三回戦とオレ
第1ラウンド : ゴッキーことヴィスカス VS 一般人オレ。
結果、ヴィスカス圧勝。
ま、当然だ。こいつに勝っちゃうほどオレ人間やめてない。
第2ラウンド : ストーカーことヴィスカス VS 弱体化セシェン君。
結果、場外乱入により中断。
そして、第3ラウンド。
「陛下と我の邪魔をするものはすべて排除するのみ」
地獄の釜の底、もとい陥没クレーターから復活してきた変態貴族ことヴィスカス。
VS、
「おうちを壊す悪いこはっ! 月に代わっておしおきっっ!!」
どっかで聞いたような台詞を高々と宣言すゴスロリ美少女戦士ことプチちゃん。
「さぁ、いよいよ始まりました第三ラウンド。突如として流星のごとくリングに降り立った謎の美少女戦士プチちゃん。迎え撃つは成績不敗の性格腐敗のヴィスカス。一体どんな試合が繰り広げられるのでしょうか。なお実況担当はわたくしナカバ・マサキ。解説にアンジェロラッシュ……じゃなくてセシェン君を迎えてお送りいたします」
「あんじぇろらっしゅ?」
「あ、ううん。気にしないで。ただの冗談だから」
稀にしか発動しない某魔女の技である。
近所の犬をつかってこれを弟にかましたのは良い思い出だ。いやぁ、ごめんねわんこ。
そんな和やかな会話を瓦礫の中で交わしてる間に既に何か向こうじゃドンパチが始まっていた。
まぁ、相変わらずなにやってんだかオレにはさっぱりちっとも分からないんだけどね。
とりあえずさっきまで大苦戦してたオレやセシェン君に比べてプチちゃんが割と余裕っぽいというか、あの焔を防いじゃうあの日傘何者? ってゆうか。
「てゆうか、今素手で炎はたき消したよね。びんたでバシーンと」
「はい」
「良く腕燃えないよね」
「お嬢様ですから」
「……そっか」
まぁ美形が勝つより美少女戦士の勝利の方が良いけどさ。
ひらりっと交わすたびにスカートの中の……えーと、あれは何だっけ。今時電気街とかでよく見かける……えーと、ジャージでもスパッツでもないのは確かなんだけどなぁ。うーん……ま、ゴスロリだな。うん、ゴスロリ。どうせ細かい服の名前はオレには分からんし、ふわふわとかひらひらとか言っておけば間違いないだろう。
この前それを言ったらクラスメイトに憐れみの視線で見られたけど。
良いじゃん。どうせオレには関係ないんだし。
とにかくそいつがひらりひらりと可憐に動いて、なかなか目の保養ってもんである。
ついでに髪の毛結んでるリボンの鈴がリンリンうるさいが、美少女だからその辺は大目にみるとしよう。
「この……どこの馬の骨とも知れぬ小娘が!」
「べーっ!!」
飛んできた火球を例の水色日傘でカッキーンと場外ホームランして、プチちゃんが目の下に指を添えて舌を出す。
すげー、炎の魔球とか御目にかかる日が来るとは思わなかった。空想科学ばんざい。
「プチちゃんがんばれー!」
手を振ると、プチちゃんがにこっと笑って手を振り返した。
おお、アイドルだアイドルだ。
「何か楽勝モード?」
「いえ、ヴィスカス卿はそう容易く屈するようなお方ではございません」
すっかり観戦モード、別名傍観者モードに入ったオレとは対照的に、近くに伏せの姿勢で座ったセシェン君が厳しい声で言う。
「ヴィスカス卿ご自身が魔界でも屈指の実力者。今はああして魔法のみの攻撃を行ってますが、これで剣を抜けばお嬢様とて無事ではすみますまい。加えて陛下の血でほぼ今のヴィスカス卿は不死に近い再生能力を備えてらっしゃいます。長引けばお嬢様とて御身無事であることが出来るかどうか……」
「何その無敵設定」
「無敵ではございません」
気を悪くしたようにこっちに顔を向け、セシェン君は鼻の頭に皺を寄せる。
いや、その狼形態でそれされると怖いんだってば。
「如何にヴィスカス卿が優れてらっしゃるとしても、陛下の足元にも及びません」
「あーはいはい……」
そーでしたね。君たち陛下大好きっこクラブ所属だもんね。会員ナンバーとかもっちゃってるもんね。
「でもさ、セシェン君」
「はい、なんでございましょう」
「長引くと不利以前に、長引いたらまずくね?」
「……そうですね」
控え目に言って、昨日の状態の館が再現されそうな勢いだ。
炎で溶ける、焦げる、炭化する。
プチちゃんがまた壁を垂直走りした跡に残っているのは元足場なボッコボコの穴。ヒビ。亀裂。
他にも衝撃波だとか余波だとか、弾いて明後日の方向に吹っ飛ばした火球だとかがあちこちに炸裂して、さっきまでエルミタ○ジュ美術館だった室内は今は廃墟マニア垂涎な状態になってきつつあった。
ま、デュランの指パッチンでどうせ直るんだろうけど。
けど。
「拙い、でしょうね」
忘れてる人が大半だろうが、ここ、デュランのコレクション部屋なのだ。
オレの予想だと、あいつは「俺の言う事は正しい 俺の成す事も正しい 俺が他の人間の物を壊そうとも 他の人間が俺の物を壊す事は赦さん」とか普通に言っちゃうタイプだ。
珈琲豆一つでうじうじやってる奴が、このありさまを見たらどう言う反応をするのか。
想像するだけでも寒気を感じる。
主に拒絶反応系の鳥肌の事だけどね。
もう声とか姿とか、想像する前に脳が拒否ってる。ワンギリ状態だ。
「オレじゃ止めるのどうやってもムリだしなぁ……セシェン君、まだ動くのきつい?」
「いえ、これしきの事で休んでいては陛下の従者は務まりませんので」
「真面目だよねぇ」
「白銀狼の性、でございますので」
「他の人も皆セシェン君みたいな感じの人ばっかなの? 親とか、兄弟とかも?」
「えぇ……兄は特に歴代の白銀狼の中でも最も優秀と言われる人でしたよ」
立派な、自慢の兄でしたと笑むセシェン君。
ふむ……。
自分の兄弟の事をどう思うかと聞かれて、こんな風に堂々と胸張って自慢出来るってのはちと羨ましい。
オレの弟にオレの事聞いたら、絶対こんな答えは返ってこんだろうしなぁ。
まぁ、その辺お互い様だけど。
「じゃあ、止めて来る?」
「はい」
言って、苦笑するセシェン君。
「と、申し上げたいところですが……」
む?
その視線を追って目を上げ、オレは「あちゃー」と額に手を当てる。
マリア様ならぬ、魔王様が見てた。
【作者後記】
ついにお気に入り登録50人目です。
評価の方もひっそりと数値が変わっているので、こちらにもどなたかひと手間頂いたのだと思います。
有難い事です。どんな形でも誰かから意見をもらえると言うのは貴重なものです。重ねて御礼申し上げます。
さて、次の展開で陛下を魔王モードにするか、あくまでギャグっぽく軽くするか…。
どちらが良いですかねぇ?
マリア様と家政婦で迷いました 作者拝