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魔力とオレ

 朝ご飯食べれなかったせいで、そろそろお腹と背中がくっつきそうです。

 Q.どうしてお腹が減るのかな?

 A.成長期だから!

 まだまだ伸びる(はずだ)ぜ、オレの身長!

 まぁ、希望的観測はさておいて、セシェン君がもう一度ご飯用意してくれる事になりました。

 ばんざい!


 ちなみに最初に用意してあったご飯はセシェン君の血しぶきでトマトケチャップ色に変色した為、もったいないけどゴミ箱ポイポイと相成りました。

 いや、幾らオレが普段「おのこしはゆるしまへんでー!」と思っててもアレは無理。

 セシェン君は「陛下でしたら元の状態に戻せるのですが……」とか申し訳なさそうに言ってたけど、はっきり言っておこう。


 だが断る。


 一度あんな状態見ちゃってたら食べれません。


「セシェン君。皿ってこれで良いの?」

「はい、お願い致します」


 子犬姿のセシェン君ではナイフを持ったり皿運んだり料理をするのは無理なので、出来合いのものでかるーくブランチ的なものをする事になった。いや、魔力を使えば普通に出来る事らしいのだが、こんなミニマムサイズになるまで弱ってるセシェン君にそれをやらせるほどオレ極悪人じゃないし。

 まあ、卵を割れば5回に1回は殻を混入させるオレではあるが、皿を運んだりパンを切ったりするぐらいは出来るのだ。


「えーと、で何だっけ? 魔力はつまり人間にとっての酸素みたいなものって事で良いの?」

「生きる為の原動力であり、この世界の大気中にも満ちておりますね……とは言え、目に見えるほどの濃度はございませんが」


 クラッカーを缶から取り出して皿の上にザラザラーっとあけつつ尋ねたオレに、テーブルクロスの端っこを咥えて引っ張ってたセシェン君が顔を上げて返事をする。


「この大気中の魔力を集めて吸収するのはごく一部の魔族のみに可能な高等技術であり、それで生存を維持出来る者は更に限られます」


 コホン、と咳払いするセシェン君。

 ん? 今の話の何処にそんなわざとらしい咳払いをする要素があったんだろう?


「しかし、呼吸で魔力を得るよりも食物経由での魔力の吸収の方がはるかに効率が良いのです。また簡易でもあります。よって多く魔族は主に食物から魔力を得る事で生存を維持しております」

「ふーん」


 鼻先にセシェン君が乗っけて運んできたジャムの瓶を受け取りつつオレは相槌を打つ。

 何々? コケモモのジャムか。

 コケモモ。

 ……コケモモって何? まさか苔のジャムじゃないよね? だったら嫌だなぁ。


 ちなみに今テーブルの上には他にチーズ各種(うち一つは蛍光黄緑色……チーズだよね?)、サワークリーム、スモークサーモン、生ハムとサラミ、レモンを絞りかけたエビのたたき、鶏のレバーペースト、茹で卵(大きさピンポンサイズ、白身が赤身)、アボガドディップ、トマトとバジル、蜂蜜、ジャム、バター、それから皮つきで洗うだけで食べられるちっちゃなオレンジやサクランボやキウイ等など。

 うむうむ、余は満足であるぞ。

 さっそくクラッカーの上にサワークリームを塗って上にチビオレンジを乗っける。


「あ、そう言えば」


 それを口に入れる直前で思い出し、セシェン君の方を見る。

 ……。テーブルの陰になってて見えねぇ。


「……あのさ、やりにくいから適当にその辺のっかってくれない?」

「いえ、しかし」

「下向きながらって食べにくいし」


 食事中お喋り厳禁の家庭もあるが、うちはそこは大目に見る家だったし。喋る時は一部の魔王なんかは除いて基本顔見て喋るクセがついてるし。

 取り合えず椅子を持ってきて、その上に箱やら缶詰を積み上げ、クッションを置き、その上にセシェン君をセットする。

 よし。招き猫っぽくて良い感じだぞセシェン君。

 思わず頭を撫で撫でしたら複雑そうな顔をされてしまった。あ、ごめん。犬好きなんだよ。

 気を取り直して席に戻り、手を洗ってから食事を再開する。


「そう言えば、さっき一部の魔族は仙人みたいに霞みだけ食べてればOKみたいな事言ってたよね?」

「いえ、大気中の魔力ですが……」

「デュランもそうって事?」

「陛下は少々特殊ですが、食事を必要となさらないのはそうですね」

「ふーん、セシェン君の料理美味しいのに勿体ないよね」

「恐れ入ります」


 座布団の上で頭を下げるセシェン君。


「で、特殊って例の色の話?」

「いえ、それだけではないのですが……属性色以外の色を帯びるのは陛下だけですね」

「属性?」

「はい、原則として魔力にはそこに属性を付加することによって各属性の色を帯びるのです」

「ふむ?」

「これがベースの状態ですが」


 と、顔を上げるわんこ。

 その胸の辺りに何かがあつまってゆくのがオレにも何と無く分かる。

 なんていうか、ほら、眉間指さされると触られてないのにムズムズしたりするじゃん。あんな感じ。

 それがだんだん強くなって、やがてそこに唐突に直径1cmくらいの青白い光が出現した。


「おー、すげー。魔法っぽい」

「この状態ではただの魔力の固まりでございます。これに例えば火の属性を加えますと」


 光が赤く変色する。


「このように」

「おお、成程ー。火があるって事は……やっぱり土とか風とか水もあったりする?」

「仰るとおりでございます」


 あ、やっぱり? これまたありがちだなぁ。

 ご存じだったのですか、と不思議そうに聞いてくるセシェン君のただの勘だからねーと適当に説明しつつ、オレは今までの話を頭の中で纏めてみる。うん、そうすると色々分からない事が出て来るよなぁ。うーむ。

 こういう場合属性って普通縛りになるはずなんだけどな。


「ナカバ様はご聡明でいらっしゃる」


 あれ、何かセシェン君が見直した! 的視線でこっち見てるぞ。


「いや、別にそう言う訳じゃないから……」

「流石は陛下の見込まれた人間……」

「結局陛下、が判断なんですね。てゆうかさぁ、魔族って何か皆デュランの事好きすぎない?」


 もうちょっと冷静に見てみろよ。

 顔は確かにちょっとイケメンだが、中身はあんなだぞ? いいのか?

 その程度のつもりだったんだけど、勢いで聞いてみたらセシェン君の尻尾が項垂れてしまった。

 あれ? もしかして禁句だった?


「我らは魔族ですから」


 何かをかみしめるかのような低いセシェン君の声。


「魔族たるもので陛下に魅了されぬものは存在いたしません」

「美形だから?」

「いえ、魔力を糧とする我らだからこそです」


 うーん、分かるようでわからないような?


「申し訳ございません。わたくしも何と説明すればよいか……ただ、我ら魔族にとって陛下は至高の存在。魂が陛下に従ってしまうのです」

「うわ、ナニソレ。何でもアリすぎない?」


 魂の奴隷ってやつか。気の毒に。あんなやつなのに。

 心底同情したオレに、しかしセシェン君は「陛下はそれをあまりよくは思ってらっしゃらないようですが……」と暗い表情で呟いただけだった。

 いやいや、そこはむしろ「ふざけんな、何贅沢こいてんだ!」とか怒鳴っていいところだと思うんだけど。

 しかし沈痛な表情のわんこにそんな事言えない。

 無理。

 何あの垂れ下がっちゃってる耳。しょんぼりな尻尾。無理だってば。


「まぁ、うん……あんまりセシェン君が落ち込んでもさ、意味ないし。むしろデュランってそういうのうざがるタイプだしさ。だから元気だそう。ね?」


 慣れない励ましとかしてみる。

 ……励ましてますよ? 精一杯。

 前に同じ事やったら何故か「お前には人間の心が無いのか!」とか逆ギレされたけど。失礼な。人間ですよ。

 でもセシェン君には効果があったらしい。


「そうですね……陛下はお望みにはならないでしょう」

「うんうん」

「では、そろそろ失礼いたします」

「あれ? もう行くんだ。わんこなのに」

「大分魔力も回復いたしましたので……仕事を片付けてまいります」


 ハッハッ、と笑顔を作る子犬セシェン君。

 ふむ、何かさっきの言葉が妙にお仕事意欲を煽ってしまったようだ。


「本来は最後までお付き合いするべきなのでしょうが……申し訳ございません」

「あ。良いって。考えたらセシェン君忙しい人だったしね」


 輪っかの事故で色々予定が狂って、仕事滞ってるだろうし。


「お食事が終わりましたら食器はそのままで結構ですので。宜しければ館の中を散策されてみてはいかがですか?」

「うーん……そうだね、そうしてみる。ありがと」

「いえ、ご用の際はお呼び下さいませ」


 そう言ってセシェン君はわんこ姿ながら見事に流れるようなお辞儀をし、そのまま座布団の上から床へひらりっと飛んで着地した。


 ペチリ。

 テチテチテチテチテチテチテイテチ……。


「ぶはっ」

「ナカバ様?」

「いや、ごめん、何でも無い……」


 セシェン君の足音に受けて口の中の物吹き出しちゃったなんて……言えないよなぁ。

 

【作者後記】

四月の雪と言えば普通は幻の代名詞だったような気がします。

お気に入り登録39名様ご案内、と言う事でそこの見知らぬ方、ありがとうございます。

トータルでのPVも気付けば4万を超え、ユニークも4500人を超えました。


皆様のご来訪が書き続けていく為の原動力です。

感謝してます。



コケモモはベリーの仲間。美味しいよ。   作者拝

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