4-1 窮地に陥った会社を救え
4 新生活は大胆に
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年の瀬を迎えて、真里弥から連絡が来た。
あの一件以来、真里弥はぼくにかかわらなくなっていたが、バイトは続けていた。バイト先で、「6卓様ご注文お願いします。」とか「レジ入ります。」とかの会話をするだけで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そんな真里弥が、話をしたい、と言ってきた。デートの誘いじゃなくて、真剣な相談がある、莉亜と一緒でもいいから、話したいというのだった。
莉亜に連絡をしたが、勝手にやって、あとで報告して、と言ってきた。真里弥とぼくが今さらくっつくはずがないと高をくくっているのかもしれない。
落ち着いた感じの喫茶店で、話を聞いた。真里弥は、森田との関係について、前よりも詳しく、話をした。
「たぶん知ってると思うんだけど、私の親の会社、けっこう危なくなってて、そんなとき、私、たまたま、森田さんに会うことがあって。完全にスケベ心のかたまりみたいなやつで、むっちゃセクハラしてくるわけ。最初はもちろん嫌がってたんだけど、桂木建設の娘だということを知ると、交換条件を持ちかけてきたの。つまり、会社に仕事をまわす代わりに、関係を結べってことね。はっきりとそう言ったわけじゃなくて、その場の会話のニュアンスで言ってくるわけ。けっこう強引に、関係を結ばされて、そしたら、確かに、会社も助かったわ。私の学費もかかるし、妹もいるし、助かったことは間違いないの。」
助かったにせよ、最低の政治家だな。
「もちろん1回きりのつもりだったけど、あのおっさん、図に乗って、継続的な関係を求めてくるわけ。あげくに、隣の県にあるホテルに私を呼び出してきたの。知ってるでしょ、ログハウスみたいな建物に泊まるとこ。」
知ってるもなにも、ぼくと莉亜が森田議員と真里弥を張り込んで不倫の動かぬ証拠をつかんだ場所だ。
「泊まるだけじゃなくて、部屋についてるお風呂に入ってるときの写真とられたの。最悪だった。」
のぞくだけじゃなくて、写真も撮るなんて、政治家の風上にも置けないやつだ。言っとくけど、ぼくはのぞいたわけじゃないからね!
「それで、そこに私たちが泊まってるときの写真をだれかに撮られてたみたいなのよね。」
ぼくたちが撮影者だとは気づかれていないらしい。
「森田さんは、私が裏で糸をひいて、わざと不倫現場の写真を誰かに撮らせて流したと疑ってるわけ。最初は、わかば不動産の跡継ぎである雷空くんのせいと思ってたみたいで、なんとかしてだまらせろとか言われたので、申し訳ないけど、私、雷空くんに近づいた。でも、それがうまくいかなくて、ごめんなさい、雷空くんからむりやり写真のことを聞き出して取り上げようと思ったんだけど、雷空くんは関係なかったんだよね。今は、結果的に、私が疑われてるの。自分で、誰かに写真を撮らせて、自分でばらまいて森田さんを追い込んだんじゃないかって。」
まったくの間違いだ。ぼくはわかば不動産を継ごうとしていない。社長とは厳密には親子じゃないから、会社の株を相続する権利もない。あ、いや、そこが問題なのではなくて、写真をばらまいたのがぼくじゃなくて真里弥自身だというのは、まったくの間違いだ。
「助けてほしいの。」
助けてって、どうやって?
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雷空から、桂木真里弥の話の内容についての報告を受けた。だったらどうすればいいのかは、まったくわからない。
「難しいことは、らいくんに任せる。」
あの女が雷空と怪しい関係になる余地はなさそうだから、私は、安心して、雷空と過ごすことができる。ただし、まじめに護身術を教える。あの女にすら腕をきめられていた雷空は、もっと強い人が襲ってきたらひとたまりもなさそうだしね。
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年末の帰省の際に、また父の会社を訪問した。別に今度はぼく1人だから家で話してもいいんだけど、母や妹に聞かれるとまずいしね。
それに、父とは、同性であるばかりではなくて、ある意味で他人だから、かえって微妙な話題でも話しやすいところがある。母が再婚したときには、ぼくは思春期を迎えたころで、すごくもやもやした感情もあったけれど、成長ととともにそのあたりは失われ、適度な距離感がわかるようになってきた。
店内は年末最後の営業日の1日前で、慌ただしい雰囲気だった。父に用があって来たというと、また中井さんという若い女性社員が、ぼくを社長室に連れて行った。なんで家で話さないでここに来るんだと不審がられているかもしれないけれど、社長親子のことに口出しすることはないだろう。
「こないだの話のつづきなんだけど。」
中井さんが淹れてくれたお茶を一口飲んでから、切り出した。
「物騒だな。余計なことに口を突っ込むなと言っただろ?」
「それはわかってるけど、でも、しかたないんだ。森田議員が、自分の不倫が暴かれたことを、不倫相手の女の子のせいにしているらしい。その女の子が、たまたま、ぼくのバイト仲間だったんだ。だから、なんとかしてあげたくて。」
完全に本当ではないけれど、うそとまでは言い切れないだろう。
「その女の子の実家は、建設業者で、女の子が森田議員のお気に入りで、がまんして不倫に付き合ってあげたおかげで、仕事を回してもらったりして会社が生きながらえているらしいんだ。でも、森田議員が勝手に女の子を悪者にして、見限ったから、会社は倒産の危機らしい。」
「そうか。」
父の目は意外と冷たかった。莉亜の父親より冷たいかもしれない。
「どうすれば助けてあげられるっていうんだ?」
「よくわかんないけど、なんとかしてあげて。」
父はため息をついた。
「あのな、森田議員は悪いやつみたいだ。ただ、だからといって、お前のバイト仲間の実家だというだけで、その会社をうちが助ける義理はない。そもそも、助ける方法もない。ビジネスをやっている以上、うまくいかなくなるリスクは常につきものだ。」
「でも、学費もいるし、妹さんもいるらしくて・・・。」
「そんなことは他人が心配することじゃない。そもそも、娘が身体を売って助かるような会社なんて、つぶれちまったほうがいい。金がないなら、奨学金を借りるなり、親が会社をたたんで別の仕事を探すなり、公的な援助を受けるなりすればいい。そんなことは、それぞれの家庭ごとに判断することだ。」
そうだけど。
自分が世間を知らない学生であることがうらめしい。
「森田議員の不倫写真、前見せたでしょ、あれは、ぼくが撮ったもんなんだ。厳密には、こないだ一緒に来た莉亜ちゃんと一緒に。」
「なんだって?」
「ここだけの話だよ。今までの話もここだけの話だけど、今から言うことは、もっと大事な秘密。」
悪い奴らをこっそりこらしめる秘密結社があること。莉亜は、ぼくの彼女である前に、その構成員である夫婦の一人娘であって、自分も組織に肩入れしていること。ぼくは、ひょんなことからその協力者になっていること。2人で協力して、森田議員の不倫の証拠をつかんだこと。
あと、莉亜との交際は、組織のこととはまったく関係なくて、本気なのだということ。
「証拠もあるよ。」
莉亜の両親とのメッセージのやりとりの履歴(莉亜本人とのやりとりは、さすがに最高機密だから、絶対に見せない。)。真里弥の自白の録音。11月に急に残高が増えた銀行の口座履歴。これらを父に見せたり聞かせたり。今すぐ示せるものはこれくらいだ。ほんとなら、莉亜にここに来てもらって一本背負いでも披露してもらったほうが説得力あったかもしれないけどね。いや、それじゃ柔道の学生チャンピオンだとでも思われるだけか。
「わかった。」
父は、ぼくの話を信じてはくれたらしい。
「だが、結局、その桂木建設とかいう会社をどうにかしろと言われても、別の県の業者だし、付き合いもないし、どうすることもできんぞ。」
「同じ県の同業者とかはいるんでしょ? 森田議員の評判も父さんがだいぶ調べたみたいだし。ぼくだって、そのせいで疑われたんだよ。」
「そうなのか? おれは、ただ、気になってちょっと周りの人に聞いただけで、別に何かしたわけじゃないんだが。」
「それでいいじゃん。ちょっと噂すれば、そのうち尾ひれがついて広まるでしょ。森田議員は桂木建設をはめたとか、娘さんがかわいそうだとか、社長は一生懸命がんばってるとか・・・。」
「その程度の話じゃ噂は広まらんけど、まあ、工夫して流してみよう。」
「ありがとう。」
「ところで、例の彼女は、ずいぶんかわいい子だったけど、きょうは一緒じゃないのか? 今度帰省するときは、彼女を連れて来て、みんなに紹介したらどうだい。もちろん、うちに泊まっていってもらえばいい。」
おっさんって、なんでみんなこうなんだろうね。それに、莉亜の実家には両親しかいないけれど、ぼくの実家には、最近どんどん色気づいてきた高2の妹がいる。そこに彼女を連れていって泊まらせるというのもどうなんだろう。
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帰省中の雷空からの連絡で、お父さんとの話の内容を聞いた。雷空のお父さんが、雷空からの説得に応じて、桂木建設を救うためのプロジェクトを始動させてくれるそうだ。内容は、森田議員の悪口と桂木建設のよさを噂で流す、というものだそうだ。ばかな私にも、そんなの無意味だってわかるんだけど?
「わかってる。でも、それ以上どうしようもないんだ。焼け石に水かもしれないけど、やらないよりましって感じ。」
「うちのお父さんにも相談してみようか?」
「どんな相談?」
「森田議員をもっと痛めつけて、桂木建設に仕事を回させればいいんじゃない?」
「そんなことできるの?」
「難しいかなあ。」
結論としては、だめだった。
難しいことはよくわからないけど、森田はもう十分痛めつけられていて、桂木建設にこれ以上仕事を回す余裕もないということのようだ。
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新年になっても、莉亜は相変わらず、ぼくのアパートにやってきては、訓練を実施する。昨年以降、莉亜が考えたものには、下着をのぞく訓練だの、耳に息を吹きかける訓練だの、男子のお尻の穴を守る訓練だの、いろいろなものがあった。要するに、間合いをはかって隙をついて何かする、という意味ではまったく同じだけどね。まさか、両親にこういう訓練をほどこされて強くなったんじゃないよね?
「じゃ、きょうの訓練を始めましょう。」
ごくり。
「目隠しをして、相手の動きを感じ取る訓練よ。さ、これをつけて。」
荷物の中からアイマスクを取り出して、ぼくに渡す。ぼくはそれをつける。暗闇に包まれる。
ふいに、顔の前に人の吐息の気配がして、キスをされるのがわかる。
「こら、敵が迫ってきてるんだから妨害しないとだめでしょ!」
そうね。これはそういうプレイじゃなくて、訓練だもんね。でも、だったら別にキスしなくてよくない?
しかし、身体は正直で、かたくなっちゃうわけで。その上に莉亜の手が届いているのがわかる。
ぎゅっ! 握られて、痛いような、気持ちいいような・・・、いや、痛いわ!
「はい、急所攻撃成功。」
全然抵抗できねえ!
こうなったらなんとかするしかないと、手探りで莉亜の居場所を突き止め、莉亜の急所、つまり、胸と大事なところ(があるはずの場所)に両手をのばす。が、当然のように空振りになる。
その手のうち、左手の人差し指と中指が、何か温かくて湿ったものに包まれる。ぺろり。
「はい、指がかみ切られました。」
いたずらっぽい莉亜の声がする。こわっ。
続いて、ぼくの胸のあたりに莉亜の手が伸びてくる。ぼくは必死で、その手を文字どおり手探りで探し当て、つかむ。しかし、そのまま腕が回転させられて、痛い痛い!
「はい、心臓やられました。」
「言ってること怖い! 全然わからない!」
「らいくんにはちょっとレベル高すぎたかもね。」
「自分はできるの?」
「少しならできる。」
「見本を見せてもらおう。」
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アイマスクをつけた私は、感覚で間合いをとる。相変わらずばたばたした動きに反応して彼の身体を受け止める。
あ、無理だった。
彼が襲いかかってくるということ自体はわかったけれど、さすがに細かい動きがわからないから食い止めることはできなかった。
私の身体が彼に包まれ、濃厚なキスとともに彼が私の服の裾に手を伸ばしてくる。ちょっと、目的が違うじゃない!
結果、私は、いつも以上に、感じてしまった。
訓練が終わるまでに手を出すのはルール違反、と雷空にお説教したけれど、自分があんなに感じていたら、全然説得力ないじゃない!
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いつも以上に濃密な夜を終えて、身支度をして外に出た。きょうはデートなのだ。
莉亜は、丁寧にメイクを施し、黄色いセーターと黒地に花びらのような模様の入ったスカートを身につけ、その上からロングコートを着ている。ぼくもこの冬買ったコートを着て、外に出る。
ぎゅっと手をつないで狭いアパートの外階段を降りて、道路に出ようとした。
「危ない!」
莉亜が叫んだ。人影。
「部屋に戻って!」
ぼくは階段を3段ほどあがって、振り返った。あれ、莉亜はついてこなくていいの?
二人組の男が駆けてきた。莉亜はそのうちの1人に一本背負いを食らわせている。
ぼくは全速力で自室に戻った。
逃げたわけじゃない。武器はないか。包丁はさすがに危なすぎるだろう。何か役立ちそうなものは・・・。いいものがあった。
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1人の男を投げ飛ばすとほとんど同時に、もう1人が襲いかかってきて、後ろから私を羽交い締めにしてくる。先ほど一本背負いされたほうの男がふらふら立ち上がろうとしている。
「莉亜ちゃん、こっち!」
頭上後方から彼氏の声がした。私を捨てて逃げたわけじゃないって、もちろん、信じてたわよ。80%くらいは!
このアパートに数え切れないほど泊まりに来た(それもだいたい夜に訪問していた)私には、建物の構造がしっかり頭に入っている。上を見なくても、雷空がどこにいるかわかる。男に羽交い締めにされたまま足を動かし、雷空の声がしたほうに移動する。
身体を前にかがめる。私の上に男が覆い被さるような体勢になる。
「これでもくらえ!」
ズドン! バサッ! ボトン!
雷空の声とともに、上から何かが次々に落ちてきた。そのうちの1つが男にぶち当たったらしく、男は鈍い悲鳴を上げて、手を離して倒れる。
「やった!」
雷空の歓声のような声がした。
しかしまだもう1人残っている。その1人、つまり先ほど一本背負いを食らったほうの男が、立ち上がって、突撃してくる。殴りかかってくるが、1人だけの単調な攻撃だし、こんなのは簡単によけられる。私は、拳を避けながら、ガン、とその男の股間に下からつま先で蹴りを食らわせた。男がうめき声をあげながらダウンする。
もう1人の、さっき私を羽交い締めにしていた男のまわりには、法律学なんとかとか、民法なんとかとかいう難しそうな分厚いハードカバーの本が散乱している。その本のうち1冊が男の脳天に直撃したらしい。私がすぐ近くに寄ると、男が目線をあげて立ち上がろうとする。倒れているのをいいことに、スカートの中でものぞくつもり? それに、さっきはよくも、私に後ろから抱きついてくれたわね! 私にくっついていい男性は、この世に1人だけしかいないのよ! 私は、立ち上がろうとする男の頭部に再度蹴りを入れた。念のために言っておくと、もちろん、下着とスカートの間にはもう1枚はいている。
鈍い音がして、男はその場に突っ伏した。
2人の男は、それぞれ股間と頭にダメージを食らってもはや起き上がれない感じだ。ごめんなさいね。きょうは冬のデートの日にふさわしく、厚底ブーツを履いていたのよ!
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見ているだけで痛い。刑法の試験で出てきそうな状況だな。こういうのを正当防衛ではなくて、過剰防衛という。やっぱり、あの厚底ブーツはデート用というより戦闘用だったのかもしれない。
「大丈夫?」
我に返って、ぼくは階段を下りて莉亜に駆け寄った。
「私なら、なんともない。弱っちい相手。」
「よかった。」
「まさか、らいくんが私を捨てて1人で逃げるとは思ってなかったけど。」
痛いところを突かないでくれ! 声色は明らかに本気じゃないとはいえ。言い訳したくないけど、ぼくは、部屋に戻れという莉亜の指示に従って行動しただけなんだけどね。いや、やっぱりかっこ悪すぎる言い訳だ。
「でも、ナイスフォロー。やっぱ、あなたは頭脳派ね。」
莉亜が『法律学事典』を拾ってくれる。ぼくは残りの、『民法判例集』と『会社法』を拾い上げる。
「ちょっとやり過ぎたかな?」
「何言っているの。許せないでしょ。私とらいくんがデートしようとしているのを邪魔するなんて、万死に値する犯罪だわ。」
そういう問題なのか? 確かに許せないけど。
「それより、ほかに何があるかわからないから、今はとにかく退散しましょう。ひとまず私の家に。」
確かに、またこいつらが起きてきたら面倒だ。ぼくはあわてて法律書3冊を玄関内に入れた。戸締まりを確認し、莉亜と2人で莉亜の家に向かった。
家族は留守のようだ。莉亜に先導されて、莉亜の部屋に入る。床に座って、互いの手を握り合う。
「飲み物持ってくるね。」
いったん立ち上がった莉亜が、ぼく用のコーヒーと自分用の紅茶をカップに入れて運んできた。それから女の子座りをして再度ぼくの手を握った。デートスタイルだから、ひときわ美しい。アイメイクで引き立たせられた瞳が輝いていて、唇はグロスでつややかだ。
「あいつら、何者だと思う?」
ついキスの体勢に入ろうとしたぼくのよこしまな思考を打ち消すように、莉亜が言った。ぼくは頭の中をリセットする。
「例の、森田議員の手先じゃないかな。ぼくは、真里弥さんに頼まれて、父さんに、森田が悪者で桂木建設がいい会社だという噂を流すように頼んだ。噂って、特に同業者とかの間だと、すぐ広まるからね。不動産屋さんと建設業者さんは近いだろうし。それで、具体的にどうなったのかはよくわかんないけど、森田議員以外から入ってくる仕事で桂木建設の仕事がうまくいくようになったら、森田議員は桂木建設をだしにすることができなくなる。で、誰のせいでそうなったかというと、ぼくたち親子のせいだ、ってことになるよね。」
「じゃ、らいくんのお父さんは、大丈夫かな?」
「聞いてみる?」
父に電話をかけてみる。父はすぐに応答した。
「もしもし。」
「父さん、ちょっと、大事な話があるんだけど、落ち着いて聞いてね。」
「彼女と婚約でもしたのか?」
「全然違う。父さんだけに話すけど、今さっき、誰かに襲われた。たぶん、森田議員の手先だ。」
「何だと?」
「別に大した事はない。莉亜ちゃんが守ってくれたから、いや、莉亜ちゃんと一緒に、撃退したから。」
莉亜が握っていたぼくの手を離して、ぼくの手の甲をつねった。痛い!
「で、どうなった?」
「そいつらはやっつけた。ただ、森田議員は、たぶん、ぼくたち親子がつるんで変なことしてると思ってるみたいだから、お父さんのとこには何かないかな、と思って。」
「何もないし、会社は警備会社とも契約しているから、問題ない。」
「あいつらはぼくのアパートの外で待ち伏せしてたんだ。会社だけじゃなくて、家とか外の場所でも気をつけて。」
「いっちょ前になったな、お前も。そんなことより自分の心配をしろ。防犯ブザーくらいホームセンターで売ってるから、持ってないなら今からでも買ってこい。何かあったらすぐに110番するんだ。そっちが危ないようなら、いつでも帰ってこい。引っ越したいなら相談しろ。それくらいのお金は面倒みてやるから。」