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かさ増しとオレ

「さてと、プチプーペの件はひとまずは片付いたとして……セシェン」


 デュランが指をパチンと鳴らすとセシェン君の目の前に直径3cmくらいの小さな桃のような物が現れた。

 ちなみに色は灰茶色。熟しすぎちゃったバナナの色。

 間違っても「わぁ、おいしそう!」とか思えない。

 むしろこの色痛んでるだろ。腐ってるだろう。そうとしか見えない。

 瀕死なところに変質者ゴッキーに襲われ、疲労困憊のところに腐った桃もどき。

 某高校生のように「不幸だ」とセシェン君が嘆いたとしても誰も責められまい。

 まぁ、神の御加護(ラッキー)は魔族のセシェン君には関係なさそうだけどね。

 さすがのセシェン君もこれを受け取る気にはならないのか、謎の実(?)を見たまま停止してる。


「食べろ」


 響く鬼畜魔王の声。

 あ、あセシェン君の耳が垂れた。


「聞こえなかったのか、セシェン」

「……このようなもの、いただけません」


 おお! 良く言ったぞセシェン君!

 しかし、デュランの方は大人げなく顔に「ふきげん」の札をぺたっと張り付けたように片方だけ眉をあげる。

 顔に浮かんでるのは笑みなだけに、ものっそい性格の悪さが露呈されている。

 泣く子も黙る、魔王来々って感じ。

 

「セシェン」


 猫なで声で名前を呼ばれ、セシェン君が俯いて体を震わせる。

 がんばれ、負けるな、力の限り生きてやれ。


「セシェン、三度目は無いぞ」

「……。はい」


 あー、負けちゃった。

 まぁあんな風に笑顔でやんわりと脅されたらオレでも断り続けるのは無理だろうけどさ。

 セシェン君は覚悟を決めたのか、牙牙した口をあけてガブリと丸ごと桃もどきを食べた。

 セシェン君が某人食いザメに見えた。


「……大丈夫? 死んでない?」

「人聞きの悪い事を……」

「いやだって、アレ食べた瞬間に吐き出しそうな色してたよ」

「クコだ。まぁ、栄養ドリンクだと思えば良い…魔力を回復するものだ」

「へぇ」


 あっそ、まぁ本音はアレが何だって良いんだけど。

 お、セシェン君がいつの間にかSサイズからLサイズになってる。ちみワンコもなかなかラブリーだったが、オレ的にはモロ様みたいなこっちのサイズの方が良い。

 チワワより土佐犬がオレは好みだ。小型犬うるさいんだもん。


「あの小さかったセシェン君がこんなに立派になって……ばあやは嬉しゅうございます」

「いえ、ナカバ様はまだお若いかと」

「セシェン、その突っ込みは無粋だぞ」

「ボクもっ、立派っ!」


 小柄でもビリリと危険なプチちゃんが無い胸を張ってる。

 あなたはそのままでいてください、とか思わず心の中で呟いてしまったほど彼女は輝いていた。


「でー、何故に拡大?」

「魔力が戻ったからな。幼体では内包する魔力に体が耐えられない。よって無意識に体を成長させたのだろう」

「えーっと?」

「体と力のバランスを取る為に本来の姿に近づいたと言う事だ。空気を風船の中に吹き込めば膨らむだろう」

「ふむふむ、じゃあ魔力が高いほど体は大きくなるわけ?」

「いや、そうでも無いが……力に見合った体でなければ崩壊するからな」


 さらっと怖い事を言うデュラン。

 まぁ、魔力ゼロらしきオレにはさっぱりちっとも関係無い話ですが。


「まぁ、セシェンが自力で回復するのを待つのも面倒だったのでな」

「面目ございません」


 うなだれるセシェン君。


「さて、セシェンは放置するとして」


 放置すなよ。お前本当に非道だな。


「ナカバ」

「何」

「貸しておく、使え」


 オレの目の前に銀色に光る立方体が現れる。

 ん? この感じ前に何処かで見たような。


「あぁ、キューブの原型か」

「陛下! それは陛下のキューブではございませんか!」

「替えが今は無いからな、貸しておく。セシェン、ナカバが妙な事をしないように見張っておけ」


 オレの事なんだと思ってる。


「サルの前に核兵器のボタンを並べて置いてあるようなものだからな」

「サル言うな! つーかそんな物騒なものよこすな! 返す!」

「まぁ、カードキー機能以外は弄るなよ」

「そう言う事言うとやるぞ」


 ちなみにオレは機械クラッシャーとして知人間では有名である。近寄るだけでGPSを狂わせる魔性の存在とか勝手な事言われてるが、オレが乗った車のカーナビが暴走したのは事実なので言い返せないのが悔しい。

 多分偶然。

 計10回以上ジャイロが狂って、全部オレが助手席だった時だとしても偶然だったら偶然だ。


「まぁ、その為の安全装置セシェンだからな」

「セシェン君不憫だ……」

「そう思うなら大人しくしていろ。一応後でそちらにコレも行かせるから、大抵の災害は大きくなる前にプチプーペの騒動に飲み込まれるだろう」

「ダメじゃん」 


 被害拡大してるじゃん。


「てゆうか、あんたはどうするわけ?」

「ヴァンパイアの当主を少し黙らせてくる予定だ」


 じゃれついてるプチちゃんを片手であしらいながら、デュランが何気ない調子で言う。

 でも、オレはその言葉にセシェン君が微かに緊張するのを見てしまった。


「何だ」

「うんにゃ、別に」


 ま、あのゴッキーがどうなろうとオレには関係ないし。

 でも、


「ほどほどにね」

「……あぁ」


 オレの言葉にデュランは小さく笑い、その場からプチちゃんごと掻き消えた。


 

【作者後記】

どうも、尋です。月曜日です。四月最終週です。

あとちょっとでGWですね。お仕事されてる皆さん、無事にGWはやすめそうですか?

お互い休めると良いですよね……一日中寝ていたいダメな大人になってしまいましたけど。


最近お気に入り登録繋がりの小説を読んでいます。後読んでないのは多分2作品ぐらいですかね。他は読了しました。

他の人の文才が羨ましいです。

綿密な構図とか惚れ惚れしますし、読んでいて思わずニヤッとしたり噴き出してしまったり、ああ言う話が書きたいですね。

読みたい放題。幸せです。


カーナビのくだりは実は実体験。  作者拝

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