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土下座とオレ

「大変申し訳ございませんでした」


 セシェン君、平謝りの図。


「いや、こちらこそすみませんでした。マジで」


 オレ、土下座の図。


 お互いに面と向かい合って頭ペコペコ下げてるんだから、周りから見たら「お見合い?」的な光景になってるんだろうけどこれにはちゃんと理由がある。

 肝心な所をすっ飛ばして説明をぶった切る、どっかの往生際の悪い魔王様ではオレは無いのでちゃんと説明しよう。



 えー、さっきセシェン君に襲われました。



 勿論貞操の危機的な話じゃなくて、どっちかっつーと生命の危機みたいな?

 いや、落ちつけオレ。若干混乱してるぞ。

 こういう場合は順番に話の流れを追うのが一番だってじいちゃんも昔言ってた。


 よし。


 あのさ。ほらさっき、オレとセシェン君で箱の押し付け合いしてたじゃん。

 で、あの箱が落ちた……いや、オレが落っことしました。

 うん、ごめん。欲しくなかったから。

 で、蓋がカパッとその拍子に開いて、中からコロコローっと黒い輪っかが出ちゃった訳。

 でー……何かその時幻聴が聞こえたんだよね。プッツン、って。

 アレ多分セシェン君の我慢の緒が切れた音だと思う。

 で、オレの後頭部が床に激突した。獣型の本性丸出しにしたセシェン君に正面から押し倒されたせいで。

 そりゃもうどーんと押し倒されたね。頭がゴーンつって目の前星が飛んでたし。

 あの時のセシェン君は確かにワンコじゃなくて立派な肉食獣……あれ? ワンコも肉食か。まぁ、あれだ。要は獣だったね。男はおーかみなのーよー、って奴。

 ビーフジャーキーに飛びついた犬みたいに目が爛々としてて、本気で頭から丸ごと齧られるかと思った。

 だってワンコ本体のあの牙の凶暴っぷりときたら「オレサマ オマエ マルカジリ」って雰囲気駄々漏れだったもん。

 まぁ、冷静に回想してみると、あれがオレにとって多分魔界来てから一番の生命の危機的状況だったんだろうけど、そんな絶体絶命のオレを救ったのは正義の味方でも無く、月に代わってお仕置きして回る女子高生でもなく、もちろん珈琲大好き魔王さんでも無く、コロコローっと箱から転がり出てた例の輪っかだった。

 もはや目がいっちゃってたセシェン君にあの輪っかがちょこっと触れた瞬間、セシェン君の体から急に力が抜けて、ついでにその場にバッタリ倒れた。おまけに全身からバシャーっと血が噴き出して部屋中スプラッタな事になった。


 いや、どんな惨殺現場―――――ってゆうか、アレ見たらオレだって悲鳴上げちゃいますよ。

 久々にビビりました。

 心臓止まるかと思いましたよ。

 あの状況で咄嗟に輪っかをセシェン君から離したオレってけっこう偉いと思う。

 自分で自分を褒めてあげたい。


 で、オレの勇気ある行動でセシェン君は一命を取り留め、ついでに輪っかに触った事でオレにくっついてたデュラン菌もきれいさっぱり落ちたらしい。

 まぁ、オレの頭にはたんこぶができて、服は血まみれで、さすがに食欲も失せて、あんまりめでたしめでたしって感じにはならなかったけどね。

 ついでに言っておくと、セシェン君の方は魔力を大量に失って人型には戻れなくなってて、今は30cmくらいの白いふわふわ毛玉な子犬の姿になっている。

 省エネモードだそうだ。

 ま、オレから見てる分にはサン○オで売ってそうな子犬ぬいぐるみみたいにしか見えないけど。クラスの女子とか見たらキャーキャー喜んで抱きしめそうだ。今のセシェン君ならそれで潰れるかもしれないけど。


「酔って度を失い、ナカバ様に危害を加えるなど……本当に何とお詫び申し上げれば良いのか……」


 セシェン君、ほっといたら腹かっ捌きそうなくらいの落ち込みっぷりだった。


「いや、オレも悪かった訳だしさ。もう良いって」


 あの輪っかさっさと受け取ればこんな事にならなかったって事で、要はオレがごねなきゃ良かったって事。

 それならそう早く言ってくれれば良かったのに……。


「で、結局……えーと、コレって魔力を吸い取る道具って事で良いの?」


 オレは指にはめた黒い輪っかをひらひらさせてみる。

 それにセシェン君は「左様でございます」と頷く。


「実は危険物だったんだね……」

「はい。我ら魔族にとって魔力を奪われる事はすなわち生命の糧を奪われる事。死を意味すると申し上げても過言ではございません」


 それでもセシェン君が生き延びてるのは元の魔力量が多かった事、オレが咄嗟に引き離した事、あとコレがオレ用に精度を落として作った劣化版だからだそうだ。

 劣化版かよ。何か微妙に釈然としないなぁ。


「やっぱ劣化版の方が安かったりする?」

「いえ、これらは皆陛下ご自身が作成なさった物ですので、値段が付けられる品ではございません」

「え? これデュランの手作り?」

「陛下は基本的に、身の回りの物はすべてご自分で作る方ですので」


 美形で無敵で日曜大工な魔王……本当に無茶苦茶だなぁ、オイ。


「それにしても、コレと同じっつーか……もっとヤバイやつ装備してるんだよね、デュランは」


 白い衣服に全身にちりばめた黒い輪の飾り。

 劣化版でセシェン君が瀕死になるっつーのに、それを大量に身につけてるデュランって本当に何なんだろう。やっぱMの趣味があるんじゃなかろうか。


「いえ、陛下の場合は魔力の質が我らのようなものと違うのです」


 もふもふ、わふわふなセシェン君がクッションの上にお座りした状態で首を振る。


「陛下の魔力はまさしく至高。極上の甘露のように芳醇で甘く、蕩けるように美味な魔力を潤沢にお持ちでいらっしゃいますので……あまりそのお力を周囲に広げては多くの魔族が魅了され、正気を失い、その魔力に耽溺してし、惑乱し、魔界は混乱の渦に巻き込まれる事になりましょう」

「あー、さっきのセシェン君みたいにか」

「お恥ずかしい限りです」


 きゅーん、と項垂れるセシェン君。

 子犬姿でそれされるとちょっぴり罪悪感を覚えなくもない。

 ま、つまりデュランと朝珈琲大捜索をやった際にデュランの魔力がオレに一部うつってしまい、それを嗅ぎつけたセシェン君がうっかりつまみ食い衝動に駆られた、ってのがさっきの騒動だったって話。

 でもつまみ食いで頭からガブっとかされるたらこっちは良い迷惑だよな。


「デュランにもやっぱりガブっとやった事あるの?」

「とんでもございません! そんな畏れ多い!」

「畏れ多いのか」

「陛下ご自身はその輪飾りもそうですが、あの高貴な存在感で他を圧倒し寄せつけませんので……魅了される存在は多かれど、実際にお傍に寄れる者は少ないのです」


 えーとつまり、飴と鞭ってことか。

 魔力で引き寄せといて、存在感で威圧して遠ざける。なかなか難儀な奴よのう。


「何か魔力って本当に何なんだろ……魔族の主食だとか、テンプテーションだとか、話聞くほど訳分からんパープル・マジカル・パワー☆ みたいなイメージになってくんだけど」

「仰る通りわたくしども魔族にとって魔力は主食ではございますが……あのように常態でも魔力が色を帯びるのは陛下だけでございます」

「そうなの?」

「はい、魔界を構成する最小単位たる魔力は通常は目に見えぬ状態で万物の内に存在しております。もちろん濃縮する、或いは属性を付加する事で目に見える形となりますが、あの色は『知識の頂き』オーリスが提唱した様に」

「ちょ、待って待って待って」

「はい?」

「ごめんさっぱり分からない」

「……どのあたりが、でございましょうか?」

「え? いや、なんて言うか全体的に?」

「……」

「あのー、その子犬姿で憐れむような視線向けるのはヤメテ」


 美形ならまだしも、ミニサイズわんこにそれされるときつい。

 多分相当噛み砕いて分かりやすいように説明してくれてるんだとは思うんだけどね、セシェン君だし。

 が、いかんせんこの世界の常識はオレには常識じゃない。

 当たり前のように出て来る単語が分からなかったり、分かったようなつもりになっても内容が理解出来て無かったりする。

 デュランはオレの世界の知識があるから、色々例をひいて説明してくれてたけどセシェン君に同じ芸当を望むのはかなり無茶ぶりすぎるだろう。つまり、行き詰り。


 嫌な感じにお互いが沈黙してしまった。


 先に態度を改めたのはやっぱりセシェン君の方だった。


「申し訳ございません。ナカバ様が異なる世界の方と存じ上げておきながら浅慮でございました」

「あー、いやそんなかしこまらないで」


 子犬モードでそうやられるおと極悪人になった気分になる。

 まぁ、こっちがセシェン君の「真の姿」で、おまけにオレのせいで縮んでるんだけど。



 むー、調子狂うなぁ……。



【作者後記】

お気に入り登録がお三方増えて32名になりました。ありがとうございます。


これは登録して下さった皆様に応えるべく何かせねば、と話を最初から読みなおしてみた所誤字が出るわ出るわ……

う、うん、直します。ちゃんと。そのうち(今直せよ)


テンポがいまいちな感じですが、次も子犬セシェン君とナカバの話です。

説明が多くなるので、かったるい方は読み飛ばしちゃってください。


……いや、でも読んでもらえたら嬉しいなぁ、とかとか。


ぐだぐだ   作者拝

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