探しものとオレ
三日目の朝。
「ぎゃああああ!!」
「おや、奇遇だな」
「壁すり抜けて出て来んなぁっ!」
何でもありかよ!
目の前の廊下の壁から普通に歩いて出てきたデュランにオレは全力で叫んでいた。
ちなみに反射的に殴ろうとして、逆につまづいてこけそうになった所を訳分からん力で修正された。
これも魔法ですかー、そうですかー、余裕ですかー。
「これか? これは壁では無い」
いず でぃす あ うぉーる?
のー いっと いずんと。
「はい?」
じゃあなんだと?
「隠し通路だ」
「忍者屋敷かよ、ここは」
「あぁ、つり天井もあるぞ」
「一応ダンジョンだったんだね、ここ……」
考えてみたら魔王が居る訳だし。
「いや、ただの趣味だ」
「死ね」
朝から挨拶抜きでこんな心温まる会話を交わしてみたりしたが、隠し通路かぁ……気になる。
「どれどれ?」
ノックの要領で手をやってみるとスカッとした手ごたえがして、手首まで壁に埋まった。
「ほんとだ、何も無い……」
「さっさと引き抜いた方が良いぞ」
「何で?」
「抜けなくなるからな」
「先にそれを言え!!」
あぶねー。館のオプションになる所だった。
蝋人形にしてやろうか?
いえ、お断りします閣下。
「この向こうって何かあんの?」
「俺のラボだ」
「へー」
ラボってなんだったっけ?
「研究室だ」
「何の?」
「遊びの為の、だな」
「……」
「ん? 空腹か?」
わざとやってんだろう、てめぇ。
まぁ、実はまだ朝ご飯食べて無いからお腹は減ってるんだけどさ。うん。
「あんたも食って無いんだろ?」
「俺は気分が乗らないから食べたくない」
またセシェン君が泣きそうな事言うなぁ……。てゆうか、
「お前は幾つだ」
「24歳だ」
「嘘こけぇっ!!」
どんなサバの読み方ですかそれは。
「昔はな」
「そりゃ昔は誰だって0歳ですよ」
オレもね。
……って、もしもーし? 何さっきからガサガサとコーヒーミルとか用意してるんですか?
「珈琲を作る準備だ。そんな事も見て分からないのか? 可哀そうな思考能力だな」
「廊下のど真ん中で始めるな。そしてその笑顔を止めろ」
「場所が気に入らんなら変えるか?」
パチン、と指が鳴って場所がどっかの厨房っぽいところに変化する。
「さてと……」
「やばい、何だろうこの胸の奥から湧き上がってくる感情……そうか、これが殺意と言う奴か」
「ん?」
「こう……口の端に指突っ込んで、左右にぐいーっとかしたい」
「変わった自虐プレイだな」
「お前にだ!」
「やめておけ。一応犬歯があるからな。指を切るぞ」
冷静に諭された。屈辱だった。
「……って、犬歯?」
「これだ」
「いやだみたくないやめろへんたい」
「……何だそれは」
不本意そうなデュラン。
あんたみたいな奴が唇に指をあてるとかするのは、ウチの国では公然猥雑罪っていう犯罪なんです。
大体が艶めかしく舌とか動かすな。気持ち悪い。
「……。まぁ、良いだろう」
肩を竦めるデュラン。
「まぁ、とにかく……ディアヴォロスの犬歯はどの姿になっても残る特徴だからな。迂闊に触れるな」
「へー……変化してもそれで見分けられるってことか」
「残存特徴と言ってな……一番多いのは色だ。セシェンの髪と目の色も残っているだろう」
「ふむふむ、あれってわんこが本来の姿なんだよね?」
「そうだな」
「じゃあデュランは……蚊?」
「何故それを選ぶ」
「え? うざいから?」
「ディアヴォロスはお前たちのイメージする悪魔だと思えば良い」
ゴソゴソと厨房の上の棚を漁りながら言うデュラン。
何か探してるのかな……見てるだけならお腹をすかせた子供がお菓子を探してるのと大差ない感じ。
実際、結構中身幼いよな、こいつ。わがまま五歳児。
「豆が無い……セシェンの奴、どこに隠した……?」
「魔術で探せばいいじゃね?」
「それでは面白くない」
さいですか。
お前の行動原理はよーく分かった。
「で?」
「あぁ……ここには無かった」
「豆の話じゃねぇよ!」
とりあえず蹴っておいた。
びくともしない上にこっちが倒れそうになった。
助けられた。
「……。やっぱ豆探す」
「ほぅ?」
「探して踏みつけて粉々にして畑の肥料にしてやる」
「実に地味な仕返しだが……それはやめてくれ」
珍しく頼まれた。ちょっとだけスッとした。
まぁ、探すけど。実際踏みつけたらどんな反応するかちょっと興味あるし。
「てかさー、探してないで買いに行けば良いじゃん。あんたなら移動とか楽勝とか前言ってなかったっけか?」
「移動程度なら問題ないが、物質界でしか売って無いからな……俺があまり世界間を行き来するとシステムが狂いバランスが崩れる」
「魔王だからか」
「生憎な」
生憎、ねぇ……。
「自分でなりたくてなったんじゃなかったっけ?」
下の方の棚を探しつつ、オレは聞いてみる。
「なりたくてなった」というのは昨日ショッピングモールでの追いかけっこの後、お茶しつつ雑談してた時に話の一つとして聞いた気がする。
魔王を倒せば、倒した奴が次の魔王。
継承によって受け継ぐ事もできるらしいけど、デュランは単身魔王城に乗りこんで前の魔王を殺したらしい。その場に居た何万もの配下諸共に。
そう考えるとこいつは大量殺戮者、いや大量殺戮魔物なんだけど……コーヒー豆の袋探してこうやってガサガサやってるところ見ちゃってるとなぁ……。
「それも、何となく面白そうだからとか退屈だからとか言う理由だったわけ?」
「まぁ、色々と必要でな」
「ふぅん……で、今はもう飽きたって?」
「そう言う訳でもない」
「なら我慢しろや」
生憎とか言うな……って、ん?
「あ」
見つけた。コーヒー豆の入ってる袋。
【作者後記】
読者の方がキャラクターに感情移入するように、書き手もキャラクターの状態に引きずられる事があると思います。
物書きさんの知り合いがそう多い訳ではないのであくまで仮定なのですけど。
ちなみに、私はその典型例でキャラクターが体調を崩すと一緒に具合が悪くなり、ピンチにさせると気分が一緒に落ち込んだりします。
基本的に立場は「キャラクター>>越えられない壁>私自身」です。
マイナス方向に引っ張られるとコメディを書くはずが悲惨な方向に話が転がったりするのでなかなか難儀な性質です。
まぁ、つまりそのせいで暫く筆が止まってました、という言い訳です。
キャラクターの上手な調教方法等、ご存知の方がいらっしゃいましたら尋までご連絡を。
心よりお待ちしております。
ご来訪の皆様と、物書きの皆様へ尊敬の念を込めて 作者拝




