癒し系とオレ
今日も天気だ、空が青い。
「か……」
オレは今巨大ショッピングモールに居る。
いわゆる郊外型大型店舗みたいな感じの場所だ。天井はガラスっぽい透明なドームに覆われてて、そこからさんさんと眩しい太陽の光が降り注いでくる。
周りには色取り取りの看板を掲げた店が立ち並んでいる。
そして。
「いらっしゃいませー」
(多分)笑顔で声をかけて来る鳥の頭に二足歩行の獅子の体の奴。
その店の前でモノを物色してるのは上半身はおばちゃんで下半身が蛇の奴。
かと思うとお前ジ○リから来ただろ! という感じの黒くてふさふさした感じの毛玉の群れとか、柴犬にしか見えないが色が緑なわんこ達とかがその辺を歩いている。
いや、そんなRPGお約束な奴らはどうでもいい。
「かわいい――――!!!!」
何だあれ! 何あれ! 何なんだあの可愛いすぎるコンチクショウは!!
ドラク○とか、ぷよぷ○とかに出てきそうなまるっこい一頭身の体。
ぷにぷにつやつやな肌。
でっかくて小動物みたいにつぶらな瞳。
マンガっぽくデフォルメされてる感じの口。
ぽにんぽにんと跳ねて移動している半透明なあの癒し系最強物体は。
「スライムがそんなにお気に召しましたか?」
「うん、生きてて良かった」
やっぱり予想通りスライムだった。
これもまたお約束だが……いやしかし、可愛すぎる。キモ可愛い。マジで好みだ。連れ帰りたい。
と、オレがガン見しすぎたせいか、向こうにいたそのスライムがこっちを見た。
そしてオレの付き添いで来ていたセシェン君に気がついてこっちに跳ねてやって来る。
お、セシェン君の足元で止まったぞ。
結構ちっさい。猫ぐらいの大きさだな。
抱き上げてナデナデしてぇ。
「これはこれは、もしやセイリオス・セシェン様ではございませんか?」
うわー、アニメ声だ。てゆうか喋ってる。可愛い! 癒される。
「えぇ、そうです」
「やはり」
まるっちい目をきらきらと輝かせるスライム。あー、何か純真っぽいなぁ。
てゆうか、勇者の卵はこれを殺してる訳か。
信じられん……こんなに可愛いのに。
「あの、そちらの方は?」
いかん、見過ぎたか?
「こちらは……当方でお預かりしておりますお客様です」
セシェン君、ナイスフォロー。さすが苦労してるだけあるね。
オレもそのフォローに乗っかって姿勢を正す。
「どうも、ナカバです」
「スライム・スライス・スランバースです」
え? スライムの輪切り? ……じゃなくて、長いなぁ名前。
いや、確か最初に来るのは種族名だって話だからスライス・スランバースが名前なのか?
でも魔王より名前長いとかどうよ。レベル1スライムだぜ?
「スライスとお呼び下さい」
輪切り君と言うらしい。
「本日は何かお求めですか?」
「服とか身の回りの物をちょっと……まぁ色々と環境が変わりまして」
「そうなんですか。人型をお探しですか? それなら色々揃ってますよ」
店なんか多いっぽいしね。これで一着しかありませんとか聞いたら暴れるぞオレは。
うん、でもなんか……こういうの、魔界っぽいなぁ。
ちょっと感動。
ん? いや今更なのは分かってるよ?
でもさー、いくらデュランがエルフ耳だからって(うざい)美形の人型だったし、セシェン君も色を別にすれば普通に好青年だし、そんなんで魔界とか言われてもピンとこないって。
でも今周りに居るのはRPGとかでおなじみのモンスターだ。
しかも癒し系なスライムの輪切り……もといスライス君。
こっちきて安らぎを感じたのはこれが初めてかもしれない。あ、いやふかふかベッドが先か。
「セシェンさん。確かまだ仕事残ってたよね? オレ、もうここまでで良いからさ。帰ってあのダメな人の見張りしてきて良いですよ」
「ダメな人?」
「……。左様でございますか」
さすがに魔王陛下ですとは言えないか。
しかしなぜセシェン君はオレから視線をそらしてるんだろう。しかも軽く冷や汗っぽいものが見えた気が。
「しかし、お一人では……」
「スライス君が案内してくれそうっぽいし」
「お望みでしたら喜んで」
「……。ではスライスさん、恐れ入りますがこの方の案内をお願いしてもよろしいでしょうか」
スライム相手でも低い物腰のセシェン君。
ふむー。
ドラゴンってなんかランク上っぽいイメージだったけどそうでも無いんかね。
単にセシェン君の苦労人属性のせいか?
「はい、分かりました」
ぐっじょぶ癒し系。
スライス君が引き受けてくれた事でセシェン君も踏ん切りがついたらしい。
オレの方へ深々と頭を下げる。
「では、お気をつけて」
「送って頂いてありがとうございます、セシェンさん」
「お帰りの際や何かございましたら、それでご連絡くださいませ。すぐに伺います」
律儀やなぁ。
うん、でもどっちかっていうとどうでもいいからさっさと立ち去ってほしい。
君が隣にいるせいで周囲の視線がさっきからビシバシとオレ達に飛んでいること、自覚してるよね?
……それともこれぐらいの視線いつもの事だから気にしてないのかなぁ? んー?
笑顔でオレが沈黙していると、セシェン君は何か察したのか微かに表情をこわばらせ、
「……。では」
よし、去った。
残ったのはオレと、癒し系魔族のスライス君だけ。
「じゃあ、宜しくお願いします」
「お任せ下さい!」
ちくしょう、こいつ可愛いなぁ。
【作者後記】
本日最後のUPとなるかと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日一日で累計400以上のお客様が来て下さったようです。
お気に入り登録して下さった方もお二人増えました。
では、またのおこしを心よりねがっております。
作者拝