便利アイテムとオレ
以下、今朝の回想。
「良いぞ。好きに行って来い」
意外とあっさり風味なフェロモン魔王。
今朝もバックにしっかりキラキラオーラを背負っている。
いい加減はずせよソレ。やってて恥ずかしくないか? てかどこのスポットライト美白効果だよ。照明さん、もっと光落としてー。
「じゃあ金くれ」
「ならばこれを持って行け」
ポン、とオレの方に何かを投げてよこすデュラン。
きゃっち。
ふっ、運動神経と本体の接続が八割切れているというオレだから落とすと思っただろう。
残念だったな、デュラン。
「……って何これ。さいころ?」
「キューブだ」
一辺が1cmほどの正六面体。どの面にも何の模様もなくツルッツルである。
まぁ、確かにキューブだな。
「これがこっちの金?」
「違うな」
「じゃあ何だ。さっさと話せ」
オレの言葉にデュランの後ろでセシェン君が微妙な表情をしているが、当の本魔王が気にしてないので何も言えないらしい。というか、こいつ相手に回りくどい言い方してたら日が暮れるだろ。その辺セシェン君も分かるよね?
分かれ。
「まぁ、あれだな……スペアポケ○トだ」
「……スペア○ケット? つまり何でも出て来ると」
「ここにある物の一部だけだがな」
「意味ねぇ……」
「そうでもないぞ。まぁお前たちの持っている携帯よりかは少々多機能と思えば良い。逆に言えば携帯で出来る事は全て出来る」
「ふぅん……でもメール送ったりする送り先はどうなる訳?」
「キューブの所持者間のみだな。つまり、私かセシェンだ」
「意味ねぇ……」
しかしと言う事は計算機能とかメモとかネット……はこの世界にはなさそうだがGPSはあるかもしれない。
「それと収納、取出……まぁお前にはそれだけあれば十分だろう」
「でもこんなちっさいのでどうやってそれをやれと? ボタンも無いじゃん。上下左右も不明だし」
「操作は画面を見て選ぶだけだ」
パチンと指を鳴らすデュラン。
と、オレの目の前に親指と人差し指で四角を作った時ぐらいのサイズの透明な画面が浮かび上がった。
「ほー……指鳴らせないんだけどこれ出せる?」
「別段鳴らす必要はないからな」
「じゃあドウシロト?」
「まぁ落ちつけ。お前の使いやすいような形にしてやろう」
再びパチンと指を慣らすデュラン。と、掌の上のサイコロもどきが唐突に形を変える。
「あ、ip○d」
「ではないが、まぁ形状だけ似せておいた。電源ボタンで起動するぞ」
「ふむ……音楽聴ける?」
「聞ける事は聞けるな。こちらの曲になるが」
「ちっ……」
うん、でも大体これで使い方分かった。ここをこうでこうするとこうか。
「まぁ不要なものはこうしてしまっておけば良い。出す時はこれだな」
「ふんふん。確かに○ペアポケットだなこれ。これもやっぱり魔法?」
「いや、ざっと数千年以上前の機械だな」
「ふぅん」
まぁそんな事があったり無かったり。いやあったんだけどとにかく回想終了。
ここからずっとオレのターン。
「GO!」
決定を押すとでっかいタンスがやつらの頭上に出現した。当然落下。
「ぎゃー!」
「何っ?! 空間転移魔法だと!!」
おー、混乱しとる混乱しとる。
しかし実際できるもんだなぁ。これ結構ぶっつけ本番だったんだけど。
デュランの説明による「収納・取出し」。
それは簡単に言うと何処でも好きな物を中に入れて、好きな物を好きな場所に取り出せるという事。
こんなちっこい物の中に何が入るんだと思ったが、実際にはこの中に入ってるんじゃなくて別の空間から引っ張り出したり仕舞ったりしてるんだそうな。
ちなみに入れた物は入れた時の状態のままで取り出せるのだそうだ。
生き物でも物体でも何でもOK。どうりで冷蔵庫ねぇ訳だよなあの部屋。
しまう方は近くにある物限定だが、出す物はというとデュラン曰く「ここにある大抵の物は使って構わんぞ」と言う事だったので、つまりあの屋敷の中身ほとんどが使いたい放題なのだ。
好きな物を好きな時に好きな場所に転移できる。
ならこれを撹乱に利用できるかもしれない。
いやぁ、咄嗟の思いつきにしてはよくやったよオレ。ほめてあげようオレ。えらいぞオレ。
ちなみに買い物した物はこれにしまって、お金はこれから出している。
「な、何なんですか今の」
「ん? スライスも知らないの?」
「初めて見ました……その小さい札で召喚するんですか?」
「召喚……ごめん、その単語今はあんまり聞きたくない」
まさかオレの事もこれで呼び出したんじゃないだろうな……笑えん。
「とにかくパニくってる内に逃げよう。向こう多分誤解したから簡単に手出しは……」
「あんな人間は生かしておけん! 捕まえろ!」
「逆効果っ?!」
やばい。そこは予想外。
どっちかっていうと「こいつは危険だ、近寄るのは避けた方が良いぞ」的展開を期待していたんだけど。
あ、そう言えば魔族って人間に対してやられるとかプライドに障るって昨日デュランが言ってたような――――あ、あはははは。うん、まぁ何とか……。
「逃げよう」
「はい」
とにかく走るのも早くないし体力にも自信ないオレと、まるっこチビッコ体型で最弱のスライムなスライス君じゃ負けは見えている。
とにかくバンバン屋敷の物持ち出して落として、撹乱しまくるしかない。
が、オレはすっかり念頭に無い事がもう一つあった。
平和ボケしたオレじゃあ、まあしょうがなかったんだけどさ。うん、オレ悪くないハズ。