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長さんとオレ

 

 晩ご飯は長さんとオレ、ついでにデュランの三人で囲炉裏を囲んで食べる事になった。

 食事を運んできてくれた和服のおかっぱの女の子達(双子でちょー可愛かった)は普段は長さんの給仕をしているらしいんだけど、デュランが来る時は同席が許されないとかで、お膳を外の廊下まで運んで下がってしまった。

 目がオレとデュランを睨んでたのは気のせいだと良いな……何でお前ら来てるんだ的な視線がビシバシ飛んでいた気がするけど、気のせいだと良いな。

 見ず知らずの、あんな可愛い女の子達から睨まれたとなったら、オレでもさすがにへこむ。

 オレはデュランに連れてこられただけで悪くないんです……とか、そんな言い訳聞いてくれる機会なんて無いよなぁ。はぁ。


「放っておけ。あいつらはこいつに依存し過ぎだ。良い薬だろう」


 諸悪の根源が小さな白身の魚から上手に骨を取り除きながら、冷めた口調で言う。

 どうでも良い話だが、てっきりフォークとナイフの世界の住人かと思いきや、デュランは普通に箸も使えるらしかった。学校で見る他の箸使いなんかよりよっぽど綺麗に扱ってるし。黒く長い爪があるのに器用なもんだ。

 ちなみに長さんは当然のように箸が使えた。こんだけ和風な格好だけど実は箸使えませんとかいう残念なドッキリが無くて良かった。

 で、献立は何かと言うとオレと長さんは同じキンメの煮付けだ。

 キラキラのピンクの薄い皮、ぷりっぷりの脂の乗った白身。目が純真な子どもみたいに澄んでる新鮮な奴。砂糖、酒、醤油、みりん、生姜……甘すぎず辛すぎず、良い感じのしみ込み具合ですなぁー。

 白いご飯が進むぜこんちくしょー。

 ほかにも三つ葉のお浸しとか、生湯葉のお刺身、小松菜の白和え、里芋と筍の煮物などなど。

 うまうま。


「……」

「……デュラン殿」


 ん?

 見るとデュランが魚が三匹あった魚の内一匹だけ食べて、残り二匹は丸ごと残して箸を置いていた。

 他の副菜やらお澄ましにも手が殆どつけられていない。


「……悪いが、これ以上は無理だ」


 なぬぃっ?!


「ちょっとデュラン。人んち来てご飯ごちそうになって、それ失礼じゃない?」

「そうだな」


 そうだな、じゃないだろ!

 そう思うなら食え。

 胃を四つに増やして反芻はんすうしてでも良いから食え!


「……デュラン殿、少し休まれては如何か?」


 心配そうな長さん。良い人だなぁ。

 でもデュランを甘やかすとつけ上がって碌な事しないぞ。


「ナカバ、お前これ食べないか?」

「自分で食え」

「焼き魚というのもなかなか旨いぞ。塩加減も良いし、この時期に最高に良く脂の乗っている魚だ。骨も身から直ぐに離れる新鮮な奴を焼いたのだから不味いはずが無い。この透明な脂、引き締まった身の色艶」


 ……。


「それに……ここの料理人の瑪瑙は相変わらず良い腕だな。見ろ、この金色に焼けた皮を。触れるだけでパリンと弾けるのが分かるか?」


 む……。


「大根下ろしも見ての通り雪のように白く軽く滑らかで、味は辛みがあるがさっぱりしている。これにここの庭でとれた酢橘を絞ってかけると実に良い香りがするぞ」


 むむ……。


「折角こんな上物を二種類も食べる機会があると言うのに、試さないなど愚の骨頂だな。……あぁ、しかし一種類しかナカバは食べる予定が無いのだったか? そうか、悪かったな無駄な話を聞かせて。さて、勿体ないがこちらは下げてもらおうとしようか。瑠璃か玻璃をここへ呼ぶ鈴は……」

「残すなら貰う」


 あぁ、俺は今確実に太っていっている。

 まぁ青魚の脂は頭が良くなるらしいし? 悪玉コレステロールに対抗できるらしいし? 良いんだ、別に。

 デュランが丸ごと残してた皿をこっちにレスキューし、有り難くいただく。

 そろそろ冷めてるかと思ってたんだけど、お魚はまだ焼き立てみたいに熱くてじゅわじゅわ言ってて、とても美味しかった。大根おろしや酢橘も勿論試しました。

 はー、幸せ。


 ふと顔を上げると微笑ましい、ってな表情の長さんとばっちり目があってしまった。

 う、うむ……まぁ、確かに良く食べてますけどね、オレ。


「こちらの料理はお気に召していただけたのであろうか」

「あ、はい。すっごくうま……美味しいです。オレこう言うの好きなんで」

「それは重畳」


 ちょーじょー……頂上?


「ナカバ殿、と申されたか」

「あ、いえ。こいつ……デュランはそう呼んでますけど出来ればマサキでお願いします。ナカバって名前、あんまり好きじゃないんで」


 あっちじゃこいつの顔立てておいたけど、別にこっちに来てまでわざわざナカバとか言われる筋合いも無いのでオレは軽くお願いしてみる。

 それに長さんは妙な顔一つしないで笑顔で快諾してくれた。


「では、マサキ殿」

「はい」

「本日は遠路はるばる、よくぞお越し下さった。心より感謝申し上げる」

「うぇっ?! いや、いやいやいやいや……その、オレはデュランに引っ張り込まれただけなんで。えーと、だからその、あんまり頭下げてもらえるような事はしてないと言いますかね」


 そんな風に畏まられちゃうとこっちは小市民だから恐縮してしまう訳でして。

 しかも、今はデュランの皿から獲物をかっさらったりしてるような格好な訳でして。

 ……うん、まぁ成長期だからその辺大目に見て欲しいな。うん。


「つまり、感謝するなら俺にしろと言う事だ」

「そうは言ってないし!」

「無論、そなたには常々感謝しておるよ」


 オコチャマ魔王の空気を読まないセリフにも微笑でフォローを入れる長さん。大人だった。

 これでデュランの方が実年齢上だってんだから、ねぇ……。


「……何だ」

「いーえ」

「……」

「……」

「なかなか打ち解けておられるようだな」

「解けてません」


 大人じゃなくて、もしかして天然なんだろうか、この長さん。


「長さんって、普段何やってる人なんですか?」

「何もしておらぬよ」


 あり?


「偉い人、なんですよね」

「いや、私は何の権力も持たぬよ」


 ありゃりゃ?


「ベルセルクさん達のまとめ役なんじゃあ……」

「纏めておると言うよりも、彼らが私を血の盟約により従ってくれておるにすぎぬ」

「そうなんだ、ちょっと意外です」


 でもデュランと違って人望ありそうだ。


「……また何か考えただろう」

「いいえ、別に、何でもございません」

「嘘吐きだな」


 食事を途中放棄しやがった無礼者が、箸置きでピラミッドを作りながらぼそっと言う。


「嘘吐き小人だな」

「何か余計な語句を増やしやがった!」

「ないない小人の親戚か」

「その顔でないない小人とか言うな!」


 知らない人の為に。ないない小人とは目に見えない小人さんで、人が必要な時に必要な物を隠し、要らなくなって忘れた頃にベッドの下とか机の引き出しの奥とかにそれを入れて返却する迷惑な妖精さんの事である。


「自分こそご都合主義なお伽噺の顔しやがって……」

「何だそれは……」

「知らん」

「……慕われておるの、デュラン殿は」

「違いますってば」


 長さん、もしかして天然ボケじゃなくて、本物のボケじゃないよね?

 そんな疑惑を抱きつつ、オレは口の中に沢庵を投げ込んだ。


 

【作者後記】

こんばんは、お越しいただきありがとうございます。

お陰様をもちましてPV10万達成(現在103,440)です。

新規にお気に入り登録下さったそこのあなたにも、以前からご贔屓下さってるそこのあなたにも、うっかり何かの間違いで入っちゃったそこのあなたにも、上記のどれにも当てはまらないあなたにも、感謝しております。


遅くなりましたが53話目です。

ご指摘、ご意見、ご感想、放置、いつでもお待ちしております。


深謝を込めて 作者拝

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