設定説明とオレ
まぁ、何だかんだでセシェン君はオレを帰せとデュランを説得するのを諦めたらしい。
根性が足りないぞ。もっと頑張れよ。
上司に逆らう気概を持て。そんなんじゃ将来大物になれないぞ!
そんな冗談はさておいて……普通魔王っていうのは魔界のトップの事だろう。
それがこんなジャイアンでいい加減な奴で務まるんだろうか。他人事ながらちょっと心配になる。
しかも家具から壁から真っ白な部屋に、白の上下で黒いアクセサリーじゃらじゃら付けてるフェロモン魔王とか、色々終わってる気がするんですけど。
「あぁ、問題無いぞ」
デュランがしらっとした顔で言う。
「その辺りを一応説明してやろう。お前もしばらく此処に滞在するのだからな」
「オレの意見は無視ですか。そーですか」
「悪くは無いぞ此処も」
いやそういう問題じゃ無いから。
「まぁ、そもそも魔王というのは魔界で最も強い魔力を持つ者の称号であって、魔界の為政者とイコールではないからな。現実に魔界の政治を動かしているのは東西南北の各区域ごとに存在する有力な種族の当主だ」
「あぁ、つまり魔王になるだけなら中身は空っぽでも強けりゃオッケーと」
「まぁそういう事だな」
「陛下に対して何という無礼な事を……」
その陛下がオレに対してやった事はもっと無礼です。
「つまり、あんたは能力的にトップだけど魔界の統治では無い訳ね」
「まぁ、そうだな。よって暇となる訳だ」
「ならば仕事をなさってください」
「気が向いたらな」
……ダメな人が此処に居る。人じゃなくて魔王だけど。
セシェン君の暗い表情が少しだけ気の毒だ。諦めの色が大半な辺りが特に。
「あぁ、ついでだから紹介しておこう。これはセシェンだ。セシェン」
「……。セイリオス・セシェンと申します。陛下にお仕えしております」
最初の三点リードに彼の葛藤を感じる。
「見た目は今はこれだが、こいつも魔族だ」
一方、独り優雅な暇人魔王、デュラン。
誰かこいつを殺してくれないだろうか。
「まぁ、魔界だからな。普通の住民は皆魔族だ。人間が居ないでもないが……この辺りには住んでいないな」
「へぇ、魔界にも人間居るんだ……。やっぱり奴隷の村とか?」
「失礼な」
セシェン君が眉をしかめる。
「陛下はそのような真似はなさいません。人間はきちんと保護されております」
「保護?」
「物質界では異端視されて住めなくなった者の避難所だな。主には魔力過多、身体特徴に異常や障害を抱える者。そういう者をこちらで引き取る訳だ」
「ふぅん……で、オレもそこに住む事になる訳?」
「まさか」
紫の目を軽く見開いてデュランは艶笑する。
「それでは私の退屈が紛れないからな。此処に住んでもらうぞ」
「いやだ」
即答。
誰が悲しくて顔の良い男(まぁ魔族だけど)に囲まれた場所で生活せにゃあならんのだ。
どんな罰ゲームですかこれは。
「ふむ、そうか……さて、セシェン。お前が中を案内してやれ」
「無視か! 分かってたけどね!」
「安心しろ」
微笑むデュラン。
「セシェンはお前を齧ったりなどしないから」
ポイントが違う。わざとだろうテメェ。