魔族とオレ
沈黙が重い。
いや、やっぱり初対面の相手に「死ね」は拙かっただろうか。
でもいきなり訳分からんところに誘拐されたあげく、目の前に紫の目の超絶美形が背景にキラキラ背負って優雅に寝そべってるんだよ? 殺意抱かないほうが変じゃん。
だから誰もオレを非難することは出来ない――と、思う。だと良いな。
というか、逆切れされて問答無用で抹殺されたらオレどうしよう。
今自分の部屋とか整理されたら軽く恥で死ねるんですけど。
オレがそんな事を考えている目の前で、にっこりと寛大な微笑を浮かべる美形のにーちゃん。
「良い反応だ」
え? 何その反応。もしかしてマゾですか? 美形で男でマゾですか?
それなら速攻で逃げるぞオレは。
「この状況で逃げても自滅するだけと思うがな」
美形っぽく、長い黒髪を指先で無駄に色っぽい仕草で弄りつつ微笑む相手。
……ま、確かに地理感無い所で逃げ回っても疲れるだけで意味なさそうだ。やめよう。
「賢明だな」
「ってオレの考え読むな。気色悪い。てゆうか誰? むしろここはどこ? オレは誰?」
「記憶喪失ネタか」
花も恥じらう微笑みで言うにーちゃん。
その顔で記憶喪失ネタとか言うな。違和感バリバリだろうが。
「まあ、質問に答えるとしよう」
寝そべった状態から起き上がる美形にーちゃん。あぁ見てるだけでイヤだ。鳥肌が立つ。
しかも起き上がって座る際に足を組むとか何の嫌がらせだろう。
そんなに足が長いのが自慢か。そーかそーか、ちょっと表で話しようか。
「まぁ落ちつけ、ただの癖だ。それにお前の足が平均より短いのは私のせいではないぞ」
「だから思考読むな。セクハラで訴えるぞ」
「何処に? という突っ込みはこの場合するべきか?」
「……。えーと、じゃあ神様に?」
異世界だかは不明だが、どこでも宗教はあるだろうし。
「ふむ、まぁそれは無駄だな……ここは魔界だからな」
「はい?」
「魔界だ」
「……魔界」
「大事な事なので二度言いました」
いや、だからその顔でそういうネタって似合わないから。てゆうか詳しいなぁオイ!
「当り前だろう。呼ぶなら下調べぐらいしておくものだ」
「やっぱりオレ呼ばれた訳?」
「そうだな」
「呼んだのはアンタか」
「そうだな」
にこやかに頷くにーちゃん。
ちなみに背景にキラキラのオプション付き。そのうちバラが咲きそうだ。
うわー……首絞めてやりてー……。
このまま魔王討伐とか勇者とか言い出したら迷子になろうが自滅しようがオレは逃げ出すぞ。
……ん? 魔界?
「ちなみに二つ目の質問への回答。私はディアヴォロス・デュランだ」
「……。でぃあぼろす」
「ディアヴォロス」
ちっ、細かい奴……美形の癖に。
「種族名だ」
「……つかぬことを伺いますが、魔族ですか?」
「魔族だな」
美形の魔族だった。
……ダメだ。体が完全に拒否反応起こしてる。
てゆうか、今時美形の魔族とか痛すぎるからやめようよ。どこの設定だよコレ。責任者出てこい。そして一遍世間の厳しさ見直してこい。
はぁ……まぁいいや。取り敢えず確認が先だ。
「で……何故にオレが誘拐された訳? 生贄? まさか魔王になれとか?」
「まさか……そんな理由で呼びよせなどしない」
「じゃあ何?」
「暇だったからな」
「よし、今すぐ絞める。むしろ殺す。てゆうか死ね、本気で、全力で」
ああ多分今オレはむっちゃ笑顔だろうなー……。
人は怒りが過ぎると笑顔になるのだ。
しかし、美形のにーちゃん。もといディアヴォロス・デュランとかいう何処の厨二設定ですか? な名前の魔族はまるで動ぜず優雅に腰かけたまま、微笑ましい物を見る目で怒り心頭のオレを眺めているだけだった。
なんか、色々と殺意わく要素満載だなオマエは。
「暇とかで召喚すな! アンタ常識ねぇのか!」
「別に良いだろう。ちゃんと迷惑が行かないようにしているぞ」
「十分迷惑!!」
オレの人権は無視か! さすが魔族だな!
「ふむ……まぁ、そのうち帰してやる」
「今すぐ帰せ」
「それは駄目だ」
「何で」
険悪な顔で睨んだオレににーちゃんはにこやかにこうのたまった。
「久しぶりに楽しいからな、私が」
どんだけ俺様なんですか。