メタルマート 秋葉原店 ~不思議なコンビニと致命的な勘違い~
今よりちょっと未来。科学技術の向上により、人間と同等の自我や思考を有する完全自律型ロボットが普及し始めた、そんな未来の話。
秋葉原の電気街の中、青年はとある店を発見した。
「何これ。『メタルマート』?」
青年はこれを見て奇妙な感情を抱いた。その外観は一見何の変哲もないただのコンビニ。しかし『メタルマート』なるコンビニは生まれてこの方一度も見たことない。
「まぁいっか。おやつの時間だしおにぎりとエナドリでも買っていこ」
そう言うと青年は店に足を踏み入れた。
店に入った青年。おにぎりとエナジードリンクを探そうと店内を散策し始めた時、レジから奇妙な声が聞こえたのだった。
「潤滑油と軽油がそれぞれ一点。合計で970円になります」
潤滑油と軽油!?
青年は心の中で酷く驚いた。ここはコンビニのはず。潤滑油だの軽油だの、そんなものが置いているはずがない。そう思いながら青年は、店の棚を片っ端から見て回った。
青年の驚きがますます大きくなった。ドリンクコーナーに、潤滑油がお茶やジュースと同じ棚に並べられていたのだ。
それだけではない。カップ麺売り場にバッテリー、お菓子売り場にプラスチックで出来た何かのパーツ、日用品売り場にセンサー類やモーターと思しき機械が混在していたのだ。
おにぎり売り場にも大小様々な歯車、エナジードリンク売り場にも軽油やガスの入った缶が当たり前のように陳列してある。その様子はさながらカー用品店にも見えるほどだ。
「どういうことだ!? なぜコンビニにこんなものが!?」
青年は少しでも脳を落ち着かせようと深呼吸をしながら思考した。
ここはきっとコンビニ風に内装した電子部品の店なのだ。第一ここは秋葉原。部品屋など探せばいくらでもあるだろう。
たまたま店長の趣味でこんな内装をしているだけで、実際はそこら辺の部品屋と大して変わらない。そうだろう。そうであってくれ。
しかし思考を巡らすうちに、その考えは打ち砕かれた。もしもこの店がコンビニ風の内装なだけのただの部品屋なら、なぜおにぎりやエナドリといった普通のコンビニの商品を置くのだろうか。その答えを導く為、青年はさらに思考を重ねた。
その末導き出した答えは、『この店は電子部品も扱うコンビニである』ということであった。電子部品の会社とでも提携したことにより、普通の商品のみならず電子部品も扱っているのだろう。
実際そういったコンビニは実在する。何らおかしな話ではない。そう思った青年は安心し、梅のおにぎりとエナジードリンクを買い物かごに入れた。そしてレジに並ぼうとしたその時、
「強盗だ! 大人しく金を出せ!」
怒鳴りつけるような声が店中に響く。驚いて店の入り口を見ると、そこには目出し帽を被った男が。その右手には拳銃が握られていた。
強盗は銃をもったまま店内にずかずかと入り込み、人とは思えないような怪力で青年の首筋を左手で掴み、上へと持ち上げた。青年はこの怪力男の人質になってしまったのだ。強盗は青年の頭に銃口を向けながら叫ぶ。
「早く金を出せ!このガキがどうなっても良いのか!!」
「う、うわぁぁぁぁ!」
恐怖のあまりパニックを起こし、意識を失いかける青年。しかし店員は一切おののく事なく、真剣な声で青年に話しかけた。
「そこのお兄さん、少しの間動かないで」
そう言うや否や、不思議な事が起こった。店員の右手がガシャンガシャンと変形し、大きな銃口を備えたアームキャノンへと変形したのだった。
「やべっ、逃げるぞ!」
青年を手放し慌てて逃げようとする強盗。しかし店員はそれを許さなかった。
「逃がさない!!」
店員が叫ぶと同時に、アームキャノンから黄色い光の弾丸が一発撃ちだされる。強盗はその弾丸を避けられず、右腕に被弾してしまう。
焼けるような激痛が右腕に走り、強盗は銃を落とす。あまりの痛みゆえに腕をかばうことしか出来なくなった強盗は逃げることも抵抗することも出来ず、直ぐに駆けつけてきた警察にあっさり御用となった。
「もう大丈夫ですよ。出力も抑えたので命に別状はないはずです」
店員は優しい声で青年に話しかける。
「あぁ、ありがとうございます。ところでさっきのは一体…」
「ビームバレット。強盗撃退用に店から支給されたものです。現行のロボットなら誰でも装備出来ますよ」
「え、ロボット?」
「ええ、ロボットですよ。こちらはロボットも利用可能なコンビニエンスストア『メタルマート』ですので」
驚いた。青年は店員の顔をまじまじと見つめる。よく見ると確かにその瞳の虹彩はカメラのレンズの絞りような多角形をしている。潤滑油やらモーターやらを平気で並べているのも客がロボットなら納得だ。
先ほど強盗に入った怪力男も、恐らくはロボットだろう。店員の言葉は嘘ではないようだ。普段ニュースを見ない青年は、ロボットが一般化した事を知らなかったのだ。
「まぁ強盗も捕まった事だし、お会計お願いします」
青年はそう言い、改めておにぎりとエナドリの入ったカゴをレジのカウンターに載せた。
「おにぎりとエナジードリンクがそれぞれ一点、計365円になります」
「はい、365円ですね」
それを聞いた青年が財布にあった100円玉4枚をトレーに載せた時、店員が青年に話しかけた。
「それにしてもおにぎりとエナジードリンクなんか買って、お友達のおやつでも買いに来たのですか?」
「えっ、何言ってるんですか。僕はロボットじゃない。人間ですよ。軽油なんてものを飲んだ覚えなんて、ものの一度もありませんよ」
それを聞いた途端、店員の表情が不安と焦りに包まれる。もしも人間なら顔が真っ青に染まっていただろう。
突如携帯を取り出し、慌てた様子でロボット修理場に電話を掛ける店員。青年は程なくして到着したロボット救急車に載せられ、修理場に搬送された。
後に知ったことだが、青年もまたロボットの一体だった。思考回路の障害により自分の事を人間と勘違いしていたのだ。
その上彼の体は太陽光で動くため、充電も給油も必要無く、そのせいでロボットと気づくことは無かった。そんなロボットの体に無理やり人間の食べ物や飲み物を流し込んだせいで、彼の体は故障寸前だったのだ。