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告白

「お兄ちゃん、朝ですよー!」

 扉の前でリンカの声が響き渡る。

 リンカの甲高い声も次第にミコトは鬱陶しいと思うようになってしまっていた。

 ――布団から起き上がるのも辛い……。学校……休もうかな……。

「お兄ちゃん、朝ご飯ですよー」

 甲高い声でリンカは再びミコトに告げた。

「どうせ、また……ノノちゃん風味だろ?」

 ミコトはノノちゃん風味の料理を食べたいと思わなかった。

「そうですけど……あ、マドカちゃん来ましたよ!」

 それを聞いてミコトは仕方なく体を起こし上げた。

「……今日は朝飯いらないから」

 カーテンの合間から微かに漏れる日差しがミコトの顔を照らした。ミコトは太陽の熱を感じ、うんざりしながら学校へ行く準備をした。

「今日のお兄ちゃんは元気がないですね……」

 リンカは少し寂しげな表情でミコトの背中を目で追った。

「おはよう、ミコト」

 玄関で待っていたマドカが扉を開けて挨拶をした。

「……明日から迎えに来なくていいから」

 ミコトはぶっきらぼうに告げると、玄関へと歩き出した。

 この狂った世界の当たり前のような日常にミコトは苛立ちを感じた。

「どうしたの?急に」

 後を追うマドカは、状況を飲み込むことが出来ず不思議な表情を浮かべる。

「どうせ、あの世界の思い出を話したところで、マドカはわかってくれないんだろ?フェンダーもタソもミドリのこともどうせ忘れているんだろ?」

 ミコトがマドカに向かって叫ぶように聞いた。

 それを聞いたマドカは、立ち止まった。そして、下唇を軽く噛んで静かに口を開きだした。

「……ミコト、今日放課後、屋上に来てちょうだい」

 ミコトは足を止めてマドカの顔を見た。

「……屋上?」

「……話をするわ」

 そう言うと、マドカは再び歩きだした。

 ――話?一体何の?

 ミコトは不思議に思った。

「手、良いかしら」

 マドカはミコトと手を繋ぎたかった。

「あ、ああ」

 ミコトはマドカの手を軽く握り、再び歩き出した。


 放課後、ミコトは屋上へと向かった。

 屋上の入り口のドアを引くと、新しい風が吹いてきて、ミコトの髪を揺らした。

 ミコトは屋上を見渡した。フェンスの直ぐ傍にマドカの後ろ姿が見えた。

 マドカの履くスカートの裾がひらひらと風で揺れて、透き通る髪の毛が奇麗になびいていた。

「待たせた」

 ミコトはマドカの後ろ姿に向けて言った。

「ミコト、来たわね」

 マドカはそう言ってミコトの方へ振り向いた。

「……話って?」

 まだミコトの憂鬱な気持ちは晴れていない。

「屋上にまで呼び出して悪いわね」

 マドカが近づいてくる。

 そして、言った。

「SPACE‐F‐の思い出、私、忘れてなんかいないの。寧ろ、鮮明に覚えているわ。タソも、フェンダーもミドリもとても大切な仲間。……そして、仲間であるミコトのことを好きになってしまったみたい……いいえ、好きよ。好きなの。もっとそばに居たかった……でも、それも無理のようね。私のわがままでこの世界にひびが入ってしまったわ……」

 マドカの姿は海鳥のようにどことなく儚かった。

 マドカは続けて言った。

「この世界は全て私のわがままで出来ているの」

 それを聞いたミコトは真剣な表情に変わった。

「……一体」

 下唇を軽く噛んでマドカは言った。

「これ以上は深く詮索しないでほしいの。……これ以上知ってしまうとミコトが消えてしまうから……もう、何も言えないわ」

 そして、マドカはミコトの唇に自分の唇を重ねた。

 それは、突然のことで、ミコトは自然とキスを受け入れてしまった。

「マドカ……‼」

 ミコトは咄嗟にマドカの名前を呼んだ。

「それでは、ミコト、さようなら。ミコト、貴方が好き……」

 マドカはそう言うと、静かに屋上から去っていった。

 ミコトは何も言えなかった。言えないまま、時が勝手に過ぎていき、気が付けばマドカはもう屋上にはいなかった。


 ミコトは家に着くと、小さく「ただいま」と言い、玄関で靴を脱いだ。

 リンカの甲高い声が聞こえてこない。どうやら、リンカはまだ帰ってきていないようだ。

 ミコトは静かに階段を上った。

 屋上で交わしたキスの感触が仄かに残っていた。ミコトは自分の唇を触って、さっきのキスは本当だったのかと確認した。唇に触れた指を見ると薄桃色のリップが付いていた。

 ――マドカが俺を好きだったなんて、知らなかった……。

 ミコトはキスを思い出して、ほんの僅かだが胸が騒いだ。そのまま、ベッドに仰向けにダイブして天井を見つめた。そして、ポケットからスマートフォンを取り出して、ワンマカの金色アイテムのキーホルダーを眺めた。

 ――あの時交換したワンマカのキー、俺が持っているのが青色じゃなくて金色ってことは、俺達、繋がっているんだよな……、レノ……あの時、俺達は一体、どうしたら良かったんだ……?

 ミコトは金色のキーホルダーを眺めて、キーホルダーを人差し指で軽く揺らした。

 左右にキーホルダーが揺れていく。

 右、左、右、左……右……左……右……左――

 ――なんだか催眠術にかかりそうな感覚だ……眠い……。

 気が付けばミコトはベッドで目を閉じて眠りについていた。 


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