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疑問とオレ

「冷えて来たな」


 喋り続けだったオレが一度口を閉じたせいで降りた沈黙を破るように、デュランがぽつりと呟いた。

 そりゃそーだ。今真夜中だし。


「知っているか」

「何を」

「成長ホルモンは睡眠後約二時間ほどしてから分泌されるそうだ」

「……」

「まぁ、今のお前には関係ないがな」


 寝たい。

 今すぐ布団に帰りたい。

 が、肝心な質問をまだしてない。ここで逃がしたら多分こいつの尻尾を踏んづけるチャンスはもう来ない。

 今こうやって付き合ってるのも殆どこいつの気粉れだろうし。

 気紛れは、まぐれなのだ。

 まぐれは次が無いと言う事だ。


「で」


 そんなオレの内心を見透かすように、デュランが紫色の目を細めてやんわりと笑む。


「何か言いたい事はあるか」


 何度目かの問い。

 その後ろに「これで聞くのは最後だぞ」という幻聴が聞こえた気がした。

 仏の顔は三度まで。魔王の我慢は何度までなんでしょうかね。


 まあ、外堀は大方埋まった。

 突貫工事だったけど、そろそろ攻め込んで良いだろう。

 オレは一気に核心に切り込む。


「オレを召喚した理由は何?」

「最初に話しただろう。暇潰しだ」

「誰の?」


 言って、オレは首を振って言いなおす。


「そんだけのリスクを背負って、オレを召喚する理由って何?」


 リスク――魔法。


「召喚した方法は魔術じゃなくて……魔法でしょ」


 初日にセシェン君とオレは赤の他人同士だった。

 だから、あの時点でセシェン君がオレの都合を慮ってオレを元の世界に返す必要なんて無い。

 彼はあくまであの時点では、主の為だけに反対していたのだ。

 常識的な反応?

 そう、常識的な反応だ。

 オレにとっての常識では無くて、セシェン君にとっての常識――主人を守る事。


 だからこそ、目の前に居たオレに気付けないほど焦って、駆けつけてきた。

 デュランがそれだけの無茶を、身の安全を脅かす規模の魔法を、つまり異世界召喚を行使したから。


「これってさぁ、言ってみれば暇潰しに自分の命を賭けてるみたいなもんでしょ」

「いけないか?」

「や、生きざま的には割と好きだけどね、そういう馬鹿っぽい感じ。でも、あんたはそんな事出来るはずがない」

「はずがない……か。また大きく出たな」


 デュランが更に目を細め、唇を三日月の形に歪める。

 ぞっとするほどに妖艶な微笑み。

 悪魔的なほどに艶麗な眼差し。

 美形嫌いとか関係なしに、オレは背骨に液体窒素を流し込まれたかのような気分に陥る。

 舌が急に干からびた感じ。

 喉が締めつけられたようで、呼吸が上手くできずにオレは喘ぐ。 


「……飲め。落ちつく」

「う、うん……」


 言われるままになるのは癪だったが、とにかくオレは手を伸ばして残りの温い牛乳を一気に煽った。



 ……はい、そりゃもう派手に噎せましたとも。



「計算通り」

「てめっ……このやろっ、お前がキラか!」

「私が魔王かみだ。まぁ、あの状態で飲めば確実にそうなるだろうとは思っていたが……そこでさらに一気に煽るとは勇者だな。よし、勇者の称号をやろう」

「いるかぁっ!!」


 こっちの勇者なんざ実体ない名前ばかりの存在だって話じゃなかったっけか? んな自宅警備員みたいな自由称号要らんわ!

 げっほげほ……あ゛ー……。

 はぁ、でもまぁ調子は戻った。


「それで?」

「え? 何の話だっけ?」

「出来るはずが無い」


 同じ言葉をさっき自分が言ったばっかりだっつーのに、デュランの口から出ると途端に不吉な響きになるから不思議だ。

 やっぱり些細なセリフにも邪悪さとか腹の黒さとか心根の恐ろしさというのが滲みでるのだろう。

 間違ってもこんな大人になってはいけない。

 デュランは「良い」見本だった。


「いや、伸びるはずが無い、だったかな?」

「言って無いし!!」


 この野郎。

 愉快そうに顔を背けてクツクツと肩を揺らしているデュランを睨みつけつつ、オレは話を続ける。

 多少ぶっきらぼうになるのは仕方ないだろう。


「あんたは何か目的あって魔王なんて面倒な事引き受けてんでしょ」


 生憎とか言いつつ、未だに魔王。

 自ら乗り込んでって、前の魔王を配下もろとも虐殺して王位を簒奪したデュラン。

 退位も陛下なら可能でしょうとセシェン君は言っていた。

 同時に、デュランには何か考えがあって退位するつもりは無いらしいとも言っていた。


 『色々と必要でな』


 色々と。


 自分の主義とか、他の魔族の命とかを犠牲にしても魔王という立場、手段が必要だから。


「ま、魔王の仕事は相当さぼってるみたいだけどね……」


 嫌みを混ぜてみたが、デュランはどこ吹く風だった。

 チッ、無駄に太い神経してんな。


「とにかく、やる事残ってるのにセシェン君がすっ飛んでくるような……それだけ負担のデカイ魔法をわざわざ使って、当たり外れどっちか蓋開けてみるまで分からんような相手を呼びよせる。そんな危ない橋を好んで渡るほど、あんた自暴自棄タイプじゃあ無いと思うんだよね」


 言いながらオレは内心結論のお粗末さにがっくりくる。

 思うってなんだ、思うって。

 結局今までの話も推論と感想だけで出来てるのがまるっとお見通しだよ。


「……うん、まぁそんなとこ。だからさ、理由が暇つぶしだってんなら……あんた自身の為の暇潰しじゃないんじゃないかって」


 微妙に言葉が弱くなったのは大目に見て欲しい。

 最後はフィーリング頼り。

 うん、我ながら微妙だ。


 オレの言葉が終わってから、デュランは暫く黙っていた。

 オレはやる事がないんで、取り合えず空っぽになったカップを観察する。


 ややあって聞こえたのは小さな溜息とやる気の無い拍手の音だった。


「へ?」

「充分だ。さて……やる事が出来たな」

「は?」

「お前もそろそろ戻って休め。出発まで少し眠った方が良い……お前ではあの獣道はきついだろうしな」

「え? いやちょっと待って、何? え? オレ何か聞き逃した?」

「お前の質問には後七時間後に答えてやる」


 何処までも上から目線な台詞をほざきつつ、デュランはパチンと指を鳴らしてテーブルとカップを目の前から消す。


「それまで睡眠をとっておけ。それと、山道を歩いても構わないような服装を探しておけ……まぁ普段の恰好でも問題なさそうだがな」

「いや、話がさっぱり分からないんだけど」


 さっきまでのオレの努力とか緊張はどうなっちゃったわけ?

 おい答えろマイペース。


「さっき言っただろう。今は寝ておけ。後で会わせてやる」

「だから何の話か、って」

「暇を潰させてやりたい相手だ。お前を連れてゆくかは正直迷っていたがな……まぁ、面と向かってオレに噛みついてくる程度の気概はあるようだし、そう馬鹿でも無いようだ。まぁ、せいぜい乳歯が生えて無い子タダヌキ程度の噛みつき具合ではあったがな」

「お前こそ古ダヌキのくせして」

「まぁ、とにかく数時間後にはお前を連れて外出するから今のうちに寝ておけと言ったのだ」

「はぁっ!? 何その勝手な決定!」

「良いぞ、別に起きていたいならば止めん。眠気と疲労で意識を失っても知らんがな」


 その時は、背負って運んでやろうか?

 クスと笑われて、オレは無言で手に持っていたヴィスカスから引っこ抜かれたベビーベ○もどきを投げつける。

 それを当然のようにキャッチして、理不尽魔王は優雅に微笑む。


「で、最後に何か質問は?」

「インスタントコーヒー飲んだ事ある?」

「いや、無いな……ナカバ、代わりに買っておいてくれ」



 ふざけんな。


 

【作者後記】

肩透かしですみません。やっぱり逃げられました。

後でと言ってるのでちゃんと後で回答出ますけど……残念な感じですみません。


こんばんは。ようこそいらっしゃいました。いつもお世話になっております。作者です。


お気に入り登録ありがとうございます。

最初0だったのが71……少々感慨深いものがあります。

1件増えるごとにビクビクしているのは相変わらずですが、最近は当初に比べて素直に感謝出来るようになった気がします。

登録してないけど読んでる、という皆様にも深い敬意と謝意を。

ありがとうございます。


異世界五日目(から六日目未明)から次は六日目朝へ移ります。

残り僅かな異世界探訪ですが、宜しければお付き合いください。

もう一つほど仕掛けは残してあるので、宜しければその辺予想なさってみるのも面白いかと……お、面白いと良いな?

(そっちはちゃんとはっきり結論出しますので)


作者拝

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