8-3 大逆転をねらえ
☆
翌朝、海湖ちゃんはケイヤくんに迎えに来てもらって出かけていった。「ケイヤが来たから行くー。」と堂々と言い残していた。
そして、昼過ぎになると、ムスビくんと一緒に帰ってきた。
やはりムスビくんは家に入る権利を手に入れたみたいね。なんだかこの二人、とっても仲良くなったみたい。手をつないだまま、というか海湖ちゃんがムスビくんの手を引っ張ってる感じだけど、私たちにあいさつだけしてから、二人で2階に上がっていった。いつものように海湖ちゃんがお茶を取りに来る。部屋にいるときは雷空にやらせないで自分でするのね。
きのうは、カズシくんもいたときに二人で外でしばらく話してただけだと思ったけど、どこまで急接近したのかしら。もちろん、ほかにもスマホとかでいろいろやりとりはしてるんだろうけど。
雷空の目が怪しく光った。
★
ばたばたと2階から海湖が下りてきた。
「お兄ちゃん、物理わかる? ユイに聞いてもこの問題よくわかんないんだって。」
ユイって、女子の友だちか? 確か、今来てるめがねをかけた男子は、昨日自転車で救出に来た小林とかいう人で、下の名前はムスビだったような気がするけど。あれ、そもそもムスビって、下の名前?
「文系だしそもそも物理は選択してない。」
「えー、役立たず。」
「二人で勉強してたの?」
「当たり前じゃん、受験生なんだから。」
「そっか。」
やばい。莉亜の父と同じような反応しちゃった。いや、別にやばくはないけれども。
「勉強じゃなくて何だと思ったの? ま、まさか、男子と二人きりで部屋にこもって人にいえない秘密の営みをしてるとでも思ったんじゃないでしょうね? きもっ。」
「違う。」
ほんとはそう思ったに決まってるだろ! なぜならばあんたが普段そうしているからだ! あと、そもそも論として、きょうだいとはいえ異性に対して下ネタを堂々と使うな!
「言っとくけど、ユイ、あ、ユイってムスビのことね、あの子、むっちゃ頭よくて、こないだ学年4位だったんだよ。でもユイも理数科だから国語と英語はあとでお兄ちゃんに聞くから。」
やっぱり彼がユイ? ムスビと同一人物? もうわけがわからん。
「勉強してるっていうより、教えてもらってるってことか。」
「別にいいじゃん。特に理系の科目はお兄ちゃんじゃあんまりわかんないんでしょ。ちゃんとお礼はしてるから心配しないで。」
「お礼って?」
海湖がぼくの耳に口を近づける。おい、莉亜が見てるぞ。いや、きょうだいだしやましいことはないが。
「ほっぺにチューしただけ。」
「・・・。」
「もっと教えてくれたら、グレードアップさせるよ。」
つまり、ほっぺにチューの次は、唇にチューで、次はもっと濃厚な大人のキスで、その次は体に触らせて、そのまた次は・・・。そして最後は、やっぱ混浴なのか。
「あ~、お兄ちゃんが変な想像してるー。変態。女の敵。頭はいいけど心は中学生。お姉さん、これがお兄ちゃんの本質だから気をつけないとだめですよ。」
「おい。」
「じゃ、私は、2階に戻って、ユイと、お勉強を、しようかなー。集中しないといけないから、1時間くらいは放っておいてね。」
莉亜の視線が痛い!
☆
お盆になるので私だけ一足先に実家に戻った。上りの新幹線だから、帰省ラッシュとはかぶらない。
今までの襲撃事件のことは親に報告している。特に助けてはくれなかったけど。
「雷空くんの妹の、ウミコちゃんだったか。」
「ミコちゃんよ。」
ウミコと呼ぶ人もいるし、本人も気に入っているとか言っていたけど。
「合格だ。」
「何かしてたの?」
「莉亜が言っていた襲撃。あれが試験だった。」
は? あんな危ないことをわざわざ2回もしたの? わざわざ人を使って?
「戦闘に長けている上、複数の男子に自分を守らせるしたたかさをもち、いざというときは自分も戦う勇気と力がある、ということがわかったそうだ。」
それは私が前に言ったことと同じ! 調査しなくてもわかってる。
「高校生ながら見事だ。」
たったそれだけのために、まわりの男子を巻き込んで、ルーくんは一緒にシャワーを浴びたけど失恋するわ、その結果ケイヤくんが4人の中の首位(?)に立つわ、ムスビくんも海湖ちゃんといい感じになってユイっていう本名で呼ばれるようになってるわ(どこまで深い関係になったのかはよくわからない。)、カズシくんはついに海湖ちゃんと結ばれるわ(これはあくまで推測!)、いろんなことがあったのよ!
「ミコちゃんは、単なる協力員ではなくて、正式メンバー候補でもいいんじゃないかね。」
雷空を飛び越えた!
「女性ならではの武器を使った活躍にも期待できるかもしれんな。」
ふざけないでこのエロ親父!・・・といいたいところだけど、海湖ちゃんごめん、私もそう思う。