追及とオレ
「使えるぞ。そもそも、魔術が使える者にとって、魔法など容易い事だ」
予想通り、デュランは即座にそう返してきた。
だからこっちも同じ手を返す。
「実際に使ってたしね、二日目に」
「……」
森を切り開いてた軍師ビーム。
四方八方にずらずら連ねてた魔法陣。
あれらは多分魔法だ。
「変だなーと、あの時思ったんだよね。何でこいつこんな必死なんだってさ」
魔王は魔界で最も強い魔力を持つ者への称号。
ぱっと聞いた感じゴッキーより紫変人オーラのデュランの方が強そうなイメージだと言うのに、声を上げてまでセシェン君を呼び出してたデュラン。
ゴッキーに触りたくないって事かなーとも思ったが、それならセシェン君があの場で青ざめる理由が微妙だ。
主人がお怒りの時に一緒に慌てるほどセシェン君の執事レベルは低いとは思えんし。
じゃあ、何で?
「デュランの方が弱いから主人がピンチだと思った。これなら理屈は通るんだけどさ……そうするとまた三日目とかの状況と食い違っちゃうんだよね」
『如何にヴィスカス卿が優れてらっしゃるとしても、陛下の足元にも及びません』
セシェン君が心外そうに言った言葉。
これを信じるなら実力はデュランの方が上じゃないと可笑しい。
実際デュランは何度かヴィスカスを撃退してるし、今回は手加減したとか言いつつ体内の重要器官を引っこ抜くような芸当をしている。そもそも、前魔王の城に一人で乗り込んで殲滅しやがったこいつが、あんまり弱いとは思えない。
じゃあ、何で?
「そうすると今までと何が違ったかって考えると、あんたが指パッチンの魔術じゃなくて魔法を使ってたって所にポイントがあるんじゃなかろーか……と、思ったんだよね。実際あの後妙にあんただるそうだったし、セシェン君はアンタ甘やかすし……ってこれはいつもの事か」
「ふむ」
オレの話を妙に楽しそうに聞いていたデュランは、ここで足を組み変えて背もたれに肘を預けるような格好に座り直す。
おーい、またムダ色気が駄々漏れってるぞ。その服ちゃんと着ろよ。
「……今聞いた話では根拠として弱いな」
ですよねー。
「じゃあ、これはどう?」
マグカップをテーブルに戻し、オレは少しだけ体を前に傾ける。
「黒い……リング、だっけ? とにかくあんたが身に着けてるそれ。何でそんなの大量に着けてるのかって事」
「趣味だ」
「あとは、破裂しないように」
オレの言葉に奴とオレの視線が一致する。
「崩壊、だっけ? あんたの台詞だとさ」
黒い輪っか。リング。
高位魔族、つまり魔力たっぷりもってまっせーなセシェン君でも、劣化版で瀕死に追い込めるくらい大量の魔力を吸い取る効果があるそれを、デュランは全身にじゃらじゃらつけまくってる。
最初見た時はそのファッションセンスにどん退きしたね。
全身ピアス男みたいじゃん。
耳とか指とか腕とか首回りとか、服が白だから引き立て合っちゃって絶妙な不協和音奏でっぱなしな感じ。
でも、これは魔力を抜き取る装備だ。魔族にとってはHP削る物。
それをこんだけ身に着けてるってのはドMとしか思えない。
けど、幾つかの話をかけ合わせるとどうなるだろう。
例えば、クコとやらを食べて魔力を回復し、モロの君になったセシェン君。
『幼体では内包する魔力に体が耐えられない。よって無意識に体を成長させたのだろう』
『体と力のバランスを取る為に本来の姿に近づいたと言う事だ』
『力に見合った体でなければ崩壊するからな』
例えば、魔王の称号。
これは初日に聞いた。
魔王とは、魔界の中で最も強い魔力を持った者への称号。
例えば、紫の美形背景効果。
二日目のヴィスカス来訪時にセシェン君が教えてくれた。あれは、デュランの魔力だって。
デュランは魔界で最も強い魔力の持ち主。
それだけリングを大量に身に着けていても、外に溢れ出して見えてしまうほどに。
つまるところ、
「あんたの体、あんたの持ってる魔力の量に見合って無いんじゃないの?」
デュランは魔力と体の関係を空気と風船にたとえた。
空気を風船の中に入れれば膨張する。
膨張のいきつく先は破裂だ。
ねぇ、デュラン。
アンタの体は、そんな自虐プレイみたいなことまでして、そこまでやって抑え込もうとしても足りないぐらいのギリギリ――破裂寸前じゃないの?
オレの問いにデュランは微笑ってるだけで答えない。
だから、オレは言葉を重ねる。
こいつ相手にカードを出し惜しみする余裕はこっちには無いんだから。
「そう考えると全部引っかかってた事の辻褄が合うんだよ。魔法が使えない―――能力面では可能でも、その反動に体が耐えられない」
「魔法より、多分魔術の方が省エネモードなんじゃないかな……だから普段は魔術を使ってる。同じ理由で普通の魔法をなるべく使いたくないから機械に頼る」
「二日目のあの時にもセシェン君が顔色変えてた理由にもなるよね。あの時のあんたは本来使うのをなるべく避けるべき魔法を使ってヴィスカスに対抗してたから」
「普段はそこをセシェン君がサポートする事であんたの負担を軽くしてたけど、あの時はセシェン君は居なかった。だから一人で魔法を使い続ける状況になって……相当な負荷を受けてた」
「あんたの背景効果があの時にスーパー○イヤ人になってたのも、魔法を使ったせい」
「だから、それを知ってるセシェン君はヤバイと思って顔色を変えた。あんたが怒ってたせいじゃない。主人に身の危険が迫ってたから青ざめたんじゃない?」
「結果としてあんたはヴィスカスは撃退したけど、ダメージは大きかった。だるそうにしてたしね」
「三日目に限ってセシェン君が暴走したのもそのせい、違う?」
一気にオープンにしたカードに、デュランは一度眼を閉じてやけにリラックスした様子で天井を仰いだ。
何かワイン片手、膝には白いシャム猫でも置いてそうな雰囲気だった。
後は葉巻があれば完璧かな。
その状態で第九にでも耳を傾けてればあんな感じになるんだろうけど。
……何故その反応になるんですくぁ。
「お前はなかなか面白い」
ややあって、デュランはそんな事を言った。
いや、別にオレは面白さに人生かけてる芸人でも何でもないんですが……普通の学生だし。
「まぁ、一部訂正があるがそれは後回しにするとして……三日目のセシェンの暴走、か」
「うん」
「話は面白いがそこが弱いな」
うーん、やっぱりそうきますか。ここで退いてくれれば本題に入れるのに。
「退かないぞ」
笑うデュラン。
「久々に愉快だ。あぁ、それと……お前から始めたとは言え分かっているな?」
「何をさ」
投げやりに返したオレに、デュランはにっこりと、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「これがテストだと言う事だ」
上等だコノヤロウ。
【作者後記】
ご来訪ありがとうございます。作者です。
なんか「その考えだとここが矛盾するぞ」とか色々突っ込まれそうな回になりましたがまだ続きます。