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放火魔とオレ

下書きそのままだとやたらヘビーになってしまうので、この場の思いつきで書きなおしてみました。


ぶっつけ本番。

私は多分本番に弱いタイプです。

 ホワイトハウスを抜けると、そこはゴキブリでした。

 うむ、詩情も旅情もゼロな上にどっからか抗議の声がきそうな出だしになってしまった。


 まぁ、そんなわけでゴッキーに久々に出くわしたわけだが、なのに何でオレが悲鳴もあげずにこんなに冷静かというと、これが例のカサカサでツヤツヤな黒い悪魔じゃ無かったせいではない。

 いや、だってアレ他の虫と大して変わらんし。

 セオリー的にはあれが出現したら女子は悲鳴を上げ、男子は騒ぎつつ距離を取るべきらしい。だが、当時それを知らなかったオレは掃除の時間にどっからか教室へ降臨したソレをホウキとちりとりで挟んで捕獲し、邪魔だったので窓の外へポイと投げ捨てた。完了。

 たったそれだけのことだったのに、以来ゴッキーが出ると何故かオレにお呼びがかかるようになってしまった。

 おまいらさぁ、叫んでないで自分でゴ○ジェットとか使えよ。


 あ、何か脱線してた。

 まぁとにかく、オレが足の下に踏んづけてしまってたのは例の金髪縦ロールのゴッキーさんだった。

 しかも、何故かデュランのコレクションの一部らしきキューピ○人形を懐に入れようとしていた。

 その格好はどう見ても、


「……泥棒じゃん」

「なっ?!」


 オレのぼやきにバサァッとマントを翻して驚愕の表情で振り返るゴッキーこと本名……何だっけ?

 

「何だ、我の陛下が飼っている人間か。驚かすな」


 あ、本気で気づいてなかったのか。

 ダメじゃん。四重奏の癖に。

 いや、違うな。四魔貴族だっけ。それとも四天王……土のスカルミリョーネ? いや、これも違う。てか、こいつ誰だっけ?


「あのー、どちら様でしたっけ……?」

「我の名を聞いたのか、人間」

「いや、オレとそちらの他に誰も居ないし」


 さすがにそのキューピーの名前とか聞く気はないぞ。


「そうか、我が名を知りたいと言うか。屑でゴミでミジンコにも及ばぬ人間ごときが高貴なる我の名を」


 ……。

 はぁ、まぁオレ人間なのは間違いないけどね。


「ふっ」


 ベル○らに出てきそうなおビボーの顔に嘲笑うような表情を浮かべて偉そうに胸を張るゴッキー(仮)。


「これだから人間は物を知らぬというのだ。良いか、名を尋ねる時は先に名乗るのが礼儀と言うもの……そんな物も知らぬとはこれだから人間は低俗だと言うのだ」

「えーっと……」


 いや、知ってるけどね。普通に。てかそんな大威張りで言う事じゃねぇだろ。

 うん、でもまぁ確かに仰る通りなので、


「じゃあ、オレの名前はナ「しかし! 我は人間ごときの名などまったく興味がない」

「……はい?」

「よって、貴様ごときウジ虫の名を聞く気はない」


 なら、先に名乗るのが礼儀とか言うなよ。


「そもそも、塵芥に等しい取るに足らぬようなみじめな存在であるところの人間と高貴にして高潔なる我が出会うなどまずありえぬ事。まったく人間ごときには分不相応この上ない。本来ならば我が美麗にして華麗、この世で我が陛下に次いで完璧なる我の美貌を見ることなど人間には許されぬ事なのだ」

「……はぁ」

「無論、それは我の完璧にして完全なる名においても同じ事」

「……そうなんですか」

「よって人間ごときに我が名を教えるはずもない」

「じゃあ良いです。ではさようなら」

「待て」


 回れ右したオレの影を、ゴッキー(仮)の足が踏んだ。

 ……む? 動けん。

 もしやこれが噂の影縛りとか、影縫いとか、ちぃちゃ○の影送りとか言う奴か。

 おー、人生初体験だよ。


「我の名が知りたかろう? 人間よ」

「いや、別に」

「我の名が知りたかろう?」

「や、だから別に良いですって。何か大変そうだし」

「我の名が知りたかろう?」

「人間には教えないんですよね?」

「我の名が知りたかろう?」

「……」

「わーれーのー名ーがー知ーり-たーかーろー?」

「……まぁ、ちょっとぐらいは」

「そうかそうか、そんなに知りたいのか」


 オレの影をしっかりキープしたまま得意げに頷くゴッキー(仮)。

 いや、あそこまで食い下がられたら、断り続けるのも面倒だし。てゆうか、こいつもめんどくさい奴だな。


「しかし、我が高貴にして音の一つ一つまで清冽にして清澄なる名は貴族であってもなかなか口にすることを許されぬ、特別な名なのだ。この名を呼んでよいのは我の直系と我の愛する陛下のみ」

「はぁ……で、結局誰なんですか?」

「気が短い奴め。これだから人間は成長せぬのだ」


 成長の話はすな。


「まぁ、特別に告げてやろう。有り難く聞くが良い」

「はいはい」

「我が名はヴァンパイア・ヴィスカス・ヴェルレイン・ヴェーレンハウゼン・ヴォイロッシュ・ヴェ」

「あ、そうだ。ヴィスカスだった」


 思い出した。そんな名前だったよこのゴッキー。

 ポム、と手を打ったオレの前で固まるゴッキー、改めヴィスカスさん。


「……あれ? 停止中?」

「―――きが」

「飢餓?」

「――――ときが」


 何か小刻みにプルプル震えてる。寒いのか? いや、こいつの存在自体相当寒いけど。


「人間ごときが我が名を途中で遮った上に呼び捨てだと……」

「え?」


 ビシリ、と何か音がした。


「寛容にも我が名を告げてやっている途中で遮った挙句、我の高貴にして優雅、遼遠にして繊細かつまったりとした味わいの我が名を」

「いや、確かにスイーツな名前だけど」

「人間ごときが……」


 ギリギリと歯ぎしりするその顔はもう美形とは呼べない。こりゃ般若だね。いや、般若だと女になるから、えーと、なまはげ?

 と、何かヴィスカスさんの手に炎が出現した。

 ふわりと巻き起った熱気に金色の火の粉が舞いあがり、オレの顔を熱風が舐める。

 あ、れ? 何かヤバげな雰囲気が……。


「人間の分際で我を侮辱した罪、償ってもらおうぞ」

「いや、侮辱した覚えは……泥棒は事実だし……」

「もはや言葉は無用。人間の声など耳が腐るわ」


 ゴオッとバックファイアのように金色の炎が伸びあがって天井まで届く。

 火災報知器はどこ? 条例で設置義務付けられてるのに何で鳴らない訳?


「屑は屑に、灰は灰となるが良い」

「っ!」


 やばい、動けない。逃げらんない。

 目の前に熱風と同時に金色の炎が迫る。と、オレの30cmくらい手前でその炎が見えない壁に遮られて止まった。


「小癪な……空間転移だと……?」

「あ、キューブか」


 これ、デュランの軍師ビームの時と同じだ。よし、頑張れキューブ。

 ヴィスカスさん……もう呼び捨てで良いや、ヴィスカスがオレに炎が届かないのを見て舌打ちしした。同時に炎の色が金色から青白い奴に変化して、更に火の粉を辺りに巻きあげる。お陰でホワイ○ハウスの柱がどろーっと蝋燭みたいに溶け始めてる。うわぁ……すげぇ。


「この程度の壁など……我の炎の前では無力と知るが良い」

「いや、出来れば知りたくない」


 そう言ってみたけど、何かさっきからオレの前でミシミシ言う音が聞こえてる。

 おいおいおい、しっかり防いでくれよ。オレこれ以外に頼るもん無いんだからさ。

 そう思ってるのに何か微妙に炎の壁がこっちに近寄ってきてる。

 これって、つまり押されてるってこと? ヤバイじゃん。

 見ればキューブの画面がチッカチッカ明滅してるし。ヒビが表面に入ってきてるし。やばいやばいやばいって。

 思わず出○みたいだが、本当にやばいって。


「耐えろ、耐えるんだジョー!」


 お前が倒れたら真っ白に燃え尽きるのはオレなんだからな。

 そんなオレの応援も空しく、キューブに入った亀裂はどんどん広がり、ピシッという音と共に真っ二つに割れた。

 炎が一気にこっちに来る。


「っ」


 反射的に顔を庇った手に炎が触れる。瞬間、炎が火の粉一つ残さず消滅した。


「……あり? 助かっちゃった?」

「……その指輪、は」

「あ、そっか」


 セシェン君をさっき瀕死に追い込んだデュランの黒輪っか。今のオレの指にはそれが嵌ってるのだ。

 そいつがさっきヴィスカスの放った(多分)魔法の炎を吸収した……って事だよな、今のは。そっか、魔法も魔力が無いと発動しないんだっけ。


「うわぁ……死ぬかと思った……」

「陛下とお揃い……我の陛下とお揃いの……我の陛下とお揃い……」


 ん? ヴィスカスが何か虚ろな目でぶちぶち呟いてるけど大丈夫かあいつ?


「貴様……何故貴様が我の陛下と同じそれを身に着けている……」

「あぁ、これ? デュランに貰ったから」


 正確には押しつけられたんだけどね。


「な、何て羨ましい……」


 どっからか取り出したレースのハンカチを咥えつつ悔しがるヴィスカス。

 羨ましいのか? つけたら多分重傷負うぞ? てか、リアルでそんな悔しがり方する奴初めて見たよ。


「かくなる上は、貴様を葬って我がそれを貰おう!」

「ちょっと待て、何でそういう暴力的思想に」

「問答無用。『紅く輝ける使者よ 高らか紡ぎし強者の歌声 万物を混沌へと返すは彼の翼 天空へ挑みし愚かなる者を焼き尽くす慈悲深き赤の炎よ 我が名に従い、我が命を聞き、我に背きし一切等しく灰燼と帰すが良い』!」

「イマジンブレイカー!」


 影踏み続行で逃げられないからこの場で何とかするしかない。

 吹きつける熱風に目を焼かれつつ、こっちも叫んで指輪をはめた手を突き出す。

 消える炎。


「オレ、WIN!」

「まだ終わらぬぞ……」

「げっ、まだやるの?」

「無論」


 ゴゥ、と巻きあがる炎がヴィスカスの金髪を揺らす。

 あー……目が完全にいっちゃってるよ。


「焼き尽くせ」

「太陽のガントレット!」


 いや、あれは別もんだけどね。

 よし鎮火。

 と、思ったらそこで頼りの指輪もパキンとかいってぶっ壊れやがった。……あれぇ?

 そう言えば劣化版とかなんとか……。


「肝心のところで役立たねぇー!」


 馬鹿魔王がー!

 叫んだ俺にヴィスカスは一瞬ぽかんとし、それから表情を取り繕って貴族っぽく優美な感じで笑い、


「万策尽きたようだな」


 まあ、その通りなんですけどね。


「えーと、まぁほら。お揃いも無くなったんでこの辺でオレ帰っていいですか?」

「帰すと思うか? 愚かなる人間よ」

「あ、やっぱダメっすか……」

「今度こそ、欠片一つも残さず燃え尽きるが良い」


 ヴィスカスの掌の中にまた例の青白い炎が浮かぶ。

 そう言えば赤い炎より青い炎の方が温度が高いって昔授業で習ったような気がするな……。


「我への侮辱は万死に値する」


 屑らしく散れ。

 そう言ってヴィスカスが放った炎はオレへと向かい―――また、壁に遮られた。

 クリスタルガラスみたいな氷壁。


「仰る事は御尤も。されど、我が主の客への無礼もまた万死に値するとは思われぬのですか? ヴィスカス卿」

「……陛下の飼い犬か」


 ヒュウ、と氷雪を含んだ風を纏い、オレの目の前に四足の白銀の獣が着地する。


「お待たせいたしました、ナカバ様」



 おお、何か正義のヒーローっぽいぞセシェン君。 

 

【作者後記】

気付けば評価が増えてました。ありがとうございます。

お気に入り登録の方も昨日……一昨日? からまた増えて46名様となりました。

なるべく話が重くならないように気をつけつつ筆を進めたいと思います。

(うっかりするとヘビーになるので……)


次はラウンド2、セシェン君VSヴィスカスさんの予定です。


出だしのゴキブリ退治の話は実話だったり……    作者拝

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