白い歯とオレ
おー、これが例の探しものか。
よし、踏もう。
「だから踏むな」
奪われた。
てゆうか、どうやって奪った。
「ヒントをやろう。身長」
「……」
つまり、身長の差イコール手足のリーチ差。
よし、呪おう。
「無駄だから止めろ」
ちぢめー、ちぢめーと視線に呪いをこめているオレに手を振りつつ、デュランはコーヒーミルを取り出す。
何か、普段と同じにやけ面なんだけど、どことなく嬉しそうだなぁ。
「珈琲好き?」
「あぁ」
「紅茶は?」
「嫌いではない」
「ならさぁ、朝ご飯食べてあげたら?」
オレの言葉にデュランがぱちりと瞬く。
視線はばっちり珈琲に向いてるけど。
「無理だ」
「食わず嫌い……」
「お前が食べておけ。少しはセシェンの励みになるだろう」
「お前がまず食え」
何処までわがままこいてりゃ気がすむんだ、こいつは。
「顔が良ければ皆が言う事喜んで聞くと思ってんなよ」
「……」
そこできょとんとするな、きょとんと。
「何を馬鹿な事を……」
眉を顰めるデュラン。
「俺の顔などお前と大して変わらん……待て、豆を捨てるな、落ちつけ」
「貴様は……貴様と言う奴はー!!」
何を平然と抜かしてやがるんだこいつは! どっか可笑しいんじゃないか?!
「お前が変だ」
「真顔で言うな!」
「お前が変だ」
「笑顔で言うな!」
「わがままだな。五歳児かお前は」
「お前が言うな!」
「先刻から「言うな」の連続だな……」
苦笑するデュラン。
よーし……そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。
「しゃがめ」
「何故だ」
「しゃがめ」
大事な事なので二度言いました。
デュランはオレの言葉に怪訝そうな顔をしたけど、一応指した床に体育座りした。しっかり手にはコーヒーミルを確保したままで。お前、そんなにそれが好きか。
ま、良いや。これで手が届く。
取り敢えず豆をザラザラとミルの中に入れているデュランの口に指を突っ込んで左右に引っ張る。
「……で?」
この野郎。この状態でも十分美形顔ってどういう作りしてるんだ。
「……で?」
「えーと……」
「何だ。そんなに犬歯に興味があったのか」
「んな訳あるかいっ! ……って、あ、ほんとだ犬歯すげぇ」
いー、の状態だから良く分かる。ちょっぴり歯科医の気分。
ちなみにデュランの歯には青海苔もついてなければ、コーヒーステインもついてなかった。
○ra2?
「犬歯っつーより、何か牙って感じだね」
「ディアヴォロスの種族特徴の一つだな」
ガリガリと入れた豆を挽きながらデュラン。
こいつマイペースだなぁ。口を左右に居引っ張られた状態で一切抵抗なしだし。
「上下左右で合計八本かぁ。奥は臼歯?」
「そうだな」
「あとは何かあるの?」
「あと? あぁ……他の種族特徴の事か。此処で脱げと?」
「死ね」
「ただの冗談だ」
蹴飛ばそうとしたミルをさっと救出してデュランが肩を竦める。
お前の場合、非常識過ぎて本当にやりそうだから嫌なんだよ。てゆうか真顔で冗談言うな。笑顔も禁止。
「泣き顔ならば可能、と?」
「やれるもんならやってみろ」
「ふむ……お前では大して面白い反応も得られなさそうだな。却下しよう」
ぐいぐいー。
減らず口を思いっきり左右に引っ張ってみた。これ以上ちっとも開かなかった。
くそぅ……。
ん? 減らず口?
「そう言えばこんだけ引っ張ってるのによく喋れるね」
「別に口を使って話しては居ないからな」
うん?
「頭の後ろにもう一つ口があって……」
「食わず女房か?」
食わずぎらい魔王ではあると思う。
「音は空気振動だからな。スピーカーは口が無いが人の声を発する事が可能だろう? あれと同じ原理でお前と話している。まぁ、調節すればこういう事も可能だ」
言って空中を指先で弾く仕草をするデュラン。
ジリリーン、と黒電話の音がした。へー。
「器用だね」
「まぁな……さて、そろそろ口の中が渇く。離してくれ」
ふむ。
まぁ、本人が何とも思って無い状況でやる嫌がらせほど空しいものは無い。やめよう。
手を離すと「ありがとう」とデュランは言って、座っていた床から立ち上がった。
うーん、何か調子狂うよなぁ。
というか、さっきの反応と言い、今と言い、これはもしかすると……。
「なぁ、ばあさんや」
「何かね、じいさんや」
「自分の顔の評価ってどうよ?」
「お前の顔か?」
「お前のだ!」
何が悲しくて美形にこの十人並みフェイスの評価をされにゃならんのだ。
「俺のか?」
「ソウデス」
「さて……別段、普通ではないか? 目の色以外は」
……。
「おーけー。良く分かった。つまり馬鹿なんだな」
「何故そうなる」
心外そうだった。
こっちが心外だバカヤロウ。
「とりあえず何か疲れた……朝ご飯食べてこよう」
「食堂は向こうだぞ」
「案内しろやコラ」
いきなり妙な部屋に連れ込みやがったせいで方向感覚狂いまくりですよ。
おまけに此処どんだけ広いと思ってんだ。
「……」
「未練がましく珈琲見ない!」
「空間を繋いで行けばすぐだろうに……」
「お前と一緒にするな!」
黙れこの非常識。
世界の不条理と不公平の代表が言うな。
「……分かった、案内しよう」
諦めたらしい。
って、その手にはミルを後生大事に抱え込んでいる辺り諦めて無いな? お前は。
「俺は珈琲が欲しかっただけなのだが……」
何度でも言おう。
子供か、おまいは。
【作者後記】
ふり仮名に迷います。
どのあたりまで普通に読めるのか迷います。
顰める(しかめる・ひそめる)は大丈夫なのか。此処は読めるのか。励み(はげみ)ぐらいはOKなのか……。
どのあたりの年齢の方が読んでいるのかによっても変わりますし、かと言って降りすぎると文章がガタガタして読みにくい。
結果として特殊な読み(通常はそう読まない)以外はすべてふり仮名をすっ飛ばしたりしています。ダメダメです。
お気に入り登録が22名に増えてました。
心臓が止まるかと思いました。
幸いにしてノミの心臓にも毛は生えているようで生き延びる事が出来ましたので、この場で御礼申し上げます。
ありがとうございます。もうしばらくお付き合い下さいませ。
六分咲き桜を窓辺に見つつ、感謝をこめて 作者拝