿」

「……デュラン殿の事であろうか?」

「クリ○ンの事じゃないですね」


 冷凍庫様。


「デュラン殿には……世話になっておるよ。いささか心苦しい程に」

「つまり、迷惑なんですよね」

「迷惑、ではないのだがのぅ……何ぞ、デュラン殿から耳にされたのか」

「ま、ちょっとだけですけど……」

「何と申されてた」

「……どうしてオレに聞くんですか? 本人が居るのに」

「……」

「……すみません」

「否。そなたに聞く事では無いのだ。分かっておる」


 まぁ、あの魔王様の事だから答えないんだろうけど。こう言うのはオレが関われる話じゃないし、お互いに腹割って話し合うしかないような気がするんだけどなぁ……ま、そこまでこっちが言う義理もないけどさ。


幾歳いくとせを重ねようとも、難しきは人の心よな……」

「長さんでもそうなんですか?」

「無論……私も未熟故、未だ己が心すら見極められずにおる。こうして悩んでも詮なき事とは知っておるのにのぅ」


 長さんが未熟なら俺は無精卵だな。いや、我ながら意味分からん。


「デュラン殿の事をマサキ殿がどう見ておられるのか、私には分からぬ。分からぬが……嫌わないではいただけないだろうか」

「……」

「デュラン殿の業はあまりに深く重い。されどあの方はそれを表に出す事を良しとせぬ故に色々と誤解を招いておられる」

「はぁ……それ、すっごく頭悪くないですか?」

「……そうやもしれぬ」


 長さんの表情がようやく少しだけ緩んだ。


「実際、デュラン殿は不器用なのやもしれぬな」


 案外この人たち、単純に不器用同士なのかもしれなかった。


 

【作者後記】

イマイチ笑い成分が足りない、と思いつつ足りないまま終わる。

こんばんは、作者です。


ナカバがドライだったり、場の空気を読まなかったり、共感ゼロだったり……こんな主人公で良いんだろうかとたまに思います。

でも、そこにナカバを視点に据えた意味があるので。

同情しない、共感しない、引きずられない。

同じ空気に染まる事を拒否する姿勢って必要だと思うんで。


もう少ししたら軽い話になるはずです。

今しばし、お付き合い下されば望外の喜び。


作者拝

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