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夜話とオレ

下記の書名で伏字になって無いものは基本、思いつきで書いた書名です。

現実に存在する一切の書物とは関係ありません

(デュランが読んでいた本は除く)

 床に布団敷いて寝るのはじいちゃんちで良くやってた事だし、枕が変わったら寝られんとかいう性格でも無いんだけど。


「……」


 まったく眠れません。

 オレは溜息を吐いて布団の中でうつぶせになる。足をばたばた布団の中でさせてみちゃったり。


「うーん、寝不足のはずなんだが」


 妙に神経が騒いでいるのか眠れない。

 まぁ、このだだっ広い座敷で一人ぽつんと寝ろと言われているせいかもしれないが。

 障子に外の立派な庭の植木の陰とかが映ってざわざわしている。

 天井の木目は見上げたらどっかに一匹くらい隠しミッキ○が居るかもしれない感じだ。

 床の間には何か高そげな陶器の花瓶があって、花が活けてあったし……多分良い部屋なんだろうけど、広すぎる。落ちつかない。体育館の床に一人で寝そべってる感じ。

 羊も二十を超えた辺りで数え飽きてから放置されてるし……今頃牧場主は脱走したっきり帰ってこない奴らの為に大慌てだな。戯言だけどね。


「はー、ダメだ。諦めよう」


 何か水でも飲んでこようかな……ここの部屋の間取りとかさっぱり分かんないけど。

 起き上がって、まだ若干寒いので埃よけ用と思われる正方形の大判の布を肩に巻いて、オレは障子を開いてそっと縁側の方に出た。

 木の板の感触が裸足の足に気持ち良い。

 どっかで水の流れる音がする。庭で金魚でも飼ってるんだろうか?

 しっかし暗いな……月明かりだけってのは。


「ナカバ」

「っ?!」


 び、びびった……何か前にもこんな事あったな。

 オレは足を止めて、幽霊のような格好をしてるはず(長い黒髪、白い肌と白いずるずるした服……ほら、幽霊じゃん)のデュランを探す。……ん? どこだ?


「ナカバだろう。どうした」

「あ、部屋の中か」


 障子の向こう側から聞こえた声にオレは胸を撫で下ろす。


「いや、ちょっと喉乾いてさ。水どっかで飲めない?」

「ここにあるぞ」


 あ、ラッキー。手間省けた。

 オレは障子を開いて中に入る。

 同じく無駄にだだっ広い部屋の中にデュランがいた。

 まだ灯のともってる燭台の下に藤編みの椅子を置いて、座って足を組み分厚い革装丁の本を読んでいるようだった。へー、珍しい。


「まだ起きてたんだ」

「寝る気分じゃ無かったからな。水はそこの棚の上に水差しがあるだろう」

「あ、それか」


 傍に伏せて置いてあった茶碗に水を注ぎ、遠慮なくいただく。どうせデュランは珈琲しか飲まないだろうし。

 ついでに肩越しにデュランの読んでる本を覗き込んで見る。

 『Jenseits von Gut und Boese』 ……なんのこっちゃ?

 ついでに脇に積んである本を見てみる。

 『週刊少年ジャン○』『胸部画像診断技術の推移』『ミレイ式建築』『365日のおにぎり』『古着のおしゃれな着回し』『ネコ日和』『これが怖い!嵌りやすい金融の落とし穴』『人はなぜ衝動買いするのか』『配管の全て』『―――識の人間関係』 最後のはタイトルの上が良く見えないが、まず間違いなく某人間シリーズのどれかだろう。

 ……。

 デュラン、雑読にも程があるだろ。


「面白い?」

「まぁな……前に読んだ事はある物だが」


 パタンと本を閉じ、闇の中のパープルアイでオレを見上げてデュランが微笑する。


「そっちのはもう読み終わってるからな。読みたいのがあれば持って行っていいぞ」

「ふーん……」


 ネコ日和とかミレイ式建築と、あとは……おにぎりとかちょっと気になるけど。


「良い。要らん」

「そうか」


 気にした様子もなく読み終えた本をサイドテーブルに置いて、デュランは足を組み換えた。

 そしてオレの方を見る。


「……何を着ているかと思えば、そんなものは外せ。埃がつくぞ」

「いや、微妙に寒いし」

「そこにタオルケットがあるからそれにしろ」


 寝る気配もなくたたんだままの形のタオルケットを指したデュランに、オレはそれもそうかと埃よけシーツを外して、肩を払ってからタオルケットを借りる。おお、こっちの方がやっぱ良いな。


「で、眠れないのか」

「あー、うん。まぁね。セシェン君のベッドメイクが上手すぎてあっちに慣れちゃったのかも」


「ふふ……奴が聞いたら喜びそうだな。後で伝えておこう」

「喜ぶかねぇ。オレ人間だよ?」

「喜ぶさ……自分の仕事の成果を認められるのは嬉しい物だ」


 ふむ。まぁ、寝心地良かったのは事実だし。


「座るか? 立ったままでは疲れるだろう」

「えー……うん、まぁ、じゃあ座る」


 何故にこいつが居る場所に、とは思ったけどあの寒々しい部屋に戻っても暫く寝られないだろうし。

 オレは勧められて空いていた藤椅子に体を沈める。

 灯りは燭台一つだけというこの空間は結構薄暗いし、デュランの姿もあんまりみえない状況だからまぁ、これぐらいは我慢できそうだし。


「で?」

「で、って何さ」

「何か思うところがあって寝られないんじゃないのか?」


 薄明かりの向こう側から柔らかい音質のデュランの声が聞こえてくる。


「いや、そう言う訳じゃないんだけど……」


 普通に眠気がさっぱりやってこないだけだ。

 まぁ、デュランがこっち来る前に言ってた慰安訪問の意味は何となく分かったような気はするけど。


「デュランも眠れないの?」

「ん、まぁな……俺は眠らない時の方が圧倒的に多いが」

「寝なくても平気なんだ」

「あぁ……寝ても大して面白くもないしな」

「あんたねぇ……」


 面白いかどうかだけで人生渡ってく気かよ、こいつは。

 オレはギシギシと揺れる藤編みの椅子に座り込んだまま天井を見上げる。

 板で出来た天井。じいちゃん家を思い出す。


 オレは何も言わない。

 デュランも何も言わない。

 ただ障子の向こうで遠く眠そうな感じの水の流れる微かな音とか、葉っぱの擦れる音とか、自分の呼吸とか、そんな音だけが聞こえる。静かだけど静かじゃない世界。


「……何か」

「……何か?」

「……。うんにゃ、やっぱヤメ」


 ぐっと伸びをして、オレは体にタオルケットを巻きつける。みのむしみたいな恰好だろうな、オレ。


「デュラン」

「何だ」

「オレさ、ここに来て役に立ってる?」


 オレの問いにデュランは一瞬瞠目して、それから小さく微笑んだ。

 殆ど灯りの無い状態だったけど、何と無くそんな顔をしたのが分かるような気がした。


 

【作者後記】

こんばんは、ご来訪ありがとうございます作者です。

血沸き肉踊るバトルシーンは大好きですが、何もしないで近くに居てぼーっとしている場面も好きです。


長くなりそうなので肝心の部分はまた明日。



作者拝

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