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死ねない魔女と死にたい王子の婚約譚  作者: 国城 花
第一章 出会いと婚約
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5話 魔法


「では、殿下はどの程度魔法が使えますか?」


さっそく魔法を教えることにしたセシーリアは、まずは基礎的なことを確認していく。


「火、水、風、土の魔法は一通りできる」


アルノルドは「ブラン(火よ)」と呪文を唱え、テーブルの上の蝋燭に火を灯す。


「魔法は、何を使い、どのように発現させますか?」

「体に巡る魔力を使って、呪文を唱えることで魔法を発現させる」


セシーリアは頷く。


「今の魔法は、その認識で間違いありません」

「昔は違ったのか?」


セシーリアはすっと手を伸ばすと、アルノルドと同じく「ブラン(火よ)」と唱える。

蝋燭は火で包み込まれると、一瞬で溶けて消えた。


「………!」


同じ呪文なのにその威力の違いに、アルノルドとユーリーンは驚くしかなかった。


「魔素というものを知っていますか?」

「いや、初めて聞いた」

「人や動物、魔物や植物などは少なからず魔力を持っています。それは生まれつきのものであり、人によって量は異なります」


体を動かす力やものを覚える力と同じように、個人差がある。

訓練次第では増やすこともできるが、それには限界がある。


セシーリアは、テーブルの上にあるティーカップを指さす。


「人の体の中には、このティーカップのように魔力をためる場所があります。今の魔法はこのティーカップの中にある魔力を使って、魔法を使います」


体の中の魔力しか使えないから、魔力を多く使う魔法は使えない。


「魔素というのは、この世界に満ちている魔力の欠片のようなものです。昔の魔法使いは、この魔素と自分の魔力を組み合わせて魔法を使っていました」


魔素は、体の中の魔力より圧倒的に量が多い。

それを上手く使うことで、大量に魔力を消費する魔法も使えたのだ。


「魔素というものは、どこにでもあるのか?」

「多い場所や少ない場所はありますが、基本的にはどこにでもあります」

「ここにも?」


セシーリアが軽く手を振ると、その周りがキラキラと輝く。

太陽の光に当たった、とても小さな雪が舞っているようだった。


「これが魔素です」


アルノルドが瞬きすると、それは消えた。


「見えなくなった…」

「今は、魔素に色を付けただけです。訓練すれば、見えるようになります」


少しがっかりした様子のアルノルドは、さっきの光を思い出すように目を細める。


「魔素というものは…どこから来ているんだ?」

「世界樹と呼ばれる木から発せられていると考えられています」

「世界樹…?」

「私も見たことがないので、真偽は分かりません」


この世界を支えるほど大きな木だという説もあるが、今までに見つけた者はいない。


「魔素を使うことで、強い魔法も使えるということか」

「失われた魔法と呼ばれるもののほとんどは、魔素を使う魔法です」

「私も、魔素を使えるようになるのか?」

「訓練すれば、使えるようにはなりますけど…」


セシーリアは、少し嫌な流れになってきたことに気付く。

そんなセシーリアに、アルノルドは満面の笑みで微笑む。


「では、私にその訓練をつけてほしい」

「…さすがに、王城ではできません」


誰が見ているか分からないここでは、魔法をむやみに使えない。

アルノルドは少し考えると、良いことを思いついたように笑顔になる。


「では、今度遠駆けに行こう」


どこまでも行動的な王子に、セシーリアは呆れつつも断ることはできなかった。




それから数日後、側近を連れたアルノルドとセシーリアは馬に乗っていた。

目的地は、王城から少し離れた森にある湖である。

人気のない場所なので、誰にも見つからないということらしい。


『失われた魔法を教わって、どうするのか』


今はもう、使える人などいない魔法である。

賢者が危険な魔法を禁じてから、人々は生活に必要な魔法だけを使った。


火の魔法で暖炉に火を灯し、水の魔法で水差しに水を入れる。

風の魔法で重いものを浮かし、土の魔法で壁を築く。

魔法使いと呼ばれる人々は消え、王国を守るのは騎士団のみとなった。


そんな平和ぼけした国でも隣国から攻め入れられることがないのは、四方を高い山で囲まれているからである。

山の頂上は1年中雪が解けることがなく、山を越えようとして命を落とした者も多い。

賢者がこの国を守るために作った壁は、この4つの山だと言われている。

魔物も多く住み、軍勢が超えられることのない山に守られ、この王国は争いに巻き込まれずにいるのだ。


いつまで続くかも分からない平穏に慣れ、自ら学ぶことも放棄した者たち。

無知は罪だ。

特に、為政者は。


『だから私は、この男に魔法を教えているのだろうか』



「セシーリア嬢。着いたぞ」


アルノルドの声に顔を上げると、森が開ける。

水面がキラキラと輝き、静かな風が流れる。

緑あふれる森に囲まれた、美しい湖だった。


今日も供として着いてきているユーリーンがお茶の用意をしている。

どうやら、昼食も持ってきているらしい。

冷たい容姿と口調のわりには、家庭的な男性である。


「では、さっそくご教授願いたい」


太陽の光を受けて輝く水面のように、アルノルドの瞳も輝いている。

どんな理由があるのかは分からないが、魔法を知りたいという純粋な思いがあることが窺える。


空色の瞳に映された純粋な好奇心に、セシーリアは小さく微笑んだ。




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