ママになれるよ
ママになれるよ
「人間の子供を自分で産まないと、母親になれない。」
私はかつて、そう言われたことがある。
私は婦人科疾患や持病がいくつかあって、妊娠できない。
自分の夢が『ママになること』だったので、事実がわかった時、すごくショックだった。
自分に寄り添ってくれる存在が欲しいと願っていたら、たまたま、ネコちゃんと出会った。
その出会い方は強烈で、たぶん、お互いにビビッと来たんだと思う。
私の両手に収まるくらいの小ささだったネコちゃんは、抱くと途端に、ゴロゴロ喉を鳴らし始めた。
私は涙が出そうになった。
そうして、ネコちゃんは私と夫の『娘』になった。
ネコちゃんをお迎えしてから、友人にこう言われた。
「でもさ、猫はあなたより先に死んじゃうじゃん。
絶対、人間の子供の方がいいって。(笑)」
愛するものの寿命を言うな。
人が大事にしているものの寿命を、簡単に言うな。
そんな事、分かってる。
猫の平均寿命が、人間の平均寿命より短いことなんて知ってる。
それでも愛してしまったんだ。
不妊治療もある。
里親制度や養子縁組もある。
様々な選択肢が断ち切られた場合だと理解しないまま、「頑張って子供作った方がいいよ!(笑)」なんて、なんで言えるんだ。
簡単に言うな。
私が頑張ってたこと、頑張っても諦めるしか道がなかったこと、理解してないのに、なんでそんなヘラヘラ言えるんだ。
私は、その友人と縁を切った。
私は心が狭いのかもしれないと、その時は随分悩んだ。
実際、心狭い人間だと思う。
そして、心弱い人間だとも思う。
友人の言葉は、私の心に刃物のように突き刺さった。仕事から帰ってきては、ネコちゃんの前で泣く日々がしばらく続いた。
人間の赤ちゃんを育てるのと、子猫を育てるのと、全然違うことも分かってる。
それでも、ごはんやトイレのお世話。何を使い、どの種類の商品がうちの子に合ってるのか、果てしないくらい考えて、試して…。
一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って(うちの子は私が湯船に浸かってると浴槽の縁や蓋などに乗ってくつろぐ)、一緒に寝て…。
1ヶ月ごとの検診。
大きくなっていく体に、知性をたたえていく瞳。賢い脳と、使い分ける鳴き声。
私は、この子のママになれて幸せだなって、本当に毎日思った。
仕事が上手くいかなくて、落ち込んで帰宅した時。私のおやつのビスケットが食い散らかされていて、笑えて、一瞬で嫌なことが吹っ飛んだ。
キッチンに入らないように簡易ドアを取り付けたのに、ネコちゃんは一晩中かじり続けてドアを破壊した。
電気ポットの上に乗って、ポチッとボタンを押し…。お湯を「ジャー!」と出してみせ、床を温泉にした。
ストッキングを干した次の瞬間、ジャンプで爪に引っかけビリビリに引き裂いた。
全部、全部、爆笑した。
「ただいま!」
と、笑顔で家に帰って来れるようになった。
何度病気になっても、
「絶対治す。」
と決意できるようになった。
家族。大切な存在。支えてくれる、心の拠り所。
何があっても守りたい命であることに、何ら変わりにない。だから私はネコちゃんは、自分たちの娘だと思ってる。
人並みに仕事してお金稼いで生活することさえ出来ない、体弱い私が、ママになれた。
この出会いや、同じようにネコちゃんに愛を注いでくれる夫に、感謝している。
人間の子供産めなくても、ママになれるって、過去の私に言ってあげたい。
ちょっと人間の言葉通じなくて、ちょっと体毛濃くて、ちょっと乾燥してるカリカリフード食べる子供だけど。
それから、ちょっと人間より機敏で、一瞬でとんかつやコロッケを夫から奪う子だけど。
あと、先に死んじゃう儚い命らしいけど。
でもね、めっちゃ愛しい娘なんだよって、安心していいよって、言ってあげたい。
大丈夫だよ、ママになれるよって言って、背中に手を置いてあげたい。