お茶会とオレ
「セシェン様は魔界でもごくわずかな数しか存在しない高位魔族にして、ドラゴン種の白銀狼でいらっしゃるんです」
と、スライス君。
「白銀狼……見たまんますぎない?」
と、オレ。
「複雑怪奇にする理由がわたくしには理解できませぬが」
と、これはセシェン君の発言だ。
一瞬にしてザコ大勢を無力化したセシェン君は、苦労人らしくそのザコたちへの説教をして、それから被害を調べて、お騒がせしたことを皆さんに謝っていた。
あのどっからみてもタダのでっかい白いワンコにしか見えない姿は魔界の皆さんには畏敬の対象らしくて、セシェン君が出ると何処もあっさり退いた。ま、オレとしては楽々ってもんである。
まぁ、横目でじっとりした視線を送って来るセシェン君(ワンコばーじょん、牙ザックザク)がちょっぴり怖い感じだったけど。
そのセシェン君、今は人型に戻ってショッピングセンター内の喫茶店でオレ達とお茶してる。
ちなみにオレはセシェン君が人型に戻る際に素っ裸になったら本気で急所蹴りかまそうかと思ってたけど、幸いもどういう仕組みか服もセットで出現した。ちなみに執事服ではなく、ぱりっとしたシャツとスーツっぽいズボンというシンプルな格好で、そのセンスの良さとかが微妙にむかつく感じでした。はい。
「ドラゴンってでっかいトカゲの人とかじゃないんだね」
「種族でございますので」
気のせいかちょっと言葉に棘があるセシェン君。
いや、確かにちょっと悪いことしたかなー……と、思わなくも無かったり。
「でもさっきの真の姿の方が良かったよ。あのもっふもふなワンコ」
「ワンコではございません。強いて言うなら狼なのです」
「ワンコだったじゃん。でも角とか翼ぐらい生えるかと思ってたんだけど」
「翼ならございますが」
あるんだ。さっきなかったのに。
「狭い場所では周囲に被害のゆかぬよう、たたむぐらいは当然いたします」
それは狭い場所で周囲の被害出しまくったオレにたいする当てつけだな。
だがオレは見ていたぞ。
「でも店舗の被害とか一瞬で直ってたじゃん」
セシェン君が怪しげな小箱から取り出した黒い輪っかを地面に置いた瞬間。
オレが投げて潰れた家具も、壊れた店舗も、食いかけの食べ物も何もかもが一瞬で復元された。
何の魔法か知らんが便利なもんだ。
あれが出来ると分かってればもっと派手にやったのに。
「あれは主のお陰です」
「あー、陛下か」
「陛下っ?!」
スライス君がテーブルから転げ落ちた。
「へへへへへへへ、陛下ですかっ?!」
「あれ? スライス君大丈夫? 潰れてるけど」
と言うか何故に驚き?
「ナカバさん、は……その、陛下のお客人なんですか?」
「いや、被害者」
「陛下に限ってそれは無いです。冗談が過ぎますよー」
スライス君の反応からするとデュランの事じゃないんだろうか。
「陛下って魔王の事だよね? デュラン」
「呼び捨てなんてとんでもない! 陛下は陛下です」
「うーん……」
そう言われてもなぁ。だってデュランだし。
「てゆうか、何でセシェン君知っててその事知らないのさ?」
「白銀狼はどなたも有名ですからー」
有名らしい。不憫だから?
「主都にいらっしゃる白銀狼はセシェン様だけですからー」
「へー……何で?」
「未熟な者や老いた者は故郷に、それ以外の者は皆それぞれの主人の元でお仕えしておりますので」
「白銀狼を従えるほどの方となればそりゃあもう貴族様になりますからね」
「ふーん……」
つまり、セシェン君の種族である白銀狼というのはプロの執事集団で、しかも従える事が一種のステータスになるってことか。
だから、地方のお貴族様のもとに使える奴は基本散っている、と。
「でもセシェンさんが陛下の元にいらっしゃったんですねー……」
「この事は他言無用に願います」
「はい、もちろんです」
椅子の上に這い上がってきたスライス君が任せてくれと大きく頷く。
「てゆうか……スライス君はさ、魔王についてどういうイメージ持ってる?」
さっきからの反応見ている限りオレとは随分違った印象持ってるっぽいけど。
ちなみにオレのイメージは変人で暇人で駄々っ子な誘拐犯だ。
オレは何となくで聞いてみただけだったが、スライス君にはショックだったらしく暫く凍ったように動かなかったが、やがて怯えた様子で小さく答えた。
「恐ろしいお方です」
「え? そう? 雰囲気が?」
「見た目もですよ」
スライス君。元が水色系なのにさらに青ざめて見える。
まるで内蔵撒き散らして死んでるゴキブリが入ったスリッパを知らずにうっかり履いてから気付いちゃった人みたいな感じだった。
「即位式の時に一度だけお姿を拝見した事がありましたけど……」
「けど?」
「………」
お、もしや美形死ね仲間? と思ったがスライス君の表情が真剣過ぎて聞けない。
ややあって、スライス君は「今でもたまに悪夢に見ます」と小さく呟いた。
「陛下の容姿の醜悪さは有名な話なのですよ」
その後を引き取る形でセシェン君が言う。
醜悪とな?
まぁある意味醜悪だけどさ、オーラとかきらきらしてるし。だけど普通に見れば美形だろ思いっきり。
「その醜悪さのあまり、魔王の醜さが我慢できないと吸血種のトップであるヴァンパイアの当主が暗殺に動いたと言う話もあるぐらいですからね」
「はぁ?」
魔族が魔王殺していいのか。
「殺せば次は自分が魔王ですしね」
セシェン君は当然のようにそう告げる。
「で、どうなったわけ?」
「返り討ちされたそうです」
ま、ピンピンして執事いじめに励んでるもんな、あの野郎。
「でも他を寄せ付けない今の魔王様でも、白銀狼だけは別格なんですね」
尊敬です、という眼差しを向けるスライス君。
しかし実態を知っているセシェン君は黙ってごまかし笑いをする。
一方のオレはそんなやり取りが可笑しくて笑ってしまったのだった。うん、何かゴメンね。