パノラマ風景とオレ
男女……中性的な美貌の男が貴族風の金髪美形を目の前に跪かせて、あまつさえ自分の指先を舐めさせてる。
一部の皆さんなら悲鳴あげて写メとりまくるようなシチュエーションなのかもしれない。
が、オレにとってはただひたすら現実逃避したい状況でしかない。
よってサーチアンドデストロイしてもこれは正当防衛って事になるに違いない。
よし、GO!
「なぁぁぁぁにやっとんじゃあぁ―――――――――――!」
叫びつつ飛び蹴り……はオレの能力的に無理なので、ここはシンプルに膝かっくんをかました。
びくともしなかった。
……。
うん、分かってたけどね。
ちくしょうこいつ何でもありだな。
おまけにその顔か。
いっぺん死ねばいいのに。
「どうした? かまって欲しかったのか?」
「んな訳あるかいっ!」
「なら下がって大人しくしていろ」
言ってオレの首根っこをつかんで後ろにさげるデュラン。まてやこら。舐めてんのかテメェ。
てか下ろせー! こういうのはもっと別の奴のお約束だろうが! おいこら!!
ん? あれ? なんか金髪ゴキがものすっごい顔してこっち睨んでるんだけど。
「……余計な事を考えるな。また不興を買いたいか?」
何をー?!
……って今の声誰だ。
オレはあちこち見まわしてみるがセシェン君とゴッキーと変態魔王以外見当たらない。
しかも微妙に寒くなって来てるし。んー? 空も曇って無いし……風邪でも引いたか?
早く帰ってパブ○ン飲まなくちゃ。
「さて」
デュランがペイッとつまみ上げていたオレを地面に落とす。
うぉっ! びびったじゃねぇか。離すならそう言え。
「セシェン」
既に変態ごっこはやめたのか、金髪ゴキから指を引っこ抜いたデュランが何事も無かったかのように振り返ってセシェン君を呼ぶ。それにセシェン君も心得た様子でどっかからフィンガーボールを取り出す。いや、マジでどっから出したんだ。
「お疲れ様でございました」
「全くだ」
「疲れた陛下のお姿もまた美しい……」
「煩い消えろ」
指を洗いながら吐き捨てるデュラン。
振り向きもしねぇよこいつ。というか表情が明らかに「うんざり」と言っている。
「二度と現れぬと誓う代わりに今の一秒を得るか、それとも今すぐ立ち去り次の情けを乞うか決めろ」
しかもなんか酷めな二択。
しかし金髪ゴッキーことヴィスカスは恭しく頭を下げて、貴族っぽく一礼しただけだった。
「陛下の御心のままに」
瞬間姿が見えなくなる。
「うぉ、消えた!」
「移動したんだ」
うるさい。どっちだって同じだろうが。
「やっと出て行ったか……やれやれ」
「まさか本日いらっしゃるとは……」
「セシェンがさっさと来ないのが悪い。お陰で無駄に疲れた」
そこで何故かセシェン君に責任転換するデュラン。
大人げねぇ……美形だからって許されると思うなよ。むしろオレは美形だからこそ許す気無いが。
「それよりさぁ……なんで360度視界くっきりパノラマ風景地平線も見えるよヴァージョンになってる訳?」
「ん? 消したからな」
「移動したんじゃなくて?」
「いや、この場合は消滅で正しいな」
「……なんで?」
「あのゴキブリが……」
「お前がやったんだろうがぁっ!!」
そこでも責任転換か!
「あぁ……そうだな、現象は私だ。だが原因はゴキ」
「現象は、じゃねぇ!」
「先刻から何をそんなに騒ぐ?」
「や・か・た!!」
ここで思い出していただきたい。
この柏の森、デュランの家を中心に円形に広がっているやつだった(過去形)。
その森が全方位見通し抜群ってことは館まで燃え尽きてんじゃん。燃え尽きてんじゃん!
どうすんだよ! 野宿か? 野宿なのか?!
「なんだ、野宿が良いのか?」
「読むな! 読むなら正しく読め! 読解力磨け!」
「ふむ、しかし三人分のテントか……何処にしまったかな」
「野宿決定?!」
しかも三人分のテントって、まさか三人で一つ屋根の下とか言い出さないだろうな。
何その拷問。絶対イヤだ。それに今日はお風呂に入るんだ。さっきそう決めた。
「露天風呂ぐらいなら作れるぞ?」
「どんだけ待てと?」
てゆうかこの辺温泉の元あるんだろうか?
「無ければ作れば良い」
「前向きに聞こえるけど、ものすっごいアバウトかつ当てずっぽうってことじゃね? それ」
「いえ、陛下は……」
「まぁ、お前があまり気が載らないなら前の状態で構わないか」
パチンと指を慣らすデュラン。
お、今度は暗くなった。……じゃない、これは、柏の木? って何故に復活?!
「さて、帰るか……」
ってスルーかよ! つっこめよ!
「セシェン。疲れた、乗せていけ」
「畏まりました」
「お前も乗れ」
「いや……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ちょっと待て」
「嫌だ、疲れた」
さくっと断られた。
「まぁそこで野宿したいのならば残っていろ。行くぞ、セシェン」
「はい」
セシェン君もそこで頷くなって!
で、結局ワンコ形態セシェン君の背中に乗っけて貰ったオレだった。
【作者後記】
例の「入力中の行が見切れる」現象ですが、どうもWebページの文字サイズ設定に問題があったようです。
文字サイズ小が好きなんですけどね。お騒がせしました。
気付けばお気に入り登録が18件に、評価は大分前に2人目の方にいただいてました。ありがとうございます。
特に明記した事はありませんが、誤字脱字の指摘、ご感想、叱咤激励なんでも基本歓迎しております。
とりあえず、今回はヴィスカスさん登場させるところまで終わりました。
やりたいイベントは最低あと1つはあるので、まだまだ続きます。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
作者拝