二時間ドラマとオレ
ちょっと短め
つくづく、この館の中はブラックボックスだ。
明らかにそこ道じゃねぇし、というような場所を「隠し通路だ」の一言で連れ回されてぐるぐる歩き回り、
「えーっと」
気付けばそこは不思議の国でした。
「ここ、さっきまで室内だったよね」
「そうだな」
「なのに今、何故崖っぷちにいるんでせうか……」
二時間ドラマのクライマックスに出て来そうな、波ザッパーンな崖の上に俺とデュランは居た。
まぁ、足元が何か奥の方で青白い光がちらちらしてる黒いタイルで、打ち寄せてくる波が紫色な時点で明らかにドラマじゃねぇ、ってな感じなんだけどさ。
崖っぷちには何か床からにゅぅっと白と黒の馬鹿でっかい角みたいなのが一本ずつ生えてる。
おまけに何か空中にはでっかい紫のシャボン玉というか……真珠・紫ばーじょんみたいなのがぷかぷか浮いてるし。
何だろう、このぷかぷか。
「触るなよ」
オレの方を見もしないでデュランが言う。
「血管の中身を沸騰させられたくないのならばな」
「げぇっ」
そんなグロい死に方は嫌だ。やめておこう。
てか、そんな危ないもんがごろごろしてる所に連れてくんなよ。
「あれらは一種の増幅、安定用の媒体だからな。俺の後ろに居れば安全だ、そこで大人しくしていろ」
「そしたら前みえないじゃん」
「縮むのはまた今度な」
「えー」
「死にたいか?」
「……」
あんたがそう言うセリフを言うと洒落に聞こえないんだってば。
オレはブチブチ言いながらデュランの陰に入り、さっきから空間に手をかざしているデュランの手元を覗き込む。
「何やってんの? それ何? 何かの記号? 文字?」
「沈黙文字だ」
「文字は喋らないけど?」
「そうだな」
キータイピングって奴にちょっと似てる。
そんな動きをデュランの指がするたびに例の二本の角もどきの間の空間が上から順番にシャッターが下りてくるみたいに発光する文字で埋め尽くされてゆく。これ、二日目に見た奴だ。
「魔法使って良いの?」
「必要だからな……さて、開くぞ」
デュランが手を引くと同時に、輝く文字で埋め尽くされた空間の間に線が縦に一本入った。
そう思った瞬間、パリンと何かが割れる音がして突風がそこから吹き出した。
「っ!」
突風なんてレベルじゃない。
台風の実況中継――傘がおちょこになっちゃう奴。
ぎゃー、飛ばされるー!!
「落ちつけ」
「落ちつけるかっ!」
「その風は幻だ」
「幻っ?!」
これが?
「足の裏に意識を集中しろ。靴底の感覚が分かるか?」
「靴底の感覚とか言われても……」
「足の指を動かしてみろ。中敷きの感触をまず確認しろ。そうだ……その調子だ。
強風が吹いていればそんな風に呼吸が出来るはずもない。出来ると言う事はこの風は幻だ。
目を閉じて、自分の体の輪郭を意識しろ」
命令口調なのがプチむかついたが、まぁこう言うのは一種の暗示とか落ちつかせるテクニックだと言うのは分かるので、一先ず言われたとおりに目を閉じて意識を集中する。
つっても、体の輪郭何か意識した経験ないんだけどな……。
とにかく集中。集中。集中。
頭の中でそう繰り返してると、唐突に、風が、止んだ。
「……上出来だ」
「あんたに褒められてもね……」
「思ったよりも早く立ち直ったな。さて、目を開いてみろ」
「何で最後まで命令口調……」
「お願いされたいか?」
訊かれて、頭の中でお願いするデュランをシュミレートしてみた無理だ。
句読点の入る余裕すらなく即座に脳が拒否した。
「やっぱいい。キモイ」
「まぁ良いから見てみろ。この光景はなかなか見られるものではないぞ」
「む……」
良いなりになるのは癪だけど、折角の「なかなか見られない光景」とやらを意地張って見逃すのもアレだな。
オレは言われた通り渋々目を開け――息を、呑んだ。
【作者後記】
移動します。